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77 竜と蜘蛛の職人

①馬鹿め!それは残像だ!

②竜、舐めんじゃねぇぞ!

③決着!!

 

「イ~~~テテテテテ!!」

「無茶するからだよ、さっさと降参すればいいものを」

「うるせぇ! 本気の相手に対して、半端で終わらせられるか!?」


 コクガ殿とクロカゲ殿の会話が聞こえてくる。

 コクガ殿に至っては、宝石の様な魔物、スライム? に包まれ、顔だけ出している状態で会話している、中には薬が詰まっているのだろう。


「エレン様、お体の程は?」

「えぇ、だいぶましになったわ」


 まだ多少の気怠さがあるが、貰った薬を飲んだら傷も殆ど治り、行動に支障が出ない程度には回復した。本来なら、何日寝込む事になったか。本当にすごいわね。


「あれ? 完全回復しないか~。体が大きいと回復にも量が必要かな?」

「いえいえ、もう充分ですわ、ただの魔力不足ですし、薬を使うほどの事ではありません。それよりも!」


 私は、コクガ殿の方に向き直る。


「コクガ殿! お話は可能でしょうか? 先ほどの手合わせについて、お話がしたいのですが!」

「おう、こんな格好で良いなら問題ねーぜ? 俺の他にも、聞きたいことがあるやつが居るみたいだしな!」


 よく見れば、様々な魔物が集まってきていた。


「…魔術…使える?」

「え? えぇ、簡単な物でしたら」

「…魔術!」

「なに!? 魔術!?」

「教えて! 教えて!!」

「…へ! …へ! …へ!」


 ちょ、なになに!? 熱意と圧が凄い!? なんでこの子達、こんなに魔術に興味があるの?


「はいは~い、お客さんに詰め寄らない。特にタラント! 知りたいのは分かるけど、少し落ち着け~」


 あぁ、この子達が魔術を使いたいと言っていたタラントなんですね。まさかここまで必死とは。


「……後でいいから、教えてやってくんねぇか?」

「分かりました、約束でしたしね…その代わり!」

「な、何だよ?」

「先ほどの戦いで見せた、気配だけの攻撃と移動方法…教えてください!」

「おう、良いぞ~」


 軽!?


 ―――


 最後の攻撃、どうやって上から降ってきたかと思ったら、気配を消しながら支柱の裏を登り、上空から奇襲してきたらしい。隠密までできるなんて。

 ……思えば、あのアンコ殿と同じアルト種でしたね、できてもおかしくないのか、不覚。それよりも、私を驚愕させたことがある。


「えぇ!? あれ、<威圧>だったんですか!?」


 気配だけの攻撃の正体、それがスキルの<威圧>だったなんて。


 スキル<威圧>

 周囲に存在する格下に対して、恐怖と怯みの状態異常を一時的に付与する。


 本来なら、周囲にばら撒くように発動するこのスキル。それを一点に集中、飛ばすことで、自身の位置を誤認させたり、攻撃に乗せてフェイントに使ったりしたらしい。<威圧>なんて向けられたら、無視なんてできないわよ。

 まさか、<威圧>にこんな使い方があったなんて……帰ったら練習してみましょう、あれは使える!


 そしてもう一つ、炸裂音を響かせる移動、これもスキルだった。


 スキル<高速移動>

 SPを消費し、直進移動での加速、速度を上昇させる。


 けれど、このスキルで上がるのは直進での速度のみ。では、あの急旋回はと言うと……


 スキル<立体機動>

 立体的な移動に補正。


 本来、崖や壁など、上下左右での動きが上手くなるスキルのはずなのだが。彼曰く


「壁も床も、平面じゃん?」


<高速移動>での移動を、崖での落下に見立て、無理やり発動していたらしい。

 ……どうやったらそんな発想になるのよ!? 着眼点を変えるだけで、利便性がこれほど変わるなんて。もうちょっと、頭柔らかくしないとダメね……これ、空中落下する時とかで、使えないかしら?


 ちなみに、柱の間を移動した時、地上より早かったのは


 スキル<限界突破>

 SP、MP、HPを消費し、全ステータスを一時的に上昇させる。


 このスキルを使った為らしい。なにこれ、超欲しい。


「俺については、こんなもんだな!」

「有難うございました! とても勉強になりました!」


 あぁ、負けてしまいましたが、得られるモノが多い一戦でした。谷に居る成竜と戦っても、これほどの経験は得られなかったでしょう! ……そう、負けたんでしたね。


「コクガ殿」

「ん? どした?」

「……次は、負けません」

「プッハハハ! あんたも好きだな!? ……簡単に負けてはやらねぇぞ?」


 あぁ、この方に会えてよかった。私は、まだまだ強くなれる!


