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召還社畜と魔法の豪邸  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第十四章 異質なるモノ、人心を惑わす
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うさぎにのったおとこのひと

 大平原の旅は順調に続いた。

 順調すぎるくらい順調だったので、ついつい気が緩む。

 昨日はずいぶんとのんびり夜遅くまで起きていたので、朝寝坊してしまったようだ。


「では、行きますゾ」


 イアメスの掛け声で目が覚める。

 海亀の背にある小屋の二階から外を見ると、イアメスが勇ましい掛け声と共にハロルドへ剣を突き立てていた。

 トッキーとピッキー、そしてミズキにノアが遠巻きに彼ら2人を眺めている。楽しげな雰囲気から争っている様子はない。

 何やってるんだろ。

 気になったので、外へ出て近くで見ることにした。


「うむ。その調子で打ち込むでござるよ」


 よく見ると、ハロルドはイアメスに稽古をつけているようだ。

 カンカンと金属の打ち付ける音が響く。イアメスは結構必死になって剣を突き立てているが、ハロルドはそれを軽くいなしている。見るからに実力の差は歴然としていた。


「んなんな!」

「なかなかの太刀筋」

「んな! んな!」


 イアメスの掛け声は独特だな。


「うむ。イアメス殿は前のめりに過ぎてるように感じるでござる」

「前のめりですか?」


 イアメスの剣を軽くいなしたかと思うと、くるりと体を回し、トンとイアメスの肩をハロルドが押した。流れるような動きで肩を押されたイアメスは、よろめき倒れる。


「こうやるでござるよ」


 そういったかと思うと、ハロルドは何かのステップを踏んだ。


「もう1度やるでござるな」


 ハロルドは、さらにもう一回ゆっくりと足を動かす。

 それから剣をぐいっと前に突き立てる動作をした。


「なるほど……」

「では、先の動きを拙者めがけてやってみるでござるよ?」


 軽く頷いたイアメスが立ち上がり剣を構える。ヒュンヒュンと剣を数回振り回した後、先程のハロルドを真似て足運びをし、剣を突き立てる。先程の剣戟とは全く違う、身体をしならせるような動きで、イアメスの剣はハロルドの体を捉えた。


