試験
「ではこれより、実技の試験を行う。」
王立魔法学校の入学試験。
その最終試験となる魔法実技。
ここまでの試験は問題なく合格ラインのはずだ。
この実技試験はあくまで魔法の適正と潜在的な魔力量を計るのが目的と聞いている。
自分の魔法技術には問題があるが普通に低級呪文を唱えれば問題ないはずだ。
「では、次のもの前へ。なんでもいい。得意な呪文を見せなさい。」
そう言われ詠唱するのは炎の下級呪文。
手のひらに魔力が集中すると火の玉が浮かび上がる。
火球を打ち放つ定番の攻撃魔法。
これが最終試験だと思うと気合が入る。
自分の人生の目標の一つへの道。
目を閉じ、魔力を集中させると火球が肥大化する。
「おお!なかなかの魔力量じゃないか!?」
審査を行う教員たちの幾人かから声が漏れる。
その賞賛に表情が緩む。
イケる!
その確信とともに魔力を最大限に解放し標的となるマトに向け力を解放する。
「ファイアーボール!!」
詠唱とともに炎が更に肥大化し弾け、辺りを焔の閃光が埋め尽くし轟音が響く。
下級の魔術とは思えない魔力量。
炎の勢いは間違いなく中級上位に匹敵する威力を誇っていた。
その込められた魔力の量と威力は問題なく賞賛されるものだろう。
これが試験でなければ。
きちんと制御された魔法だったならば。
爆音とともに響く幾人かの悲鳴。
漂う肉の焦げる匂い。
何人もの回復魔法の詠唱が木霊する。
全力で魔力を解放したため、ほんの少しの間、周囲の声が聞こえていなかった。
眼前の閃光に目が眩み閉じていた瞼を恐る恐る開く。
そこに広がるは阿鼻叫喚。
見学をしていた順番待ちの受験生や油断していた試験管、そして、この惨状を生み出した自分を憐れみ蔑んだ目で見つめる人達。
ファイアーボールは込める魔力の量にもよるが手のひら大の火球を打ち出すだけの魔法。
決して爆散し四方八方に飛び散る無差別砲ではない。
この王立魔法学校を受験しに来た生徒が初歩の初歩と言うべき魔法を失敗するとは誰も想像していなかった。
故に対処が遅れてしまい起きてしまった現状。
怪我をした生徒らに試験官たちが治療を施しながら謝っている。
一人は全身を炎症しどこかへ運ばれていく。
この大事な試験の時に大きな失敗をしてしまった。
気合いなど入れずにただ普通にすればよかっただけの試験で。
溢れそうな涙を目に堪えながら、後悔と受け入れがたい現実から目を背けたいがための一言が口からもれる。
「あれ・・・オレやっちゃいました・・・?」
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