「……そう言えば、シスタの方はどうですか?」

「あ~~~、大丈夫な様な~、大丈夫じゃない様な~」

「「?」」


 シスタの方を見る。私がコクガ殿と話している内に、頼まれていた魔術の説明をして貰っていたのだが……


「―――になります、他に質問は?」


 他人に物を教えるのが上手いのは、流石賢竜と言ったところか、生き生きしている。特にタラントが熱心に聞いている様だ。


「目的の効果を引き出すにはどうしたらいい?」

「手当たり次第です」

「へ?」

「手当たり次第です」


 シスタは、魔力で内側に十字の入った円を作り、そこに魔力を流すことで術式を発動させる。発動したのは、魔術の初歩も初歩、火を起こす魔術だ。


「魔術は、基本となる円に術式を描くことで完成しますが、組み合わせ次第で発動する内容は千差万別。その為、特定の法則を見つけた者は居ないと言われています。なので、目的の効果を引き出したいならば、既に発見されている式を参考にするか、手当たり次第、となる訳です」

「つまり、やることは今までと同じって事?」

「みたい」

「なら、思いつく限りの模様を描こう!」

「データの収集も大事じゃない?」

「方程式の発見にも、挑戦しよう!」

「なら、効果のある式をまとめ残して置ける場所を造ろう!」

「「「いいね!!」」」

「早速造ろう! 保存媒体が必要だね!」

「糸布で良くない?」

「結構厚みあるから、嵩張る」

「紙作ろう、紙!」

「「「賛成!!」」」

「紙なら、まとめて重ね置きができるね!」

「……書いた式をまとめて置いておくと、暴発の危険がない?」

「「「確かに!?」」

「魔力が無かったら発動しないよね? なら、主様に魔力の無い部屋を造ってもらおう!」

「主様に頼り過ぎるのも、どうかと思う」

「部屋の備品を魔吸石と魔抗石で造れば良いんじゃない?」

「「「それだ!!」」」

「どんな効果が発動するか分からないから、頑丈な実験部屋も欲しい!!」

「「「同感!!」」」

「流石にそれは主様に頼ろう! 安全第一!」

「「「異議なし!!」」」

「人手を集めろ!!」

「情報を回せ!!」

「他の種族も巻き込め!」

「紙作成隊、集まれ!!」

「備品作成隊はこっちだ!!」

「善は急げ!」

「野郎ども! 作業に掛かれ!!」

「イクゾ!!」

「「「へ―――――――!!!!!」」」


 タラント達は、一気に捲し上げたと思ったら、一斉に行動を開始し出した。シスタも唖然としてしまっている。

 何があの子達を、あそこまで駆り立てるのか……。


「……普段は大人しいんだけどね~」


 あれで!? あの姿からは想像しがたい、シスタも同じ気持ちの様だ。

 そんな慌ただしい中、一匹のタラントが何かを持って此方へやって来た。


「…へ」

「え?」

「…お礼、あげる」

「あ、ありがとうございます」


 そして、すぐさま去って行った。


「うん、あの子を参考にしたら分かりやすいかな? ……技術関係が絡まなければ」

「成る程……」


 職人気質って事かしら?


「それで、何を頂いたの?」

「これは……布、でしょうか?」


 ハンカチ、いえ、タラントの体格からしたらシーツと言ったほうがいいか。

 灰色と水色の二色、私達の鱗の色と同じですね。端の方に、青色の宝石が装飾されている。


「こちらの灰色が、エレン様でしょうか?」

「じゃぁ、水色はシスタね。鱗の色に合わせてくれたのかしら?」


 シスタから、灰色の布を受け取る。少しざらざらしていて、僅かな抵抗を感じる。こういっては何ですが、質はそれ程でも無い?


 ―キュ! キュ!―


 試しに指先を拭いてみると、心地よい音がする……て?

 先ほどの戦闘で傷付き、曇って仕舞っていた指先の鱗が、輝きを取り戻す。まるで生え変わったばかり、いや、それ以上だ。

 おぉ……良いわね、これ。有り難く使わせてもらいましょう。


「色々あったけど、問題なさそうだな。そろそろ日が沈む時間だけど、これからどうする?」

「今後の事も有りますし、一度、テレの元に戻りたいと思っています」


 流石に魔力が無い状態で飛ぶのは、辛いものがある。シスタは夜目が効かないことも合わせて、安全を取るなら一日休む必要があるでしょう。

 今後の予定を決めるためにも、一度テレと合流することにした。糞虫? もう、どうでも良いわ。


 ―――


 外に出て、テレと別れた場所まで戻る。


「そんな……」

「こんな、ことって……」


 そこで見た光景に、私とシスタは絶句してしまう。


 モクモクと上がる煙と、肉の焼ける匂い。

 何かが擦れ、削れる音が響く。

 そこには、一方的に殴られ地に倒れ伏す、見るも無残なテレの姿があった。


迷宮主のメモ帳:蜥蜴族


爪や牙、鱗などの特徴を持つ魔物全般を表す種族。


竜族と間違われることが多いが、ブレス用の魔力袋が無く、現体の者が中心である。(両方とも、知能が高い相手に対して間違えると非難されるので注意)


魔法耐性は低い傾向だが、物理攻撃に優れ、純粋に頑丈なものが多いので、圧倒されない必要がある。弱点属性の魔法で仕留めるのがセオリー。


素材としては、爪や皮が武具道具等に使われる。


地球で言うと爬虫類の大半がこれ。


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