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113 黒狐が行く!⑥

「ふ、ふぉ!?」


やべ、変な声が出た。だってだって、見たことも無い程綺麗で、カッコイイ狼なんだもん。


太陽の光を反射する白銀の毛並み、一目見ただけで分かる、モフモフフワフワサラサラに違いない! てかあれ、絶対野生の毛並みじゃないでしょ、絶対誰かが手入れしてる奴だよ。今まで出会った子達も、野生育ちにしては綺麗な姿だったけど、この狼は別格だ。

やべぇ、超モフりてぇ…ジュルリ。


「なんだぁ貴様は、邪魔だ。それとも死にたいか、あぁ?」

「君だね、この辺りを荒らし回っていたのは」


放たれる<威圧>を無視して、こちらに向かって優雅に歩みを進めていく。


「俺様の縄張りに勝手に入りやがって、雑魚は消えろ!」

「ちょ、ここ私の縄張りなんだけど?」

「全て最強の俺様のモノになるんだ、俺様が居る所が俺様の縄張りだ」

「ここ、僕の縄張りなんだけど」

「「はぁ?」」


流石にそのセリフは、無視できないわね。それは下種野郎も同じようで、視線を完全に白銀の狼の方に向ける。不意打ちしても良いけど、ここは許してあげましょう、私もちょっとイラっと来たし。


「強く成ろうとする子は良いよ? だけど君みたいな子は、許容できないかな」

「はぁ? エサが何言ってやがる」

「怖かった? 悔しかった? 欲しいものが手に入らなかった? 今を生きるのに必死だった?」

「雑魚が吠えるな、うぜぇんだよ! 最強である俺に、気安く話しかけてんじゃねぇ、ぶち殺すぞ!」

「どうしても勝てない相手に出会っちゃった? 越えられない壁に直面しちゃった? 目の前の壁しか見えなくて、その先が見えなくなっちゃった?」

「黙れって言ってんだろうが!」

「……強く成ることを、諦めちゃった?」

「死ね、ゴミが!」


苛立ちが限界を超えたのか、魔力を滾らでた腕を、白銀の狼に向かって振り上げる。

凄い余裕そうだけど、あいつの一撃を受けたら唯じゃすまない。でも、私が助けに入るのもなんか違う気がする。モフりたくは有るけど、私達の縄張りに入ってきた敵な訳だし、<鑑定>だけして様子見しましょう。

下種野郎が腕を振り被るのを見て<鑑定>を掛ける……そう言えば、あいつが来た方向って、誰も攻めてこなかった森の奥からじゃない?


名称:戦狼(バトルウルグ)

氏名:ビャクヤ

LV:9 / 25

スキル

・肉体:<爪><牙><尾><毛皮><状態異常耐性><状態異常無効><物理耐性>

<物理無効><魔法耐性><魔法無効>―――

・技術:<身体操作><魔力操作><武術><見切り><急所抜き><隠密><跳躍>

<疾走><気配感知><魔力感知><嵐魔法><光魔法><思考加速>

<平行思考>―――

・技能:<身体強化><突撃><瞬撃><全力攻撃><自己修復><高速移動><集中>

<威圧><念話><鑑定><瞑想><限界突破>―――

称号<迷宮主の愛犬><幹部ボス><足掻く者><死線を越えし者><選定者>

<下剋上>


「「は?」」


私と下種野郎の声が被る。白銀の狼の後ろで何かが揺れたかと思ったら、下種野郎の腕がずり落ちたのだ。


何をした!? <鑑定>に集中してて分からなかった。だけど、白銀のしなやかな尾が揺れ動いているのが見て取れる。まさか、魔力で強化した尾で、切り落としたの?


「ぎゃーーー!?」

「五月蠅いな~、今まで散々荒らし回ったんだから、最後くらい静かにできないの?」


種族は戦狼、レベルは私とそう変わらない。しかも、最大レベルが私と同じって事は、ステータスは見られなかったかけど、進化回数とステータスもそれ程変わらないはず…って、スキル多!? 見切れなかったし、しかも見られたやつだけでも、ヤバイのばっかりじゃない!?


