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302 闘争からの逃走①

「だ、大丈夫です、ローズマリー様! ほら、何も恥ずかしいことなどありません。とてもお美しく映っておりますよ」

「よい、よいのですウォー。もう、何も言わないでくださぃ」


 お姫様が顔を真っ赤にしながら悶え、その脇でエミリーさんが必死に慰めようと空回りしている。原因は、まぁ……現在流されている映像でしょうねぇ。


 画面に映し出されているのは、城内の現状やらを赤裸々に語る少女の姿。

 声の抑揚や身振りなどは大袈裟にならず固くもない、人目を引く絶妙なラインを狙った仕草。そして白を基調にした衣装は可愛らしさと健気さを前面に出し、着ている者の容姿と合わせて多方面での受けがたいへん良いものとへ纏まっている。


 内容は、ローズマリー姫様によるアルベリオン国内に向けられた、所謂プロパガンダ。

 流石に王族の言葉は重みが違うのか、現地の観察員からは好評と報告が上がってきております。これなら、今まで動かなかった頑固者にも効果があるかもしれませんね。これでも動かないんなら、もう知らん。元々予定に無かった事ですし、巻き込まれて消えてろ、である。


 で、何故この姫様がこんな悶えているかと言うと……この姫様、極度の上がり症だった。俺の所に来た時はあんなに凛々しかったのに、多人数に見られるのはダメらしい。今まで大衆の前に出る経験が無かった事もあり、お姫さんご自身も知らなかった新たな一面ってやつですね。

 自覚して仕舞った今では、間接的にとはいえ大衆に見られている事に対してすらダメ……見た目以上に縮こまっています。


 そんな訳で、生放送から録画映像へと切り替えて、現在アルベリオン国内に放映中でございます。


 王族が、余所者に救援を求める姿は体裁が悪いですが、それだけ追い詰められていたと言う事。その辺りの説明も撮影時に盛り込んでいるので、理解は得られるんじゃ無いですかね? 納得してもらえるかは知らないですけど。


 こちらとしては、俺が前に出なくて済んだのが純粋に有り難い。


 降伏勧告とかできる立場の者が俺くらいしか居なかったですからね~。エマさんは表に出られる状態じゃ無いですし。かと言って、俺では威厳も知名度も無く、表に出ても説得力が無かったでしょうから、お姫様を経由して最終勧告を出せたのはとてもありがたい。これだけでも、このお姫様を保護した価値はありました。


 ……あと、純粋に面倒。


 これに合わせてゼニーさんに、アルベリオン国内に散っているバラン商会の従業員に撤退を指示。情報操作、印象操作、移動困難者の運送と、裏で一番働いていたと言っても過言ではない。まだ国内全域を回り切れていないとの事でしたが……その方々を巻き込むなんてあってはならないので、最優先で避難してもらう。


 それに、流石にエマさんの中にたまった鬱憤……世界の怨嗟を誤魔化すのも限界ですからねぇ。御姫様の件が無くとも、タイムリミットです。アルベルク家の救助というか拉致を終わらせ、決行に移ります。

 それさえ済めば、まぁ、多少国内に残っているでしょうが、完璧は流石に無理なので、無関係な者、国民が国内()から排除できたと判断し、納得させ、エマさんに準備に移ってもらいます。

 今まで散々我慢してきたエマさんです。一度動き出し、溜め込んだ感情を吐き出し始めたら、エマさんはきっと止まれないでしょうね。


 期限までに現王が謝罪やらの何かしらのアクションを取れば、エマさんの気分次第で、被害が随分小さくなったかもしれませんが……まぁ、まずありえないか。なんせあいつ等、使者を送るなりする前に軍備拡大に着手してんだもん。その後も此方に接触しようともしないし……こっちは侵攻する前に避難勧告だしまくっているんですよ? ……先制攻撃込みでしたけど、まぁ、人族(・・)には被害を出してないですし?

 なのに相手は、街道を封鎖して避難民の妨害までやっているんですよ? 話し合う気が失せるってもんでしょう。あ、その手の連中はこっちで処理していますので、あまり上手くいっていない様ですがね。ケケケ。


「あの、ダンマス様、発言してもよろしいでしょうか……最終的にどのような終結をお考えなのですか?」


 姫様が発言の許可を求める様に片手を上げたので、どうぞと促します。


 終結ですか、アルベリオン王国の滅亡は当然として、それまでの過程と目的の予定をここで一度おさらいしておきましょうか。


 一つ目は、アルベリオン王を引きずり出す事。攫うのでなく、自分の意思で来てもらう。その時はエマさんの目の前で謝罪させて終わりですね。多分死ぬし、それで終わらないだろうし、どうせ来ないだろうから、意味ないけど。


 二つ目は、ケルドの掃除。これに関してはエマさんの復讐とは別ですが、今後の平穏と再発防止を兼ねてですね。エマさんもあいつら嫌いですし、憂さ晴らしも兼ねて滅菌といきましょう。


 三つめは、不愉快な痕跡の排除。ケルドと言うか、この場合はイラ教の痕跡を全て消し去ります。視界に残ると不愉快ですからね、選別も面倒なので更地にする……というか更地になる予定です。


 まぁ、大体こんな感じでしょうかね。


「その更地とは、具体的な範囲はいかほどで?」

「国土全域ですが?」

「……」


 具体的に更地になる予定範囲を言えば、お姫様の顔が凍り付く。あれ、言っていませんでしたっけ? あぁ、正確には消し飛ぶと思います。

 チマチマとやってその都度相手に無駄な抵抗をされると、エマさんが苛立ちを募らせる可能性がありますからね。無関係のモノを最初に避けて、一挙に掃除します。言ったではありませんか、痕跡を全て消すと。


