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召還社畜と魔法の豪邸  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第十三章 肉が離れて実が来る
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もりのおんがく

 それから2日はダラダラと過ごした。

 思ったよりも、ハイエルフの里が先日の騒動で受けた被害は大したことがなかったようだ。

 2日目には、いつものように穏やかなハイエルフの里に戻っていた。

 選択肢が多いというのも、なかなか困りもので、報酬に何をもらうのかを決めあぐねていた。


「もっと気楽に考えてもらえればいいんですよ。いざとなれば全部差し上げても私達は惜しくないと思ってますしね」


 そんなことをシューヌピアが言った。

 ノアは長老から星落としに関する本をもらうそうだ。


「いま、皆で手分けして取りまとめておる。表紙の装丁が見事ないい本になりそうじゃよ」


 現在進行形で作成中と長老が言った。凄いなオーダーメイドか。


「魔導具の作り方がわかる本……というのがあれば見せていただきたいのですが?」


 星落としに関する本を用意しているという会話の中で、そう申し出たサムソンは、ハイエルフの書庫を案内してもらった。結局2日間、彼はその場所へ入り浸りだったが、魔導具に関する本はオレ達が所有する本にあるもの以上のものはなかったらしい。

 やはり、あの屋敷にあるものはどれもこれも凄いものばかりということか。

 とりあえず最終的には髪の長さを変えられる髪飾り、それにくるまれるとふかふかになる布、そして不思議なブローチをもらう。

 魔法のブローチ。シューヌピアが手を振って魔道書を出していたアレだ。

 ジェスチャーで思ったように動く魔法の本が現れるらしい。

 現れる本は最初は真っ白で、使用者しか中身を書くことができないそうだ。

 ハイエルフ達にとっては、一般的な道具らしい。「あんなものが?」というシューヌピアの反応に驚く。

 硬貨より一回り大きい程度の小さい木製のブローチ。別にブローチでなくてもある程度の色々なものに加工してくれるという。例えばボタンやベルトのバックル。

 俺はマントの留め具にしてもらう。

 他の同僚も、思い思いに自分が身につけやすいものを希望した。

 ノアもマントの留め具にするそうだ。


「リーダとおそろい」


 そんな嬉しいことを言ってくれた。

 ちなみにオレとノアのマントの留め具はカスピタータが、トレショートカジャカの万年氷を使って氷の彫刻をはめ込んだ物にしてくれた。

 なんでも万年氷というのは決して解けないと言われている氷だそうだ。

 世界樹の枝から切り出した木片を彫り込んで、そこに万年氷を削って作った彫刻をはめ込む。魔法関係なく凄く立派な装飾品だ。これだけでも、相当高価な代物じゃないかと思う。

 そうやって労働に対する十分な対価を得て、予想すらしていなかった神秘的な風景を眺めて、ハイエルフの里での日々を過ごした。

 そして、里を去る日。


「では、見送りに、旅の無事を願って音楽を送ろう」


 最初の出会いは最悪だったが、それからは人のいいおじさんだったトゥンヘルがそう申し出た。


「ハイエルフの里、皆の総意だ。ちょっとした見送りの歌だ」


 ハイエルフ達が総出で音楽をプレゼントしてくれるという。

 そうして行われた見送りも兼ねての、森の演奏。

 ところが最初にアクシデントというか、ちょっとした出来事があった。

 長老の家の前にあるちょっとした広場に皆が集まる。

 ハイエルフ達は器用なもので、周りを取り囲む世界樹の枝に座ったり立ったりと立体的に皆が集まっていた。

 逆に、広場の中央がぽっかりと空いていた。


「さて、誰が最初の音を鳴らすかだな」

「最初に奏でるのは誰がいいかな」


 そんな話を始めだした。

 ハイエルフ達を音を合わせるかのように、それぞれが小さく楽器を鳴らす。

 だが、音楽は始まらない。

 しばらくそんな時間が続いたが、最終的には、シューヌピアが横笛を持って1人前へ進み、澄んだ音色を立てた。

 あたり一帯に、思い思いの様子で集まっていたハイエルフ達がそれぞれの楽器で音を奏でる。

 ちょっとした音楽のプレゼントなどと言っていたが、とんでもない。

 世界樹全体が音を鳴らしてるかのような、オーケストラのように迫力のある壮大な音楽だ。

 ノアも、獣人達3人もびっくりしている。オレもその大迫力に驚きを隠せない。身体の芯から響くような音。それにもかかわらず、この音楽を聴きながらごろ寝でもしたいなと思わされる優しい音色。


「すご」


 ミズキも語彙を失った感想を漏らしている。


「綺麗な緑に囲まれて、こんな素敵な演奏を聴けるなんて」


 目を潤ませたカガミが呟く。

 皆が思い思いの素直な感想を言う。


「これはユクリンのデビュー曲。とびっきり初出勤に少し似てるな」


 約一名、雰囲気ぶち壊しの感想を漏らしていたヤツもいたが、まぁそれもいいだろう。

 凄すぎて一生忘れることができないような、素晴らしい音楽だった。

 そう……音楽だったのだが、シューヌピアが最初に横笛を鳴らしたときに、そのアクシデントはあった。

 それは気がついた者は少なかったと思う。ささやかなアクシデント。

 別に放っておけばいいのだが、オレは見逃さなかった。

 開けた広場、まだ無人だったその場所に、小さなファンファーレが鳴り出す。

 そこにヌネフがゆっくりと降りようとしていた。

 タイミングが良いと言うか悪いと言うか、ちょうどそのタイミングでシューヌピアがふわりと飛び出て横笛を吹いたのだ。次の瞬間、ヌネフは無言で上に戻っていった。

 何事も無かったかのように、静かに、そそくさと。

 あいつ登場失敗しやがった。

 直感的にそう思った。

 さらに、それに気がついていたのはオレだけではなかった。モペアも気づいていて、長老の家の屋根で必死に声を噛み殺しながらゴロゴロと転がっていた。

 とはいえ、ちょっとしたアクシデントだ。別に誰にも迷惑をかけていない。

 ただ……多少、可哀そうに感じたので、ヌネフについては後で慰めてあげようと思う。

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