166 竜王とダンマス⑩(帰宅)
①見送り準備
②精神疾患
③治療費はDPで
「では、フワフワさん、プルさん、ゲッコーさん、後のことをお願いしますね」
「はーい!」
(((行ってきま~す)))
「なぁ、主。俺で良いのか? 本当に良いのか!?」
準備も終わったのでお見送り。
フワフワさんは運搬用員。プルさん……達は、<群体>を利用しての、通信要員。
最後に喚いているゲッコーさんは、料理人としての参加です。なんせ、全部新種の食料ですからね。食べ方を教えないと、危ないモノもある。調味料を丸かじりとか、舌が死にます。
なので、料理担当も一緒に行って貰う事にしたのですが、往生際の悪い事に出発間際になってなお、自分で良いのかと聞いてくるゲッコーさん。満場一致で貴方に推薦が上がったんです、諦めなさい。実際、ゲッコーさんの作るモノは、何でも美味しいですからね。
「ダンマス」
エディさんが、片手をこちらに向けて伸ばしてくる……この手は、何でしょう?
「これからもよろしく頼む」
……あぁ、握手か! こっちにもそんな文化が有ったんですね~。獣人さん方には無かったので、てっきり無い文化なのかと思っていました。
なんせ、接触することで発動する、ヤバイスキルとか少なくありませんからね。
「はい、よろしくお願いします……取り敢えず、お互いに直接本体に会えることを目指しましょうか。手加減の練習、頑張ってくださいね? 今回みたいに、毎度手を潰されたら、叶いませんから」
「あ……あははは……善処するよ」
怒っていませんよと、潰れた手を揺らしながら穏やかに指摘すれば、ばつが悪そうに謝罪して来る。うちの子達も、頻繁に行き来することになりそうですし、本当に頑張って下さいね?
「では、さらばだ!」
竜族の方々が、次々に飛び立っていく、そんな中……
― ドン! -
「ヒャッハー!!」
始めからトップスピードで突っ走るゲッコーさん。おい<走り屋>、メインゲストを置いて行くな。
「はっや」
「あ~セスティア、追いかけなさい。君じゃないとあの速度に付いて行けない」
「承知いたしました! フン!」
猛スピードで、ゲッコーさんを追いかけるセスティアさん。う~ん、流石のゲッコーさんでも、逃げ切りは無理っぽいかな~。
そんな取り留めのない事を思いながら、その姿が見えなくなるまで見送り、領域内からも、視界内からも、その姿を捕らえることができなくなった。
― ぽて -
「ヒュー、ヒュー、ヒュー」
肩車状態で共に見送りをしていた、端然と振舞っていたルナさんが、俺の頭の上に頭を乗せる様にぶっ倒れる。
「そんなになるまで、無理すること無いでしょうに」
「他陣営に、弱み……を、見せる……訳に、は……いけませんわ」
「意地張っちゃって」
「意地も通せば、道理も引っ込みますわ! あ……あうあうぅあっあぁうあ~~~」
頭を抱えて、悶えだすルナさん。相当頭を酷使していましたからね、今は地獄の苦しみを味わっているのでしょう。
「頭が痛いんでしたら、大人しく寝てなさいな、自分の体調を管理できない者は、早死にしますよ?」
「クワァ……弱さを認めるのも、強くなる一歩と思う事に致しますわ~」
それが良いでしょうね。頑張った後は、ちゃんと休まないと、身も心も伸びなくなりますからね。メリハリが大事です。
―――
エディさんが去り、ルナさんを寝かしつけた後、後片付けなどこまごまとしたことを全部丸投げし、自室のベッドに直行した。
「うんぁ~疲れたよ~」
「お疲れさまなの」
緊張がほぐれたのか、一気に疲れが襲って来た。
余所の相手と会話するのもそうですが、人形へリンクするのも、思っていた以上に負荷がかかる様ですね。練習するなり、スキルと魔術の構成を見直すなりしないと。
「竜王はどうだったなの?」
「良い方でしたよ、良い関係で居られそうです」
思っていた以上に、エディさんが良い方で良かった。あれ程見ていて安心する方も珍しい、てか、純真すぎます。直視できない方なんて、初めての経験でしたよ。
