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召還社畜と魔法の豪邸  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第九章 ソノ名前はギリアを越えて
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ちかのへやをぬけて

 落ちて来た穴を登った途端、待ち伏せというのは困る。


「そういえば前から気になっていたでござるが、ロンロとは?」

「オレたちとノアにしか見えない不思議な人かな。それ以上はわからないんだ」

「あのね。ロンロは私にしか見えないって、ロンロが言っていたけど、リーダには見えるの」

「不思議な御仁でござるな」


 しばらく上を見上げていたら、ロンロが戻ってくる。


「ストリギの領主は、マンティコアを追って何処かに行っちゃったわぁ。とっても急いでたのねぇ。盗まれた箱、置きっ放しだったわぁ」


 浮遊の魔法を使い、ノアを抱えて浮かぶ。

 飛翔の魔法が使いたかったが、制限されていた。自由に空を飛ばれるのは、領主にとってはまずいらしい。

 たくさんの死体が転がっていて、うち1人がオレたちから箱を盗んだ人間だったようだ。上半身の半分が齧られたようになくなっていた。グロい。

 真っ赤な獣の足跡が先に続いていた。

 警戒しつつも急ぎあとを追う。


「結構歩くな」

「声が聞こえるね」


 ノアの言葉で、耳をすませると確かに人の声が聞こえる。

 さらに進み、螺旋階段がある小部屋についた。声は上から聞こえる。悲鳴や怒号、多くの人のざわめきだった。


「なるほど」

「何がなるほどなんだ、ハロルド」


 「これはおそらく領主の緊急時の脱出路でござるな。」


「へー」


 権力者は、緊急用に脱出路を持っているのが常だそうだ。主要な施設に繋がっていたりすることもよくあることで、その道を泥棒に利用されることもあるとか。

 そうであれば、脱出路を使っていた賊は、ブースハウルの配下って可能性もある。

 もっとも待ち伏せされていた時点で、薄々、領主の部下か何かだと思っていたけれど。

 螺旋階段を登りきり、頭上の扉を開けると、神殿のような建物にでた。周りがステンドグラスがはめられた壁に囲まれていて、薄暗く幻想的な雰囲気だ。

 たまに大きな振動があり、パラパラと粉が落ちてくる。崩れかけているのだろうか。

 喧騒は、この建物の外から聞こえてくる。


「とりあえず何が起こっているのか確認すべきでござるな」

「そうだな」


 早足で外に出る。


『ドーン』


 辺りに響き渡る大きな音がした。

 最初に映ったのは鎖で縛られたマンティコアだった。片目と胸元に大きな傷がついていて。体を鎖で雁字搦めにされていたにもかかわらず、必死に逃げようと、もがくように飛びまわっている。

 いや、周りの建物にぶつかりながら跳ね回っていると言ったほうが正しいのかもしれない。

 そんな数本の鎖を、煌びやかな鎧を纏った騎士達が引いている。ピンと伸びきった鎖を力一杯に引いて手繰り寄せようとする様子は、巨大な魚を釣り上げようとする漁師にも見えた。

 騎士達の後ろには剣を地面に突き刺し、仁王立ちで構えた公爵が立っている。


「まるで演習のようでござるな」

「あのマンティコアを練習台にしてるってことか?」

「そうでござる。よく見ると喉が潰されているでござる。つまり、あの騎士達の中には、労せずマンティコアの喉だけを潰せる技量を持った武人がいるということでござるよ」

「本気だったら、あんな鎖使わないで、さっさと始末していると?」

「そういうことでござる」


 この状況を演習にしていると……、力があるのに、町の人を助けようともしない状況に嫌な気分になる。


「ラノーラ!」


 マンティコアを警戒しつつ見ていると、別の方向から声が聞こえた。

 サムソンの声だ。屋根の上を這うように進んでいる。足がおぼつかない様子でふらつきながら進んでいた。

 彼の視線は、オレの頭上、大きなバッグを持ったストリギの領主ブースハウルを見ている。奴は、手に黒いロープを持っていた。薄手の白い服を着て、首に真っ黒いロープが首輪のように繋がれた女性を引っ張り何処かに行こうとしていた。

 その先、建築中の魔術師ギルドに設置された足場の端に、飛竜が見える。あれに乗って何処かに行こうとしているのか。

 どういう状況だ。

 叫び声や、怒号に悲鳴。おそらく混乱の元凶であろう暴れ回るマンティコアに、町の状況など目に入っていないストリギの領主ブースハウル。そしてサムソン。


「リーダ」


 カガミがオレの名前を呼びながら近づいてくる。

 額に傷がついていて、砂まみれだ。その顔は、痛みというか恐怖に歪み、涙のあとが残っている。


「今どういう状況だ? さっぱりわからない」

「リーダが、水に飛び込んだあと、他の箱を奪われかけたんです。それをミズキが追い払って、追いかけたら、声がして怖くなって、ミズキが、ミズキが……」

「とりあえず落ち着いて、ゆっくり」

「マンティコアの恐怖攻撃でござる。姫様、カガミ殿の手を握ってあげてくだされ」

「とりあえず、そこの物陰に、今どうなっているか教えてもらえるか」


 ろれつも怪しいカガミをなだめながら話を聞く。オレには何とも無かったし、ハロルドもノアも比較的落ち着いていたが、マンティコアの恐怖攻撃を受けた人間は、大抵こうなるようだ。

