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143 ルナちゃんの特別授業②

①「休憩? 魔力回復の訓練ですわ!」byルナ

②「怪我? 肉体回復の訓練ですわ!」byルナ

③「オーバーワーク? 精神回復の訓練ですわ!」byルナ

「で、なんで私は呼ばれたの?」

「この子の、立ち合い相手になっていただきますわ。それと、折角あなたも仲間になった事ですし、ついでに手ほどきしておきますわ。才能は有りそうですし」


訓練の翌日。ゴドウィンに一通り基礎を叩きこんだルナは、森からキョクヤを攫って山へと戻ってきていた。実戦経験の補完と、新人の教育を並行して行う為だ。

ゴドウィンは、一晩で基礎を叩きこんだが、実戦経験が皆無。キョクヤについては、今まで野生として生活していたため、実戦経験はある程度備わっているが、魔力の操作効率が悪い。ビャクヤとの戦闘を近く見て把握していたため、この際同時に教育してやろうという算段だ。


「……手ほどきは有り難いけど、手合わせって……その死にかけと?」

「ヒュー…ヒュー…」


胸を上下に動かしながら、抜け殻の様に仰向けで倒れ伏しているゴドウィンを指さしながら、渋い顔をするキョクヤ。満身創痍といった様相の相手と戦えと言っているのだ、鼻先に皺が寄るのも仕方が無いだろう。


「はぁ、まだ回復していなかったのですか……さっさと起きなさい!」


そのゴドウィンの姿を見たルナは、やれやれと言った感じに頭を振り、長い尾に魔力を込めながら、叩きこむ様に無防備な腹へと振り下ろす。


― スパン! スパン! スパン! -


「ふぉーーー!!??」

「何やってんの!?」


目の前で行われる暴虐行為に、思わず声を上げるキョクヤを余所に、涼しいか顔をしながら、ゴドウィンの背中と地面に尾を差し込むと、そのままうつ伏せになる様にひっくり返す。


「無害な魔力を叩きこんだだけですわ、ほら起きる起きる」

「お、おぉぉ? なんか、回復してるぞ!?」

「うっそでしょ!?」

「この方法は、乱用する様なものでは無いですわ。残りは自分で回復しなさい」

「おす! す~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


因みに先ほどの処置だが、魔力に攻撃性を持たせれば、今の一撃が内部で弾け、内側から肉体が破壊されて居た所である。素人は決してしてはいけない。さらに、何度も行うと癖が付き、外部からの抵抗力が低下する傾向がある為、乱用も禁止である。


「なので、真似しようとは思わない事ですわ」

「おう」

「てか、そんな芸当できないし。なに、魔力を無害化とかどうやんのさ?」

「それは、中級を習得してからになりますわ」

「中級…上級どうなってんの?」

「その内教えますわ。では、早速一手行きましょうか」


話はここまでと両者から距離を取ると、時間が惜しいと言わんばかりに急かすルナ。それを見てゴドウィンが、すぐさま行動に移る。既に上下関係は完成していた。


「私はいいけど……あんたはもう大丈夫なの?」

「おう、もう回復した」

「はや!?」

「まだ、魔力圧縮の練習が途中でしたから、保有魔力が少ないのもありますわね、今の状態だと、貴方の十分の一以下ですわ」

「少っな!?」

「……知っている」

「あ、ごめん」


 口が滑ったと咄嗟に謝るキョクヤに対し、ゴドウィンは何でも無いと頭を振りながら、そのまま距離を取り向い合う。今のゴドウィンはめげない、何故なら現在進行形で成長を実感しているからだ。今は弱かろうと、すぐに追いついて見せると、やる気が漲っているのだ。


「よろしく頼む!」

「ええ、お手柔らかに」

「よろしいですわね? では、始めですわ」


まず動いたのは、ゴドウィン。両後ろ脚に力を入れ、間合いを詰める。これがゴドウィン普段の戦い方、間合いを詰めて、その質量と据力で押しつぶす。竜のポテンシャルを生かした、ごり押し。相手が弱者や、同じような戦い方のモノを相手にする場合は、問題ないだろう。

