160 竜王とダンマス④(餌付け)
①糞虫VSルナ
②ペチペチペチペチ
③見物
まずは、そうですね~……確認しないといけない事がありますね。
「何だい?」
「分身とのことでしたが…ここでのことは、正確に本体に伝わるのですか? 曖昧に伝わるのであれば、後に問題になり兼ねませんが」
「問題ないよ。本体に戻れば、ここでの記憶も経験も、全て本体に戻るからね」
記憶と経験の継承ができるとか、随分と便利且つ、高度な分身ですね。能力? スキル? う~ん、魔術かな? スキルも併用してそうですが、それを構築する術式と、触媒の鱗の強度が素晴らしいですね。
……絶対、あの職人と研究者共に見せる訳にはいかない。封鎖です封鎖! ここへの接近を禁止します!
(え~、なんで~?)
(お客さんが来ているからです!)
(…何か隠してる?)
(…主が隠す? 前にもあった)
(なんだっけ?)
(獣人を招いた時とか…班長が提出した中に、新しい術式が有った時とか)
(……ハ! 新たな術式が見つかった!?)
(((なんだと!!??)))
勘良すぎでしょ!? クロスさーん! 止めてー!!
「…なんだか裏で、楽しそうな事が起こっているみたいだね?」
「ハハハ…申し訳ない」
「いやいや、こちらに比べたら可愛いものだ。何なら、この術式を教えても良いよ?」
おぉ!? マジですか、これはまた魅力的な提案ですね。
最近、魔法やスキルから採れる、新たな術式が減ってきていたので、有り難いのですが……
「その代わり、頼みたい事がある」
まぁ、そう来ますよね。物資か、契約か…応えられることなら良いのですが。
「今回の一件を、見逃してもらえないだろうか?」
ん˝? 今回の一件? …………何のことでしょう?
「え~~~と…具体的には?」
「え?」
何か言いにくい事を聞いて仕舞ったのか、竜王は視線を逸らし、悔しそうな表情を浮かべる。感情と表情が直結していますね、とても素直な方の様だ。
しかし、どうやら嫌味ととられて仕舞ったらしい。周りの竜族の方達が、悔しさと、情けなさと、少々の怒りを抱いている。う~ん困った。まさかこんなに早くすれ違いが起きるとは…。
「竜王様、発言してもよろしいでしょうか?」
「シスタか…どうかしたかい?」
少々の沈黙の後、シスタさんが声を上げる。それを見て、竜王がこちらに視線を向けるので、お構いなくと、頷いておく。
「ダンマスは恐らくですが、本当に思い当たって居ないのだと愚考いたします」
「いやいや。これだけの事を引き起こしておいて、それは無いだろう?」
「……それが、この迷宮主なのです。一線さえ越えなければ、自分の身内が傷つけられなければ、大体の事は許すでしょう。そして何より、ダンマスはここに現れるまでの経緯を、把握していない様に見受けられます。かのお方…ゴドバルトが、ダンマスの配下を害そうとしたのを、把握していないのです」
「……へぇ?」
「「「ヒィ!!??」」」
シスタさんの言葉を聞いて、自然と声が漏れる。
ふーん、そっかー、あのトカゲモドキ、俺の事を獲物とか言っていましたが、既に俺の身内に、手を出そうとしていたのですか~……
「竜王様?」
「な…なんだい?」
「あれは、もう仲間では無いのですよね?」
「そうだね、もう仲間とは呼べないね。明らかに、こちらにも敵意を向けている。反逆と言って良いだろう」
「では、こちらで貰っても構いませんか?」
「……あれには、聞かなければならない事がある。その後ならば構わない」
「なんでしょうか?」
「同族殺しの件だ」
そんな事もしていたのですか。ですが、何故今なのでしょう? 分かっていれば、もっと前に聞けたでしょう? そもそも、ここに連れてきたりもしないはず。
「あの幼竜、ルナだったかな? あの子から聞いたのさ。ゴドウィンの親だと言えばわかるかい?」
「あぁ、あの。自分の子供の性格を歪ませた、糞でしたか。納得です」
「……ゴドウィンは元気かい?」
おや? そこに食い付くとは思っていませんでした。
仲間と言うか、群れの内の一体、国で言うところの市民一人に、王族が配慮するようなものですからね。
「えぇ、今までの鬱憤を晴らすかのように、思う存分暴れていますよ。本気で動けるようになって、色々吹っ切れたみたいです」
「話すことは?」
「ちょっと待ってください(話せますか?)」
(少々お待ちを……、……、…………分かった。すみません主様。本人から拒否されました。もう関わり合いになりたくないそうです)
「…だ、そうですよ?」
「そうか……」
あら、これは結構落ち込んでいますね。
ゴドウィンさんと、どんな関係だったのかは知りませんが、色々と思い入れがあったのかもしれませんね。
「……ゴドウィンから、ある程度話は聞いていますよ。聞き取りレポートがありますが、お読みになりますか?」
「本当かい? 頼むよ」
ハイハイ、え~と、何処に保存しましたかね~……あった、あった。【倉庫】から竜王様の目の前に、ドサっと紙束の山を取り出す。
「ハイどうぞ。人族の共通語で書かれていますが、問題ありませんか?」
「ありがとう、読めるから問題ないよ」
「関係ない部分や、誤字脱字が有るかもですが、お許しください」
俺の<翻訳>では、言語まで適応しなかったので、コアさんを経由して翻訳したモノになる。その為、スキルの操作を誤っていた場合、誤字や脱字が起こっている可能性がありますが、日本語の文章を出すよりはいいですよね?
