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召還社畜と魔法の豪邸  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第五章 空は近く、望は遠く
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おなかがいたい

 塗料を犬小屋にぬる。買うことができたのは、濃いピンクと白の塗料だけだった。

 ペタペタと塗っていく。

 念力の魔法は便利だ。手を触れずに犬小屋をクルクルと回すように動かせる。

 塗りやすいように犬小屋を動かしていく。

 今はノアが壁を一生懸命に塗っていた。その様子が可愛らしいのもあって、皆が囲んで成り行きを見守っている。


「あぁ」


 ロンロが声をあげる。

 勢い余って、ノアがペタリと塗ったばかりのところへ手をついてしまった。

 ピンクの屋根に可愛らしい手型が残った。


「あっはっは、ノアノアの手型だ。かわいい」


 ミズキが爆笑している。確かに、犬小屋の屋根に花柄のように残った手型は可愛く見える。


「ミズキったら……そんなに笑わなくても。でも屋根の手型はかわいいです。残しておきたいと思います。思いません?」

「そうそう。ノアノア、これ残そうよ。あー、お腹が痛い」


 何がそんなに受けたのか、先ほどからミズキは爆笑しっぱなしだ。


「もぅ」


 ノアは、そんなミズキの態度に憤慨して、ペタリと手型を塗りつぶしてしまった。


「……もったいない」


 カガミがぼそりと呟く。

 確かに少し惜しいが、ノアがやりたいようにやればいい話だ。

 お昼過ぎには、塗りおえた。

 ピンクの屋根に白い壁の可愛らしい犬小屋だ。

 プレインが作ったサンドイッチ片手に、できあがりを皆で眺めて話し合う。


「良いできっスね」

「あのお手々が残ってたら最高だったのに」

「いいの!」

「ノアノアが、いらないならしょうが無いか」

「お嬢様の作った表札も可愛らちいです」


 そんな品評をよそに、ハロルドはチロチロと犬小屋をみてノアをみてと、交互に見ている。


「乾いたらできあがりだから、ハロルドも楽しみにお休みしててね」

「ワンワン」


 次の日、乾いた犬小屋にハロルドを連れて行く。ノアと分かれるのが嫌だったのだろうか、中に入るのを躊躇していた。しばらくすると、ジッとノアに見られるなか、ようやく中にはいってくつろぎはじめた。


「よかった、ハロルドが嫌だったのかと思ったの」


 そんなことを、笑ってオレを見ていった。

 あとはいつも通りだ。

 のんびりと過ごす日々が数日続いた。


「今度はね、ハロルドにマントを作ってあげるの」

「マント?」

「うん、ミズキお姉ちゃんがね、冬は寒いから、マントを作ってあげようって」


 マントで寒さがしのげるのかどうか知らないが、ノアは新しい構想を身振り手振りで説明してくれた。赤くてハロルドという名前が刺繍されたマントを作るらしい。

 皆が好き勝手して、ノアが楽しければ問題なしだ。

 オレもグータラな日々を過ごす。たまに狩りにいくが、成果はゼロが続く。

 最初は皆が成果を聞いてくれていたが、昨日、一昨日は聞いてくれなかった。

 きっと成果ゼロだと決めつけているのだ。失礼な奴らだ。まぁ、もっとも、ゼロなんだけど。

 ともかく、平和な日々が続いた。


「いない」


 そんな日々は、この一言でかわった。

 それはノアの小さなつぶやきだった。

 子犬のハロルドがいなくなった。

 皆で探す。幸いなことに、トッキーとピッキーも帰っている時だったので、フルメンバーだ。ロンロは空から、ミズキには屋敷の外も探しにいってもらった。

 昼を過ぎても、見当たらなかった。


「大丈夫、きっと見つかるよ」

「うん」


 ノアはハロルドがいなくなって、とても落ち込んでいた。


「魔法でなんとかできないか調べてみる」

「ブラウニーさん達にもお願いしようと思います」


 サムソンとカガミが魔法で探すことを提案し、すぐに実行へ移す。


「もう一度探してみるっス」


 残りは、今まで通りだ。もう一度念入りに探すことにする。

 そうやって、役割分担を話しあっていたときだ。

 ノアが何かに気がついたようで、何処かに駆けていった。

 皆でついていく、ついたのはノアの部屋だ。

 自分の部屋を探すのかと思ったが、そうではなかった。

 ノアは、大事にしていた自身のバッグをゴソゴソと漁り始めた。


「ノアノアどうしたの?」


 そんなミズキの言葉も聞こえないように、何かを一心不乱にさがしつづけ……そして、唐突に探すのをやめた。


「あの……あのね」


 ノアがこちらを振り向いた。目にいっぱい涙をためて、口をパクパクさせた。まるで何かを伝えたいかのように。


「ノア、どうしたんだ? 何があったのかおしえてくれるかい?」


 オレのその問いには答えずに、じっとオレ達を見ていた。

 どれくらいの間かわからないが、それも突然終わりを告げる。

 再度、バッグに手を伸ばしたかと思うと、小瓶を手に取った。

 エリクサーの入った小瓶だ。ぐっと飲み干す。

 ノアの体が光に包まれた。


「ノアノア……どこか痛いの?」


 ミズキの不安げな問いかけに、少しだけノアは微笑んだ。

 ただし、それは精一杯の作り笑顔のようで、すぐに苦痛に顔をゆがめる。


「どうしよう……、お薬飲んでも……お腹が痛いのが治らない」


 涙をポロポロと流しながら、絞り出すように声をだして、ノアはしゃがみこんでしまった。

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