 オレが水路を進んでいた時、残りの箱を奪おうとした奴らをミズキが2人殴り倒したらしい。それからミズキを先頭に、撤退する奴らを追いかけていたところ、建築中の魔術師ギルドから一人の女性を引きずり奴らの仲間が待ち構えていたそうだ。


「女性って……あの? ブースハウルが捕らえている人?」

「えぇ、そう。ラノーラさん。彼女を人質にしていたの」


 そして、ラノーラを人質として、魔法陣をよこせとせまってきたのだとか。

 サムソンとカガミが引きつけ、プレインが公爵へと連絡に行き、ミズキが死角からラノーラを奪還。そんな計画を立てていたとき、魔術師ギルドからマンティコアが飛び出してきたらしい。


「最初に捕まえていた人は、飛び回っているあの魔物に食われて、ラノーラさんは逃げたんだけど、すぐに、あいつに捕まって……」


 マンティコアの出現で、状況が大きく変わるなか、マンティコアの叫び……恐怖攻撃でさらに状況が複雑になった。

 町の人は恐慌状況に陥り、同僚達は恐怖のあまり動けなくなった。特にミズキが酷い状態で、今はプレインがなんとかなだめているらしい。

 マンティコアはそんな中暴れ回り、何人も町の人が死んだそうだ。

 唯一マシな状態だったカガミは、当初の計画どおりサムソンと一緒にラノーラをなんとかしようとしていたところ、公爵の騎士がやってきて鎖に繋いだ。この場でけりをつけろという公爵の号令の下で始まった戦いが、今の状況らしい。


「では、マンティコアの喉を切ったのは?」

「騎士達の後ろにいる人」


 公爵か。うちの領主が、絶賛していただけあって強いようだ。

 そして、ハロルドの言葉が正しければ、騎士達の練習台にしているということになるわけで、あまり良い印象を受けない。


「どうしよう。リーダ。サムソンは私の言葉を聞いてくれないし、ミズキも、動けない……私じゃ駄目なんです」


 カガミの言葉で一斉に皆がオレをみる。


「オレとカガミで、サムソンをバックアップする。まずはラノーラを助けよう」

「拙者は?」

「ハロルドはノアを守っていてくれ。理由はどうであれストリギの領主に手を出すんだ。最悪のことは考えておきたい」


 ストリギの領主への干渉は最小限にとどめておきたい。目的はラノーラを救出すること。ゴーレムの納品に関する報酬として、ラノーラとマリーベルの身柄と、オレ達がこれから行うストリギの領主への攻撃に対する恩赦を要求する。

 失敗した場合は、一旦逃げて、次の手を考える。

 上手くいくかどうかはわからないが、ハロルドがいればノアはそこまで酷い事にはならないと思う。


「バックアップって何をすればいいんですか?」

「攻撃魔法は制限されている……カガミのオリジナル魔法で、使えそうなものある?」

「私……透明な壁をつくることくらいしか……ごめんなさい」


 そういえば、前に話をしていたときに壁をつくるといっていたな。そうして密閉した空間で眠り雲と痺れ雲で……そうか、後の二つはオリジナルじゃないのか。


「わかった。いま、マンティコアが暴れ回っているせいで、建物の破片が飛び交っている。それをその壁を作る魔法で路地に落ちないようにしてほしい」

「リーダはどうするんですか?」

「サムソンとは逆、領主の死角から近づいて、ラノーラを助ける……もしくは飛竜に攻撃を加える」

「そうねぇ。それじゃあ私ぃはぁ、サムソンに連絡してくるわねぇ」

「私は……」

「姫様は好きにすればいいでござるよ。最悪、リーダにそそのかされたと言えばいいでござる」

「そうだね。そうしよう。でも、ここから動かないでね」


 不安げなノアに、ハロルドの言うとおりだと伝える。

 そうして始まったラノーラの救出計画。

 計画どおり、領主の死角、魔術師ギルドの建物沿いを進む。

 あとは登り、ラノーラを引きずりゆっくり進む領主と、足場の端で座り込みキョロキョロとあたりを見回している飛竜。その間に躍り出ようと浮遊の魔法を唱えていたとき。

 ガァンとあたり一面に鈍く響く音がした。

 反射的に上を見る。

 今の音は、オレの頭上を、鎖でがんじがらめになったマンティコアが飛び跳ね、魔術師ギルドへぶち当たった音だった。

 その結果、高くそびえた魔術師ギルドの上層部が崩れだした。

他の3人がどういう状況だったのかについて、閑話という形であげる予定です。

早ければ、夕方頃にあげる事が出来れば良いな……なんて考えています。

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