(主様~。御料理の準備が整いました~)
「ご苦労様です。早速ですが、お願いします」
「ん? 食べ物かい?」
「はい、お口に合えばよいのですが」
レポートから目を離すことなく、問いかけて来る竜王様。てか、ものすごい速度で読み進めていますね。ゴドウィンさんの半生が、ものの数時間で読破されて仕舞う。
「大丈夫だよ。君らからの土産も、好評だったからね」(くいくい)
ん? 指を曲げて、こちらに来るように促がされる。それに従って身を寄せれば、相手もこちらへ体を傾けて来る。内緒話でしょうか?
「余り良いモノを、与えないでやってくれ」(ひそひそ)
「何故です?」(ひそひそ)
「贅沢を覚えると、今までの食事では、満足できなくなるかもしれないからね」(ひそひそ)
あ~、確かに。テレさんの食べっぷりは、見事なものだったらしいですからね。
欲望に際限は無いと言いますが、それは竜族も変わらないのでしょう。三大欲求ともなれば、尚の事でしょう……フフフ
「ですが、もう用意して仕舞いましたし、“あれ”を放置するのも、危険かと」
「うぅ…」
とある方を指させば、唸り声を上げる竜王様。
その方向には、何かを察したテレさんが、涎を垂らしながら、ソワソワと落ち着きなく視線を彷徨わせていた。近くに空いた穴から、匂いでも漏れていましたかね~? (すっとぼけ)
「こちらとしても、期待を裏切る様な真似はしたくありません。そうですね、量にもよりますが、調味料や食料を定期的に提供する位なら、できると思いますが?」
「む…むぅ……それも、ありかな?」
意外と落ちるのが速かったですね。お土産作戦は、思っていた以上の効果を発揮してくれていた様です。やはり、害よりも益を提示したほうが、食いつきが良い。追いかけるよりも、誘い込む方が楽でいいですね~。ダンジョンだけに。
「お待たせしました」
「キッッッタ~~~!!!」
運ばれたテテレテ料理が、竜族の皆さんの目の前に並べられる。それを見て、待って居ましたとばかりに、歓声を上げるテレさん。
嬉しいのは分かりますが、翼がエレンさんに当たって居ますよ? 本人は感覚がマヒしているから、当たって居る事にも気が付いていないようですが…あ、シスタさんに殴られた。
「おぉ、これが。テレが言っていた…」
「本当にテテレテなのか? 臭くないぞ」
「いや……僅かにだが、あの独特な香りがする」
「皆さまの体格に合わせまして、噛み応えのある大きさで提供させて頂きました。最後にはデザートもご用意しておりますので、ごゆるりとお楽しみください」
掴みは大事ですからね、他にも出しますが、インパクトのある物から提供となった。
あ、人型と言う事で、切り分けた物もちゃんと用意していますとも。目の前に席がセッティングされ、皿に乗せられた料理が並べられる。
「「「うめぇ!!」」」
「これだよ~、これこれ~」
ふむ、周りの反応は上々、餌づ…胃袋を掴むことに成功した様ですね。
周りの反応を見て、竜王様も料理に視線を向ける。
「どうぞ」
「ふむ、どれ……」
一口食し、頭を抱えだした竜王様。如何したのでしょかね?
味に不満が無いのは、歓喜の感情からも分かりますが、他にも思うところが有るのでしょう、色々な感情が入り乱れているのが良く分かる。
感情が素直に出る方ですね~。俺としては、とっても好感触です。一緒に居て違和感がないですからね、とっても気楽です。
「はぁ……ダンマス」
「…なんでしょう?」
「食料の件、頼む」
「はい、ありがとうございます」
向こうからしたら、弱みを見せるのは避けたかったのでしょうが、周りの反応と味を見て、諦めたようですね。
ここで、食料を手に入れられないとなったら、周りの不満が募るでしょう。最悪、勝手にこっちへ移住なり、略奪なりするかもしれない。そうなれば、責任を負うのは、代表である竜王様。だったら、初めから提供してもらえるように、交渉したほうがトラブルは減るでしょうし、利益も大きい。
こちらとしても、植生の食料は幾らでも生産可能ですからね。交渉材料となるのでしたら、これ程頼りになるモノは無い。問題は、向こうが何を対価に提示できるかですね、流石にタダでは提供しませんよ?
迷宮主のメモ帳:スキル、<~感知>系
生物、非生物、魔力、瘴気など、感知に直結するスキル
下位<~感知>:感知できる範囲と精度に修正を掛ける。<魔力感知><属性感知><気配感知><存在感知><動体感知><危険感知>等々
中位<~察知>:感知した存在の詳細把握に補正を掛ける。
上位<~探知>:隠れている物まで把握することができる。
 




