2 世界樹さんが愚痴ります
①ゲーム起動 & すや~
②なうろーでぃんぐ & グチグチグチ・・・
③油断 & すや~(2回目)
「と、言うわけなの!」
「すみません、何を言いたいか全然分かんないです」
「なの!?」
俺は今、不思議空間に居ます。継ぎ目の見えない真っ白な部屋、もはや何処までが壁で何処までが床なのかも解らない。地に足が付いている様な、浮いている様な曖昧な感覚。そして目の前には人……人? 多分子供がこちらに話しかけてきている。
何故疑問形なのか? 見えてはいるのだ、見えては……だけど認識できないというか、なんというか。絵で表すなら、輪郭だけぼやっと見えている様な? 夢であった人の姿が、目覚めると全く思い出せない、そんな状態のままで相手を見ている様な? ……自分でもよく分からなくなってきた。理解できないことを考えても気持ち悪くなるだけだからやめよう……。
「聞いてるなの!?」
「聞いていますよ~、だから少し落ち着きましょ?」
最初に送られてきた情報から分かっているが、今話しかけてきている曖昧な人は世界樹さんである。
ダンジョンのコアと思われる部分に触れた後、俺は大量の情報を頭に流し込まれて気絶した。その流された情報ってのが、今問われているものだ。
「人間は目や耳なんかから情報を得ているんですよ」
「なの?」
「なんで、世界樹さんの感じたままの情報を直接送られても、人間の俺は理解しきれないんですよ」
どんなに精密な情報でも、受け取る側が読み取れなければ意味がない。DVDレコーダーでブルーレイを読み込もうとする様なものだ。表紙で何が言いたいかは分かるが内容までは全く分からない。せいぜいこの人が世界樹で、すごく嫌なことがあったって程度だ。
「せっかく会話ができるんですから、このまま教えてくれません?」
「む~、仕方がないなの」
そして、世界樹さんは語りだした。
「私がハッキリとした自我を持ったのは ……100ねん? うん、100年位前なの。その頃の私は、周りの木達から見たら半分にも満たない大きさの小さな木だったなの。そんな私が他の木達と違うと分かったのは、(なんて言えばいいなの? え? 10年?)10年位経ってからなの。その頃には、周りの木の中で私が一番大きくなっていたなの!」
樹齢100年か……100年で若木ってのも凄いな。
「そんな私の周りには沢山のお友達が居たなの! 意地悪してくる子も居たけど、お友達がやっつけてくれてたなの。それで、そのお礼に私の要らない部分を渡したら、みんなすっっっごく喜んでくれてたの!! 葉っぱを食べたり、枝で巣を作ったり。私たちは平和に暮らしていたなの」
余程楽しい思い出なのだろう、表情は分からないが声だけでも十分楽しさが伝わってくる。
害虫を退治してもらう代わりに、世界樹の素材を渡す……共生関係が築かれていたんだな。
「そんなある日のことなの……あいつ等が現れたのは。」
そんな言葉と共に世界樹さんの雰囲気が一変した。
「あいつら!! あいつらが!! あいつらが来なければ!!!」
髪を掻き毟り、歯が欠けそうなぐらい歯ぎしりしている。
「あいつらが皆を殺した! 何もしてないのに! 生きるためでもなく! ただ! ただただ殺した!! あのサル共は!! 殺しておいて、まるでそれが当たり前のように! 間違いでないかのように! 正しいことをしているかのように!! 殺して! ころして! コロシテ!! コ、ロコロシコココロ!!!」
アカン……いろいろアカン!? 言っていることが支離滅裂になっていっているし、特徴的な「なの」口調もなくなっている。なによりも輪郭が黒い靄みたいになっていっているし!?
何? 進化ですか!? 魔王にでもなるんですか!?
「お、落ち着いて! 一旦落ち着きましょう!? ね? ……それに、相手がどんな奴か知らないけど“サル”なんて言っちゃいけませんよ」
最初の方は全然聞いている様子がなかったけど、後半には反応した。ふむ、まったく理性がなくなったってわけではなさそうだ……その代わり、凄い形相で睨んできたけど。
……これは殺気かな?
「アイツラノミカダヲズルノ?」
「うんや? 聞いていた感じだと相手の方に非がありそうですし?」
「ジャァナンデ?」
「そんな奴らのことをサルだなんて言ったら、世の中のサルの方々に失礼でしょ?」
「!!! ……ナノ。その通りなの! おサルさんごめんなさいなの!!」
お、思ったより早く理性が戻ったな。チョロ……根が素直なんだろうな~。
逆にこんな素直な子がここまで豹変する位の事をされたと……。
本当に何やらかしたんだ? サルって言うことは人型? 順当に人間か? それともファンタジー世界定番のゴブリンとか、はたまたちょっと捻って獣人とか?
「世界樹さん、その相手ってどんな奴だったの?」
「え~となの。枝に糸を付けたもので棒を飛ばすものを使ってて」
弓矢かな?
「魔法をよく使ってたなの!」
魔法か~、メタ読みで獣人はなしかな?
「後は耳が細長くて」
……ゴブリン?
「ひょろっとした体をしていて」
???
「金色の毛と白い肌の人族だったなの」
エルフだ、これ~~~!?
え? エルフだよね? よく森の賢者とか言われている。
……ないわ~、この世界のエルフってそんなんなの? すげ~がっかりなんですけど。俺の期待を返してくれ。
「どうしたなの?」
「いえ。ちょっとショックだっただけですので、お気にナサラズ……」
「?」
「それよりも、その……多分エルフって種族? だと思うんですけど、そいつらが最終的に世界樹さんに毒を盛ったので?」
ごまかすように話を進めたのだが……
「……違うなの。やったのは他のやつらなの。」
黒い靄が、又滲み出し始めた。
……また地雷を踏んだらしい。ここは地雷原ですか?
投降順の変更に伴い、変更いたしました。内容は殆ど変わっていません。