「ひぃ、ひぃ~~~!?」

「はぁ、これだから諦めた子は」


白銀の狼、戦狼がそう言うと、這う這うの体で逃げ出す下種野郎の首が、呆気なく落ちた。

今度は見えた、尾で間違いない。尾を剣の様に振るって、切り落としていた。


「基本自由にさせているけど、度が過ぎるのは処理することにしているんだ」


普通ならこんな事にはならない、幾ら首だろうと、弱そうだろうと、魔力で覆われた部位は、簡単には傷つかない。それが通ると言う事は、ぶち抜いたか、すり抜けたか。今回は後者、多分<急所抜き>ってやつね。


「さてと、目的は達したけど…君、さっき僕の事<鑑定>したよね、何のつもり?」

「!?」


こちらに歩みを進めて来る戦狼。え、もしかしてこの状況ヤバイ? さっきの攻撃を見るに、もうこれ、攻撃範囲に入っちゃってるよね? 逃げる? 躱す? 対話する? はたまた先手必勝? い、一応こっちに敵対の意思が無い事を言うべき? 


「? ……へぇ」


どうするか迷っていると、戦狼が感心した様に目を細めて、私の後ろに視線を向ける。それと同じくして、四方の茂みから何かが飛び出してきた。


「姉御に近づくな!」

「ダメ!」


後ろに下がっていたはずの皆が、戦狼に向かって飛びかかる。それに合わせて白銀の尾が揺れ、掻き消えると同時に空気が弾ける様な音と共に、皆が吹っ飛ばされた。


「がは!?」

「なに、しやがっ…た?」

「おぉ、皆ちゃんと防いだ。君達強いね!」


良かった、生きてる! だけど、このままじゃ皆が危ない。こっちから仕掛けた形になるから、話し合いで済むかも怪しい。それに、私がダメだって言っても、きっと皆は止まらない。何よりも、もう私も止まらない!


<身体強化><全力攻撃><高速移動><突進><限界突破>


「テメェ!! 家の子に手を出してんじゃねーーー!!」

「おぉ?」


目の前の戦狼に向けて飛びかかる。反撃も予想して、尾にも魔力を込める事で迎撃の体勢を取りながら、拳に込めた魔力をねじ込む様に打ち込むが、横に移動することで躱される。

躱したって事は、有効打になるって事? スキルのレベルまで見られなかったけど、耐性関係はそれほど高い訳じゃ無いのかも。それなら行ける!


「おぉ凄い凄い、速いね君! ほかには何ができるの?」


余裕綽々って感じかしら? いいわ、見せてあげる。その綺麗な顔を歪ませてやるわ。

下手な小細工は通用しないだろうし、多分戦闘経験も向こうが上。だったら私にできる事と言ったら一つしかない、スペックで上回る!


「はぁーーーーー<限界突破>!!」


体内にある魔力を絞り出し、体内に行き渡らせる。今まで使っていた、小出しの<限界突破>とは違う、全力のスキル使用。これだけでも、今まで会った奴なら一蹴できる力なんだけどな~。予想はしていたけど、相手の表情は変わらない。


これ、まだ慣れてないから、発動するのに少し時間が掛かるけど、待っててくれるんでしょ? 自分の内側に意識を集中し、目的の能力に働きかける事で、そこから更に別のスキルを発動する。


「<開魂>!!」

「!?」


血の気が引くような感覚と共に、内側から弾け飛んで仕舞いそうな程の力が沸き上がる。

ふはは! ようやく表情が変わったわね。今私が持って居る最強の手札、それが通用しないとか絶望しかない所よ。


但しこの能力、限界まで発動するとその後全く動けなくなるし、回復にも時間が掛かる。その上、肉体への負荷が無視できないレベルでかかって、体中から悲鳴が上がる。正直、激痛で動く事すら難しい。だから、こうする!