向こうでは、あんな方を見る事はまずありませんからね。そんなのが居たら、すぐに食い物にされるか、ウザがられて除者にされるか……消えるか、歪むかして居なくなりますからね。
強いから、相手に合わせる必要が無いんでしょう、後は当人の性格次第と。
「なら、北は気にしなくても良くなったなの?」
「ですね~。それにこれからは、DP入手量が増えるでしょうし、金属の入手が容易になりましたから、色々できる様になりましたよ~」
今まで問題になっていた、金属資源の入手と、竜族の訪問によるDP回収量アップ。これは、かなりデカイ。
対価も、溢れる程有る食料ですからね。安い安い。
「くわぁ……」
やれることはまだありますが、今日はもういいでしょうかね。メリハリ、大事。てかもう眠い。
竜族のDP回収量は多いですからね~、集計結果は明日。幾らぐらいになるでしょうね~楽しみにしておきましょう。
そんな事を思いながら、眠りについた……。
―――
夜
こつ……こつ……と地面をける音が、静寂に染まった夜に鳴り響く。
その音から、二足歩行……それも、人に近い存在である事が想像できる。だが、それは有り得ないことだ。何故ならここは、数多の竜が住まう竜の谷の最深部、竜王であるエゼルディアが眠る間。唯の人如きが、一人で到達できる場では無い。
薄く目を開き、音の鳴る方向へとその瞳を向ける竜王。地上からの唯一の通り道である洞窟から、何者かが歩み寄り、月明かりに晒される事で、その姿が露になる。
その姿を捕らえると同時に、まるでその場にいるはずがない存在を見たかの様に、その目は驚きに染まる。それは、最近できたダンジョンへと放った、彼の分身の姿であったのだ。
少なくとも明日の朝まで掛かると思っていた竜王は、余りの帰還の早さに眉を顰める。もしや、接触に失敗したのか? とも思ったが、その目に映る分身の顔は晴れやかなものである。
何故と問いかける事はぜず、自身の分身が近づいてくるのをじっと持つ竜王。その分身は自身に触れると同時に、まるで幻だったかの様に消え去って仕舞った。
「ふふ……あぁそうか。確かに私は馬鹿だな」
そんな呟きと同時に、幾枚もの白銀に輝く鱗が、竜王の体から舞い上がり、その一つ一つが何十、何百もの竜や人の形を取った分身へと形を変えていく。
記憶と経験を共有できる分身によって、ダンジョンでの出来事を知った竜王は、早速とばかりに分身を使った、訓練を始める。
仲間をすべて失って200年。
今までの孤独と喪失感を埋める様に、新たに友となった者を思う。
記憶と経験を共有しても、感情までは共有できない。できたとしても、それは経験を元にした予想でしかなかない。故に、竜は羨望する。
「あぁ……早く本当の君に会いたいよ、ダンマス」
その夜、幾つもの硝子が割れる音が鳴り続いた。
(設定)エディさんの依り代
世界樹さんの様なに魔力で作りだした依り代を遠隔操作しているのではなく、スキルや魔術を併用し、自身の記憶や人格をトレースした情報を、単独で自立行動がとれるように調節した、一種のAI。
多種多様な術式を使用しており、現在の【世界樹の迷宮】では再現不可能な代物。搭載されたスキルも必要最低限なもので、情報処理能力をあげる<思考加速>や感知系のスキルになります。
名称:ダミー
氏名:エゼルディア
分類:半虚現体
種族:
LV:25 / --
HP:16500 / 16500
SP:16500 / 16500
MP:16500 / 16500
筋力:8000
耐久:8000
体力:8000
俊敏:8000
器用:8000
思考:8000
魔力:8000
適応率:---(Max100)
変異率:---(Max100)
スキル
・肉体:<依り代LV->
・技術:<思考加速LV3><平行思考LV3><魔力察知LV3><気配察知LV3><存在察知LV3>
・技能:<念話LV3>
称 号:<偽りの肉体>
 




