ちりゅう
ハロルドがキャンキャンとうるさく吠える。
呪いを解除しろということだろう。
「ノア。お願い」
小声でノアにハロルドの呪いを解除するよう伝える。
「地竜は、魔法が一切通じません。体にまとう岩のようなうろこが魔法をはじいてしまうのです」
アンクホルタが言う。
確かに魔法が通じないのであれば、手は限られる。
「加えて、高熱のガスをまき散らし、口からは毒を吐き出す」
ウートカルデが、アンクホルタの解説に、付け加えた。
魔法は効かず、高熱のガスをまき散らし、毒を吐く。
手口が多彩で、皆が警戒する理由がよく分かる。
だが、地竜の恐ろしさはそれだけではなかった。
「潜った!」
地竜はオレの予想を超えた動きをした。
軽く飛び上がったと思った直後、地面に潜ったのだ。
『ゴゴ……ゴゴゴ』
小さな地響きが辺り一面に響く。
「マジか……地中を動くのか」
サムソンが驚きの声をあげる。
しばらく小さな地響きの続く、不気味な沈黙の時間が過ぎる。
「サムソン殿!」
ハロルドの声でそれは破られた。
次の瞬間、目に飛び込んだのはサムソンをわきに抱え、前方へ跳躍するハロルドの姿。
そして、先ほどまでサムソンのいた場所、その足下から飛び出してきた地竜の姿だ。
ハロルドが助けなければ、地中から飛び上がってきた地竜に、サムソンはやられていた。
しかも、地竜は恐ろしいスピードで地中を動く。
地面から飛び出て、オレ達の頭上を飛び越えたかと思うと、また地面へと潜った。
とんでもない大きさの地竜が頭上をかすめ飛び越える様子は圧巻だ。
だいたい2トントラック、大型のバスくらいあったな。
「誰だ! アイツは?」
「彼は味方です。ウートカルデ様」
ハロルドを見て、声をあげたウートカルデにカガミが答える。
あらかじめハロルドの事を伝えておいたほうがよかったかもしれない。
「ヒューレイスト! 貴方を狙っています。後へ跳んで!」
アンクホルタが叫ぶ。
それとほぼ同時にヒューレイストは後へと飛び、その少しあと地竜が地面から飛び出た。
地竜は、その魚のようなえらから、真っ赤なガスを吹き出し、そのまま天井へと潜る。
パラパラと天井の土が落ちてくる。
よく見ると、この場所は地面も天井も、全てが土壁だ。
土の中を潜り移動する地竜にとって、ホームグラウンド。ヤツは、自由自在に好き勝手に移動し、オレ達に不意打ちできるということになる。
「バラバラに散らばるでござる!」
ハロルドの大声が響く。
「バラバラに?」
「一人だけなら、拙者がなんとかできるでござる。だが、2人同時に狙われるのはまずいでござるよ!」
なるほど。さっきのサムソンのように助けてくれるというわけか。
それにしても、地竜ってやつは、素早いな。しかも地中に潜るとは。
魔導弓タイマーネタで一撃だろうと思っていたが、あれでは狙いがつけられない。
「ミズキ様! 後に!」
「ミズキ殿!」
そんなことを考えている瞬間にも、今度は頭上から地竜が落ちてくる。
アンクホルタとハロルドの声が重なる。
『ガリガリガリ』
ミズキは、後に跳びつつ、頭上から落ちてきた地竜とすれ違いざま、剣で切りつけていた。
地竜のうろこと、ミズキの剣がぶつかり、火花が散った。
「うへぇ。堅ったい!」
反射神経が凄いな。オレだったら避けるだけで精一杯だ。
「私がやる!」
ん?
ウートカルデの声だ。
私がやる?
「いけません! ここは瘴気が濃い」
「だが、お嬢! 誰かがやらねば!」
「ですが」
「ここまで来たのは、すばらしい事だ。何としても成さねばならん」
「私がやるしかありません! お嬢や、ヒューレイストより、私が適任!」
「ですが、瘴気が!」
側で、3人の話し声が聞こえる。
何の話だろうか、オレ達にハロルドという切り札があるように、アンクホルタ達にも切り札があるのだろうか。
だが、何をやるにしても、姿が捉えられないとなんともならないだろう。
攻撃の時だけ、姿を現して、移動中は地中にいる敵。
「あほうが!」
今度はハロルドが狙われたようだ。
地中から姿を現した地竜へ、待ち構えていたかのように剣を振り下ろした姿が見えた。
「ガァオゥ」
地竜の叫び声がして、ハロルドの一撃が効いていることが分かった。
「浅いか!」
だが、ハロルドには納得がいかなかったようだ。悔しそうな声をあげていた。
それからも、地竜の猛攻は続く。
ハロルドとアンクホルタが的確に次に狙われる人を言い当てるので、なんとか逃げ切れている。
最初はノアが心配だったが、オレ達よりもよっぽど上手く避けていた。
オレ達のプレゼントした魔法の服を着て、踊るように避ける姿はとても様になっている。
加えて、ノアが狙われる度に、ハロルドが無理矢理でも攻撃していた。そのおかげで、地竜はノアを狙わなくなった。
アンクホルタ達は話をしながら戦っている。
少し揉めているようだ。
ウートカルデが何かをしかけようとしているのを、アンクホルタが止めているようだ。
「だが! 誰かがなんとかしなくては!」
しびれを切らしたかのような、ウートカルデの言葉がより大きく響いた。
確かに、このままでは不味い。
すでにサムソンが息を切らせている。
身体強化の魔法で動きは素早いが、この緊張感だ。体力の消耗が激しい。
近いうちに限界がくる。
「あいつを地中からつり上げればなんとかできるのに!」
ミズキの悔しそうな言葉が聞こえた。
つり上げるか……確かに、地中にいられるのは面倒だ。
地中?
いいことを思いついた。なんとかなるかもしれない。