「おっとっと」


 剣をブンと大きく振り回したあと、ハロルドは後ろへと飛び退き笑った。


「これはもしや……」


 剣を突き出した格好のまま、イアメスが言葉を発する。


「そうでござる。これはかの金獅子という一団が使っていた剣技でござるよ。イアメス殿は筋が良い。簡単にモノにできたでござるな」

「次は私!」


 ノアが手を上げる。


「では、次は姫様でござるな。かかって参られい」


 今度はノアが相手になるらしい。ノアは短剣を手に持ちくるりと体を回転させて、ハロルドに斬り掛かる。遠心力を利用した動きが鋭い。

 ハロルドはそれを余裕な様子で受け止め。そして弾き返した。


「その調子でござる」

「えい!」


 ハロルドに言われて、またすぐにノアは地面に伏せるように身体を倒したかと思うと、足で地面を蹴った。そのまま剣を下から上へ振り上げる。

 ニコリと笑ったハロルドはその攻撃を手で受け止め「ハハハ」と笑った。


「あ!」

「大丈夫でござるよ。姫様。先程の動きは、ラノーラ殿の足運びでござるな。なかなかのものでござった。では、姫様こういう風に」


 そう言ってハロルドは剣を振り回す。

 その動きを見てノアは何かを感じ取ったのか、同じように剣を振り回した。


「そうでござる。これからしばらくはそういう風に剣を回す稽古をするでござるよ」


 あんな動きだけでノアは自分が何をすればいいのかを掴んだのか。

 なんだかどんどん上達していくな。

 それからハロルドはイアメスに向き直った。


「何ですか?」

「うむ、少しトッキーとピッキー、それに姫様に稽古をつけてあげてほしいでござる。拙者以外の者の太刀筋を見るというのもなかなかの稽古になるでござるからな」

「分かりましたゾ」


 そう言って、イアメスは大きく頷いた。


「リーダ」


 その様子に満足げに頷いた後、小屋から出て柵に手をつき見ていたオレを見つけて、ハロルドが近寄ってきた。


「朝から元気だな」

「たまには身体を動かさねばなまってしまうでござるよ」

「イアメスに稽古をつけてたのは?」

「実力の差を分からせるというのがひとつ。それから、ちょっとした礼でござるよ」

「礼?」

「ピッキーから聞いたでござるが、姫様の誕生日プレゼントを作るのを手伝ってるらしいでござる」

「そんなことしてたのか」

「ヌネフ殿も、もう悪意を感じないと言っていたので、これくらいの礼はよかろうと考えたでござる」


 あいつ、本当に馴染んでいるよな。


「ノアのプレゼントを作るのも手伝っていたというのは予想外だよ」

「悪意が無くなったことといい、カガミ殿の機転が利いたということでござろう」


 あれが機転とは思ってはいないが、とりあえずハロルドの言葉に頷いておく。


「まぁ、無事に道案内をしてくれれば問題ないよ」


 ノアの楽しそうな声と、ピッキー達の掛け声、そしてイアメスの何やら色々と説明する言葉をバックに、ハロルドとそんな話をする。

 いい匂いがしてきた。

 今日はプレインが朝食を作っているようだ。

 あいつの朝食は見なくてもだいたいわかる。

 どうせマヨネーズだ。

 何かしらマヨネーズを使っている。

 別にマヨネーズが嫌いってわけではないからいいのだけれども、あいつ本当に好きだよなと思ったりする。

 予想通りマヨネーズをふんだんに使った朝ごはんを食べる。

 いつも朝食を作ってくれていたカガミが魔法にかかりきりなので、皆で料理を分担している。

 明日はオレが作ることにしよう。

 オレが朝食を作ると、毎度毎度皆が驚くし、ノアが美味しいと褒めてくれるのでやる気がでる。だからと言って毎朝作る気にはなれない。朝は眠い。

 そんなカガミはサムソンと一緒にずっと魔法を作っている。

 だいぶ出来上がってきた。試着はカガミとミズキがやって、皆で批評する。背中の大きなリボンがパッと見、アニメで出てくる魔法少女っぽい風貌の服だ。もっとも、ノアは魔法が使える少女で、魔法少女というのは嘘ではないので、問題ない。

 デザインに凝りすぎたようで、使う魔力量も多い。

 1日に3回が限界ということだ。オレ達では魔力が厳しくてもノアなら楽勝だろう。だが、試行錯誤が必要な製作段階での燃費の悪さは少々きつい。

 しかも計算式をミスると1部がうまく生成されないそうだ。

 サムソンが言うには、3Dゲームのポリゴン欠けのような状況が発生するらしい。

 そんなわけで、試着しチェックするカガミとミズキの責任は重大だ。


「ごちそうさまっと、トッキーピッキーお願い」


 食事が終わり、ミズキの掛け声でトッキーとピッキーがパタパタと動く。

 変形させた小屋を元に戻して出発する。

 というのも、海亀を止めて夜休む時、この小屋は変形し床が広がるようにできている。結果、寝室が大きく取れて、ゆったりと休めるのだ。

 それまでは、手狭な小屋で寝るか、テントを海亀の側に設置するかしていたが、やはり家でゆったり寝られるのは最高だ。

 トッキー、ピッキー様々だ。

 寝床をカチカチと片付けていって、小屋を元に戻して出発の準備が終わる。


「出発進行!」


 ピッキーの掛け声がこだまする。

 誰から習ったのか知らないがピッキーは、最近出発の時にこういう掛け声と共に進む。

 その誇らしげな様子が、微笑ましいので結構気に入っている。

 トッコトッコと軽快な調子で、海亀が走り出す。

 飛翔魔法になれた海亀は、亀とは思えないような足取りで軽快に前に進む。

 ロバに横乗りになったミズキが海亀に併走する。そして海亀の前にはイアメスが、馬を走らせ先導する。

 朝食から全て、ここ最近の見慣れた様子だ。

 いつも通り進んでいく。

 ところが……。


「こんにちは」

「変な奴だ」

「変なのだー」


 今日は、少し違った。

 人に会ったのだ。


「可愛い!」


 ミズキが嬉しそうな声を上げる。

 いつの間にかすぐ側まで来ていた2匹の巨大ウサギ。

 そして、その背には1人の優しそうな男性と、2人の女の子が乗っていた。

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