たのわれ!
「おはよー!」
「お、おはよう」
登校のために家から出た矢先に待ち受けていたのは澤峰だった。
ストーカーしていたことが発覚してからというもの、自重するどころか今度は堂々と付きまとってくる様になったのである。
「こうも一日中付きまとわれるとさすがに困るんだけど」
「だって普通に接触する分にはいいって言ったじゃない?」
「確かにそうなんだけど・・・」
この前の会話のあと一方的に突き放すのはその後も顔を合わせる人間相手の場合気まずいので、儀礼的に「これからは普通に接してくれ」と言ったのが。よもやおはようからおやすみまでくっついてくるようになるとは。
おまけに勝手に他の生徒をよんで遊びに連れていかれる始末であった(どうやってか俺のシフトが入っていない日を選んでいるようで断れない状況を作ってくるから恐ろしい限りだ)。
いくらなんでも私生活にまで介入されることは我慢ならない。多少禍根がのころうともハッキリ言わなくては。しかし、そうは思うものの情けないことに自分は人に強く言うのが苦手で未だに言うことが出来てなかった。
「ねぇ、誠一?ねぇってば!」
「お、おう。なんだ?」
基本的に人と一緒にいる時は悪目立ちしないように気遣って幽霊である彩花は静かにしているか今のように小さな声でささやきかけてくる。
「どういうつもりなの?」
「な、なにが?」
言わずもがな。澤峰のことである。今のところ百害あって一利無しのヤツに対して何故なにもしないのか、ということだろう。
「田城くんどうかした?」
「ん?なんでもないよ!」
1人でもごもごしているのを訝しんで覗き込んでくる。
そんな息苦しい日が続き、皮肉にもバイトの最中と寝る時間くらいしか心が休まる時がなかった。
バイトは飲食店のウェイターをしているのだが、
ついに事件はおきた。
「やっほー。来ちゃった!」
やっほーと言うにはあまりにも抑揚のない平坦な調子の声で店に現れたのは言うまでもなく澤峰その人だった。
いままで放課後はともかくバイト先に姿を現わすことはなく(微妙にわきまえるところを知っている感じがして強くいうのが難しかったのだが)、こうしてのこのことやってきたのは初めてだ。
だからといって仕事を放棄して怒るほど子供ではなかったので、努めて事務的にマニュアル通りに徹しようとした。
「いらっしゃいませ。何になさいますか?」
「やだなぁ。つめたいぞぉ?」
あからさまに煽っているとしか思えない声色で、そう言われるのはどこぞの酔っ払いならともかくここ最近のストレスの元凶だったために堪忍袋の尾がいよいよ切れてしまった。
いい加減にしろよ!と叫ぼうとした寸前、彩花が絶叫していた。
「あんた、いい加減にしなさいよぉ!!」