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召還社畜と魔法の豪邸  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第十一章 不思議な旅行者達
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うみがめ、どうしよう

 結局、漁師にいわれるまま金貨9枚で海亀を買う。

 おじいさんに宿にこいつを連れて行っていいかどうかを聞く。


「そりゃあまあ、厩舎は広いし構わんが」

「もしかして、この海亀って陸上じゃ長生きできないとか……そんなオチ、ないっスよね?」

「そんなことはないぞ。海亀っていうけれども、食べ物が海にしかないから海に住んでるだけで、一応陸でも動ける。実際に南の方では、コイツ……ノレッチャ亀に荷馬車をつけて荷物を運ばせたりしとるからの。どんなところでも歩ける、遅いが海も泳げる。こいつはなかなか便利な生き物じゃからな」


 食い物の問題さえカバーできれば、なかなか優秀なのか。動きが遅いので、その問題を解消できれば、旅のお供にも問題なさそうだ。


「なるほどねー。おじいちゃん、博識じゃん」

「カッカッ、わしは南の出身じゃからな」


 案内された宿は、立派な宿だった。灰色のレンガにも似た石を積み上げて作られた建物で、各部屋に大きなベランダがある。ベランダには観賞用の植物に、テーブルも備え付けられているのがわかる。壁面には木工細工の装飾があしらわれていておしゃれだ。


「雰囲気があって素敵ですね」

「かわいいよね」


 高級そうな見た目のとおり一泊銀貨20枚。


「結構高い……」

「いいじゃん。お金あるんだしさ。豪遊でしょ」


 そうだな。そんなに長居しないだろうし、問題ないか。

 この宿に決める。

 さっさと宿帳に記帳して、部屋へと案内してもらった。

 広くて開放感のある部屋だ。高いだけあって複数の部屋がある1フロアを貸し切ったような感じだ。

 ただし、超豪華というわけでもない。テーブルもベッドも、質素な感じ。だが、オレ達には豪奢なよりも質素な方が落ち着くので、問題ない。

 部屋にはいって、寝室にあったベッドにダイブする。

 わざわざ人数分のベッドが運びこまれていた。高いだけある。


「そういや、さっきのファンファーレよりも、前の方が厳かな感じがして良かったよ」


 ヌネフに、ファンファーレについての感想を伝える。というより、先ほどのファンファーレはうるさかった。


「ふむふむ。演出は大事ですからね」


 ヌネフは神妙な顔をして頷いていた。


「でさ、これからどうするの?」

「そうだな、何も考えずに、海亀買っちゃったけど。どうしよう。何かアイデアある?」


 歩くくらいのスピードは出ていたし、馬車でも引かせようかとは考えている。

 他の皆はどう考えているのだろう。カガミは何か考えているはず。

 ところが期待して、ちらりと様子をみたところ、彼女もまた首を傾げていた。

 まさかの、ノープラン!


「さっきのおじいさんが、酒場に行けば南方出身の人がいるから、その人に色々相談してみてはどうかって言ってたスよ」


 確かに、この海亀になじみのある人に話を聞くのはよさそうだ。オレ達が考えなかったような利用法を知っているかもしれない。

 実際の所、歩く程度のスピードなら普通に馬車を使った方がいい。

 宿の近くにあった酒場で、南方出身の人から話を聞くことにした。

 海亀の一件は、知られていて、あっさり話をしてくれる人を見つける。

 それも複数。

 もっとも、カガミとミズキ目当てだったけれど。


「いろんな使い方ができる」

「あぁ、そうだ。例えばあの甲羅の上に、荷物置けるように工具をつけるんだ」

「痛くないですか?」

「お姉ちゃんは優しいなぁ。いや、安心してくれ、そうでもないようだぞ」

「工具を付けて、その上に平らな板を張るんだ」

「そうそう。床板だな。さらに、荷台をつけたり、幌をつけたりと、亀の背中は便利なもんさ」

「床板ですか……そういうの取り付ける方法ってご存知なんですか? 知っていたら教えて欲しいと思うんです」

「一応知っているが……俺ひとりじゃどうしようもないな。一旦ギルドに声をかけて人を集めて、そっから職人に加工費用を払ってお願いするって流れだろうな」

「そっかぁ。加工費用ってさ、やっぱり高いの?」

「結構かかるな。人もなかなか集まらないだろう。そもそもだ。この辺じゃあ、ノレッチャ亀に細工できるヤツが少ない。希少な技術にはお金がたくさんかかる。当たり前のことだよ」


 なるほど。

 亀に荷馬車をひかせるというより、亀の甲羅に乗るという感じか。確かにあの大きさだったら、馬車まるごと乗りそうだ。


「もっとも、荷物を載せれば載せるほどやつらは動きが遅くなる」

「力が強いが、限度ってもんがあるからな」

「上に荷物が乗ってると、きっと辛いのでしょうね」

「あと、気分屋だからな、その辺の扱いは難しいかもしれんの」


 海亀について色々な話をする。

 南の国の話がほとんどだったが、海亀の多彩な利用法を聞く。海亀の背中に家をたてて住む人もいるとか、海亀を早く移動させるための、特殊な馬車があるとか、いろいろだ。


「すっごいね。他にもそういうのってあるの?」


 ミズキがお酌をしながら話をどんどん引き出す。コイツこういう場所での会話が上手いよな。

 そのうち南の方出身の男は何かに気づいたように、おもむろに立ち上がった。


「そうだ、ちょっと待っててくれ」


 そう言って酒場を出ていき、しばらくして戻ってきた。


「それは……絵本でしょうか?」

「ああ。ここにノレッチャ亀を使った色々な利用方法が書いてある」


 テーブルに置かれた本をカガミが開こうとした時に男が手を遮った。


「こっから先は買って読んでほしいんだぜ」

「なるほど、ただでは読ませてはくれないわけですね」

「まぁな。この本は貴重だしな、色がついている。そこでだ……そうだな、金貨二枚だ。あんた達、ギリアから来たんだろ。だからヨラン王国の金貨2枚だ」


 ずっとカガミとだけ話をしていた男は、はじめてオレ達を見回しニヤリと笑う。

 彼以外の男達は、少し興がそがれたように、不機嫌になった。

 綺麗なお姉ちゃんと楽しく飲んでいたのに、邪魔しやがってということなのだろうと思う。


「中身をちょっとめくってみないと、白紙っていうのは嫌だし」


 そんなことを言うと、向こうはパラパラとめくって見せてくれる。確かに海亀を色々な方法で使っている絵が描いてあった。


「まぁ、いっか」


 買おうとした時に酒場の入り口に子供がいるのが見えた。

 トコトコと酒屋に入っていき、男の足を掴む。


「父ちゃん。それ、おいらの」


 自分の本だと訴える子供の目には涙が浮かんでいた。

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