<狂気化>


痛みが引き、更に力が湧いてくる。

寿命を削っている意識はある。痛みが無くなっただけで、負担は無く成っていない、寧ろ上がっているでしょうね。意識はまだ保って居るけど、一歩でも動けば、きっと私は力尽きるまで止まらない。


「ワッフゥ♪」


はは…こっちはここまでしているのに、アンタはなんでそんなに嬉しそうなのよ、こんチクショウ!


「死んでも知らないわよ!?」

「うん、来る!」

「ぶっ飛べーーー!!」


踏み締めた地面が爆発する様に弾け飛ぶ。その音を置き去りに、前へと突き進む。

技なんて無い、上がった身体能力を生かした、全力の体当たり。相手は避ける事も、できなかったとしても逸らすことくらいはできたでしょうに、真正面から受けてくれた。


― ド! -


衝突の余波が衝撃波となり、周囲の地面や木々をなぎ倒す。


(ちょっとくらい、ダメージ受けなさいよ!)


力任せとは言え、全力の一撃。それを受けて平然としてるとか、本当に化け物ね!?


押し返そうとして来るけど、初速がある分こっちの方がまだ有利! それに両手足は使えないけど、私にはまだ尾が3本もある。

狙いを定め、相手の体に向けて槍の様に尾を突き出すも、その攻撃は空を切り地面へと突き刺さった。


(普通、この状態で躱す!?)


お互い踏ん張って押し合っている中、放たれる一撃。それを、少し体をずらすだけで、擦れ擦れで躱される。だけど、体勢は崩れた! 

踏ん張りが甘くなった所へ一歩踏み込み、地面に刺さった尾も利用して、更に押し込む!


「ム!」


よし、押し勝てる! 方角も良い、このまま戦うと周りの子達を巻き込んじゃうから大きな力は使えない、このまま押し切っては引き離す!


「オララララララ!」


バキバキと周囲の木々をなぎ倒しながら、押し込んでいく。一発くらい当たりなさいよ!


地面を抉り、木々をなぎ倒しながら進んでいる内に、視界が開け全身を日光が照らし出す。どうやら森の外に到着したらしい。ここでなら遮るものは何もない、思う存分戦える!


今まで押し込んでいたのを止め、首に力を込めてかち上げ、空いた首元に向け左腕を突き出すけど、右にそれて躱される。


<思考加速>習得


あれ? なんか時間の流れがゆっくりになって無い? 

相手の左腕が動き、真っ直ぐ私の腕に伸びるのがハッキリわかる、人と犬の中間みたいな短い指が、突き出された私の腕を、親指に引っ掛けて、残りの指で抑えて固定する様に掴む。あ、パンダみたいでちょっと可愛


― グルン -


「え?」


相手が体を捻って反転したかと思った瞬間、視界が反転した。私の目に、一点も曇りのない青空が映し出される。


何されたの、え? まさか、投げられた!?


視線を横に向けると、後ろを向く戦狼の姿が見えた。片足を上げ、そこにギチギチと魔力が集まって行く。あ、これ、まともに受けたら死ぬやつだ。


<思考加速LV1>→LV2

<精神耐性LV2>→LV3

<恐怖耐性>習得


引き延ばされた時間の中、眼前に死が迫っていると言うのに、自分でも驚くほど冷静で居られた。


躱すのは無理、だって手足が付かないもの。

受け流すなんてもっての外、相手の方が技量は上だし、そもそも私にそんな芸当無理!

防御? 防御しかない! 全体を守る何て、リソースが足りなくて無理、丸まって範囲を縮める。尾に全魔力を集中させて、相手との間に差し込む。横に並べるだけじゃダメだ、一本分だけだときっと貫かれる、カバー範囲が狭くなるけど重ねて対処するしかない!


相手の足が持ち上がる。あぁ、来る来る来る来る来ちゃう! お願い、ガードしたとこに来て!!


「ワッフゥ♪」


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