 物理的に吹き飛ばして、魔力的に焼き潰して、薬品で消毒して、最後に領域を広げて空間的に支配下に置いて再発を予防します。

 取り敢えずそれで様子を見て、それでもエマさんがだめだったら今度はイラを潰します。それでもだめなら……邪神狩りに本腰でも入れましょうか。


「国土全域を、さ、更地、で、ございます、か?」

「うん、更地ですね。いえ、更地で済めばいいですけど」


 お姫様が、恐る恐る聞き返してくる。


 後で変なものが紛れても嫌ですし、残っても嫌ですし? まぁ、一番の理由は、エマさんが手加減できないと思うので、更地以外に選択肢が無いのですよ。痕跡が残れば奇跡レベル? まぁ予想ですけど。下手な希望を抱くだけ辛くなりますよ。


 復興の手伝い位はしますから……うん、こればっかりは諦めて?



 ―――



「おう、来たぞダンマス。もてなせい!」

「いらっしゃいジャックさん。帰っても良いのですよ?」

「ぬはは、固い事言うな! ほれ、土産もあるぞぉ」


 ジャックさんが転移塔を利用してこちらにきたので、お出迎え。前回と同じくエマさんの麓で酒をかっ喰らって既に出来上がっていたので、ぞんざいに扱っておく。酔っぱらいなんてこの程度の扱いで十分です。

 ……相手によっては面倒になるので人は選びますが、ジャックさんはその程度の事で動じる程器は小さくないので大丈夫。


 お土産は、焦げ茶色の干物? と一抱え程ある立方体だ。干物はそのまんま摘みでしょうけど、立方体の方は何でしょうね? あ、この干物結構うまい。みそ味ビーフジャーキーっぽい何かだ。


「ほれ、エスタールからの品じゃ。遠方とやり取りできる迷宮具だな。終わったら一度声でも掛けてやってやれ」

「へぇ、もう話ついたんですね」


 渡された一抱え程の立方体を受け取る。普通の迷宮具は規模が大きくなる程、無理やり再現するので大きなものが多いですが、これはそこそこ小さい。魔道具の仕組みを分かっている奴が創ったか、大元となるものをダンジョンが吸収して仕組みを取り込んだか……かと思えば、これは子機で、本体は城に備え付けられているとか。

 まぁ、使う前に壊すわけにもいきませんし、開発課(オタク)共にバレない様に預かっておきましょう。目を放すとバラしに掛かりかねん。


 エスタールは、こちらがダンジョンであることは把握済み。敵対する気もない様なので、今後とも西はそれ程警戒しなくてもよいでしょう。まぁ、この一件が終わったら、顔を合わせ(釘の一つでも刺し)ておきますよ。


「してダンマスよ、前来た時にはなかったと思うんじゃが、さっきから広場に映しだされとるあれは、どこぞの軍の行軍か?」

「あぁそれ? アルベリオンですよ」


 広場に新たに設置された巨大モニターの映像を指さし尋ねて来るので、ジャーキーを噛みしめながら、適当に答える。


 お姫様による投降勧告の後、すぐさまアルベリオンは進軍を開始。道中の町々から物資を接収(略奪)しながら、強行軍でこちらに向かって来ている。

 前々からアルベリオンも準備は進めていたようですが、それでも間に合っておらず、今回の暴挙に打って出たと思われる。まぁ、大概の物資は既に国民によって持ち出された後なので、たいして物は残っておらず、今回の進軍で止めを刺している感じですね。


「なんじゃ、やっと動いたのか? どいつもこいつも動きが遅いのう。既に詰んどる事にも気付いとらんと見える」

「残った人も事なかれ主義が大半でしょうからねぇ。やる気がないんでしょうよ」

「戦場でそれは致命傷じゃぞ?」

「国が既に終わっていますからねぇ」

「ぬはは! 違いない!」


 たった今空いたジャックさんの盃に適当に酒を注ぐ。家のブランドの高級酒とか、いいもん呑んでんなぁ、この酔っぱらい。


「外にも噂は漏れ、いや、流されとったぞぅ? 国を誰かが乗っ取ったやら、王族が逃げたやら、既に根絶やしにされているやら、世界樹を殺そうとしただとか……余所ではアルベリオンの評価は散々たるものに成っとるぞ」

「あらら、どこから漏れたんでしょうかねぇ?」

「その反面、世界樹については大した情報がないんじゃよなぁ……最近、アルベリオンの姫君が世界樹に助けを請いそれに応えたなどと、情報元が定かでない、根も葉もない噂はあるがのう? 正体の分からぬ存在のままであれば、不信感と恐怖心を抱いたかもしれんが、姫君の噂は美談として扱われ、世界樹に対して悪感情を持つ者は少ないのう……どうなっとるんかのう? のう?」

「へぇ~、そうですか~、それは有り難いですね~」


 にやにやしながら俺の顔を覗き込んで来るので、適当に流しておきます。

 引き籠りの俺は、噂なんて知りもしませんからねぇ。誰が流したか知りませんが、まぁ、悪いモノでもなさそうですし、良いんじゃないですか?


「悪い顔しとるのう」

「はて、何の事やら」


 噂は噂。下手な勘繰りは身を滅ぼしますよ、ジャックさん。


いつも誤字報告有難うございます!

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