だが、相手は元人である。そして、野生を生き抜いた猛者である。そんな愚直な攻撃が通る訳が無かった。右手の握りこぶしを振り上げるゴドウィンに対し、キョクヤは倒れる様に体を横に傾けると、その勢いのままに後ろを振り向く。


「は?」


その行動に困惑を隠せないゴドウィンだが、その困惑は混乱へと昇華する。

今まさに体を支えようと地面に着く直前の左腕を、振り返りざまに振るわれた尾が、外側から払いのける。


― グルン ―


「へ? グゥ!?」


ゴドウィンの視点の上下が逆転する。空中で、しかも仰向け状態では踏ん張りなど聞くはずなく、翼も使う事ができない。完全な無防備状態のゴドウィンの首に、残りの2本の尾が絡みつき、引き倒される。

そして、足払いに使われた残りの一本の尾が振り下ろされ……


「はい、それまでですわ」


……喉元に付きつける形で、決着となった。


―――


「とまぁ、真正面から戦ったら、魔法タイプ相手であろうとこうなりますわ。キョクヤ相手でしたら、たとえ正面から戦っても押し負けるのが現状ですわねぇ」

「魔法タイプ!?」

「と言っても、なんちゃって魔法タイプで、現状器用貧乏ですわ」

「器用貧乏!?」


ルナの言葉に、落胆の声を上げる両者。

ゴドウィンは、暴竜と言う肉体面が優遇された種族でありながら、真逆な相手に力負けしたことに、キョクヤは、最近魔法に自信を持ってきていたのに、真面に評価されていなかったことにである。


「さて、どんどん行きますわよ。ゴドウィン、今日中に相手から一本取って見せなさい」

「おう!」

「え、まだやるの? てか、今日中って」

「当然ですわ、1,2回戦った程度で、鈍り切った勘が蘇る訳ありませんわ」

「えぇ~」


キョクヤの攻める様な視線もなんのその、さも当然と言いたげに自然体で受け流すルナ。それどころか、目を細め面白いものを見る様にキョクヤの方を向く。


「報酬として、貴方にも稽古をつけると言ったではありませんか」

「それが条件だったの!?」

「そうですわよ? それに、戦闘経験を積めるのは貴方も同じ。なら。これくらい付き合いなさいな。それとも、器用貧乏のままでいる積りかしら?」

「ぐぬぬ……」

「了承で……よろしいですわね。それでは時間も有限ですし、再開ですわ!」

「行くぞ、おらぁ!」

「ちょ、不意打ち!?」


―――


数時間後。日が傾き、空が赤く染まり出す頃、一方的だった戦いに変化が起きていた。


(あぁ、もう! どんどん面倒になる!)


放たれた足払いに対し、地面に足を付けることなく自ら空中で回転し、その勢いすら利用し飛び掛かるゴドウィン。大口を開け、噛み千切る勢いでキョクヤに食らいつくが、その牙が届くことなく空を切る。自ら前へと進み、攻撃をかわすと同時に懐へと入り込んだキョクヤは、比較的柔らかい腹に向けて拳を叩きこむ。


「おぶ……ガァ!!」

「アンタ、タフ過ぎるでしょ!?」


 吹き飛ばされるもすぐに立ち上がり、間髪入れず攻撃に移る。開始より休憩なしのぶっ通しで行っている為、もうウンザリと言った様子のキョクヤとは打って変わって、ゴドウィンは苦痛で顔を顰めながらも、その口角はつり上がっていた。


(しかもさっきの攻撃、手ごたえがおかしかった。魔力の量的には変わっていたように見えなかったけど、復帰も早かったし……ガードしたの?)


