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78 竜と迷宮①

①プレゼント ホウ ユウ

②ボコボコ

③閑話「魔法と魔術と魔具とスキル」

 

「あ~~~、そこ良いです~」


 でっぷりと詰ったお腹と、周りに広がる様々な食物。

 蜥蜴族の魔物によって、手足や首周りを高速で叩き解す、心地よい音が響く。

 テレの上に乗った、モコモコした獣族と思われる魔物が磨いたのだろう鱗は、夕日に照らされ、一片の曇りもない輝きを放つ。

 そこには、緩み切った顔を晒しながら惚けた声を上げる、駄竜と化したテレの姿があった。


「テレ……、貴方は、何を、しているのかしら?」

「あ~、シスタ~、エレン様~。お帰りなさい~」

「お帰りなさい、ではありません!! あなたがここに残った理由を、分かっているのですか!?」

「分かってますよ~」


 シスタが、青筋を立てながら捲し立てるのに対して、テレはいつもの調子で答える……いえ、いつも以上にゆるゆるね。

 私達が必死になって交渉に挑んでいた間に、随分とこのダンジョンを堪能していたみたいね~……。


「クフフ、そうですか、でしたら良いのです」

「エレン様、しかし!」


 言い募ろうとするシスタを、片手を上げて制止する。


「……ところで、テレ? 貴方は今、ちゃんと飛べますか?」

「と、飛べますよ~?」


 そうですか、そうですか。なら何故、視線を逸らすのかしらね~?


「なら、一度飛んで見せて? そうすれば、シスタも納得してくれるはずよ」

「…………」


 テレが無言でバサバサと羽ばたき、飛んで見せる。バサ……バサ……では無く、バサバサバサバサと…………随分重そうね~、テレ?


「…………出されたものを食べないのも~、失礼かと思って~」

「限度があるでしょ!?」


 まったく、この子の食いしん坊は、直りそうも無いわね。

 ……味にうるさいこの子が、満腹になるまで食べるなんて、そんなに美味しいのかしら?


「あの~、もしかして、余計な事しました?」

「…………いえ、この子が限度を知らなかっただけですので、お気遣いなく」

「えっと、ぼ、僕たちが、その、お願いして、食べ比べをして貰ったんです。なので……余り、責めないで上げてください……」

「食べ比べ?」

「そう! そうなんです~。外の生き物の味覚と~、同じか~、確認したかったらしいです~」


 成る程。出来立てのダンジョンに、新種の魔物と植物。ダンジョンの外の生き物と感覚が違っていても、おかしくないと考えた訳ね。結果によっては、外敵が食料を求めて侵入してくる量が変わるでしょう。いや、交渉の道具として見極める意味合いもありそうね。


「すっごく美味しいですよ~。私が~、保証します~、お勧めですよ~」


 テレの食いしん坊は、谷の間では結構知られている。それ以上に美食家として有名だ。彼女が美味いと言ったら、大半の竜は興味を持つ。そんなテレが、滅多に言わないお勧め発言……あれ? 結構ヤバいかも。


「良かったら、お二方も食べてみて下さい」

「いえ、私たちは……」


 ― ぐりゅるるるるる…… -


「「「…………」」」


 そ、そういえば、朝から何も食べて無かったわね。普段なら、数日程度食べなくても平気だけど、今日は動きっぱなしだったから。


「えっと…………お肉、焼きます?」


 周りを満たしていた、肉と食物が焼ける暴力的な香りが胃を直撃する。意識して仕舞えば、もう戻れない。


「エレン様、その、もう日も沈みます。ここは、先方のご厚意に与るのがよろしいかと」


 シスタ、貴方もですか……でも、言っていることは尤もだ。


「そうね、これはもう……今日中には戻れそうにないですね」

「そ、そうですよね!」


 私の魔力切れ、シスタの鳥目、テレの暴食。こんな状態で、夜の空を飛ぶのは危険だ。うん! 仕方がないことだ!


「そうね、テレもいいかしら?」

「何がですか~?」


 あ、まだ説明して無かったっけ。今晩、このダンジョンに泊めてもらえることを教える。


「賛成です~。もう動きたくないです~」


 この駄竜、とうとうぶっちゃけやがった。

 あぁ、竜王様。意志の弱い私を、私たちをお許しください……だって、テレが勧めるんだもん!! 美味しそうなんだもん! 疲れたんだもん!!


 ―――


「この、水茸がツルンとしていて美味しいですわね」

「え~、私は~、土茸が美味しいと思うな~。ポキッとした歯ごたえが~、良いですよ~」


 味の感想が欲しいとの事だったので、正直に答えている。途中まで遠慮していたのだが、本気の感想が聞きたいと向こうが言って来たのだから、問題なし……基本、肯定的な意見しか出ないですし大丈夫でしょう。


 あ、私は光茸と闇茸が気に入った。光茸のフワフワ感と、闇茸のトロッと濃厚な感が好きだ。この(キノコ)って植物の、焼いている時の香りも良い。好きな竜は多いでしょう。

 ……気に入っちゃうでしょうね~。これはあれかしら? 敵対すると食べられなくなるぞって事かしら? だとしたら、完全に乗せられている。


「お肉焼けました~」

「ギャウー! ギャウ~! (やったー! キタ~!)」


 テレが狂喜乱舞している。確かテテレテの肉と言っていたわね。毎年異常繁殖する為、食べなくとも見たことがない奴はいないだろう。

 だけど、味はそこまでよくはない。旨味もないし筋張ってる、しかも臭い。テレが期待している理由は味付けでしょうね。


 運ばれてきた肉から漂って来る香りが、鼻孔をくすぐる。暴力的なまでの香草の香り、テテレテが焼けた時の悪臭が全然しない。食べた時もあの悪臭がしないのか、そこも気になる所。


「色々な味付けがしてありますので、感想をお願いします」


 香草のぺパーやハブー、その他にも各種薬草や花の蜜、木の実や果実をふんだんに使用した肉。

 料理をする竜も少なくないが、だいたいは大雑把な物ばかり。人種が持ってきたものが、私達の所にも回ってくることはあるが、これほど手の込んだものは初めてね……もしかして、今までのは手抜き品だったのかと思ってしまう程だ。


 目の前に運ばれてきた肉を見る。この香りを堪能したい気持と、食べたい衝動がせめぎあう。


「ギャウーーーーー!!(うま~~~~~い!!)」


 念話じゃ無い為、相手は何を言っているか分からないのだろう。何だ何だと慌てている。

 注意しようと、テレの方を向く


「ヒッグ、美味し~よ~、美味し~よ~」


 泣きながら食べてるんですけど!? え? 感極まる程美味しいの? 肉に食らいついて離れようとしない。

 ごくりと思わず生唾を飲み込む。これはもう、食べない選択肢はない。


 多数の砕かれたペパーが掛かった、カラフルな肉。

 赤や黒のペパーがそれぞれ掛かった肉。

 香草や薬草と共に、大きな葉で包まれ焼かれた香草焼き。

 何かの蜜が塗られた、光を照り返し輝く肉。


 様々な肉が目の前にある。どれから行きましょう……よし、一番気になったテカテカした肉に齧り付く。


 最初に来たのは、花の蜜と芳醇な穀物の様な香り。この照は蜜を塗っていたのか。次に驚いたのは、筋を感じない肉の柔らかさ。サックリと通り、牙の間に挟まらない。甘めの味付けと、程よい塩気、肉の味もしっかり感じる。テテレテがもつ独特の匂いも、蜜と穀物の香りで消えている。これ、本当にテテレテの肉?


 あぁ、もうなくなってしまった。

 ク! 今だけは自分の体格が恨めしい!! 本気で<人化>か<変化>習得目指そうかしら?


迷宮主のメモ帳:粘液族


不定形の魔物全般を表す種族。

特定の姿を持たない為、物理攻撃を無効にするものが多い反面、物理攻撃力に乏しい。

魔力を乱されると、自身の形を保てなくなるため、魔法の類に弱い。


戦闘時は、魔法や火などで燃やすのがセオリー。物理攻撃では、肉体を弾き飛ばすか、削ることで、コアである魔石を掘り出し倒すが、あまり推奨はされない。


素材としては、主に薬や肥料の原料として使われる。


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