相手の動きが見える様になり、体も反応するようになってきた。それに伴い、防御力を持った魔力への、瞬時の切り替えが間に合うようになり、一度の戦闘時間も伸びてきた。少しずつ、されど着実に前へと進んでいる。そう実感できているからこそ、負けているといえ、楽しくて仕方が無いのだ。


「くっそ!」

「させるか!!」

「あぁもう!」


キョクヤの尾に、魔力が集中する。それを見てゴドウィンが、全力で間合いを詰める。


 何度倒しても、すぐに立ち上がってくるゴドウィンに対し、嫌気がさしてきたキョクヤは、得意分野の魔法で沈めに掛かったことが有った。

確かに、高威力の魔法による攻撃は、ゴドウィンを一時的に行動不能にまで追い込んだ。だが、それが通用したのは最初の一回だけだった。キョクヤの魔法は防げないと判断し、多少のダメージを覚悟で威力が上がる前に潰しに来るようになったのだ。

失敗すれば、真正面から攻撃を受ける様な賭けに近い行動。されどその行動が、今の彼にできる最適解であった。そしてこの瞬間、その繰り返し取った行動が、実を結ぶ。


「な!?」

「そこぉ!!」


 迫る火炎の軌道を完全に見切り、多少のダメージと引き換えに、最短距離を突き抜ける。例え最大威力で無かろうと、喰らえば否応なしに怯んで仕舞う攻撃。だが直撃しなければ、次へとつなげられる。対して相手は、魔法に魔力を廻した事で体全体の魔力が薄くなり、普段よりも動きが鈍くなっている。この状態を逃す程、今のゴドウィンは甘くなかった。


ゴドウィンが放った拳が体へと到達する前に、両腕と尾を間に割り込ませる事で、咄嗟にガードするキョクヤだが、この選択は間違いだったと言わざる負えない。


「おご!?」


 想像以上の重さに、ガードを突き抜けて衝撃が襲う。魔力不足も相まって、踏ん張ること敵わず吹き飛ばされ、背後の岩へと叩きつけられた。ここに来て初めて、ダメージらしいダメージが発生した。


「いっつ~~~~」

「はい、終了~。ふむ、半日でクリアですか、まぁまぁですわね」

「はー、はー、はー……~~~~~~ッシャ!!」


何もない山に、ゴドウィンの声が木霊した。


迷宮主のメモ帳:魔力の指向性


意思(瘴気)による、魔力の特性変化

魔力は、瘴気にってあらゆる性質を表すが、それを意図した特徴を持たせることを、指向性を持たせると言う。


魔力に属性を持たせれば、各種魔法の発動に繋がり、爪や牙に斬る事を目的に魔力を込めれば斬撃の強化、殴る事を目的に拳に魔力を込めれば打撃力の強化につながる。抵抗力についても同様で、それらの指向性を持った魔力に対し相殺または抵抗する魔力を込めれば、効率の良いガードが行える。


ステータスで言えば、外部への物質や魔力に対し、攻撃性(圧力)を持たせれば、攻撃力の上昇。外部からの影響に対し、防御性(安定)を持たせれば、防御力の上昇。伝達速度を上げれば素早さの上昇などに繋がる。


これらを無意識にできる様になるスキルが、<身体操作>や各種<~魔法>などと言った補正のかかる技術スキルや、爪や外殻や骨格などの各部位に影響する肉体スキルである。


因みに、攻撃に対し攻撃性を帯びた魔力で相殺することもできるが、肉体への反動がある為、素直に防御したほうが反動は少ない。


補足

空気中の魔力が、体に悪影響を起こさないのは、害のある指向性を持たない為であり、すぐに魔力酔いや魔力焼けなどの症状が発症しない理由でもある。

体内以上に魔力濃度が高い環境は稀なので、排出が遅く成る事はあっても、体調がすぐれ無くなる程度で済むので、魔力の排出などに障害を持たない限り、発症は稀。

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