表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/334

111 黒狐が行く!④

穴から出て、明るい場所に出ると、さわやかな風が頬を撫でた。


「広いっすね!」

「広いって言うか…太陽あるし、ここ外よね?」

「太陽って何っすか?」


そうだよね、この子達からしたら、地上は初めてだものね。地下の空洞と外との違いが分からなかったのか。しかし、ずっと地下に居たせいか空気が美味しいわね。乱立する巨大な木々、その枝葉から差し込む光。うん、視界が悪い!


「姉御! これからどうします?」

「他の奴らも、連れてきますか?」


う~ん、サバイバル知識は無いから、どうしたらいいか分からない。ここは野性的な本能に任せて行動したほうがいいかな? ……野性的な行動って、どないせいちゅうねん。


思っていた以上に浅かったし、ここを中心に活動して、地下を避難場所にすれば、結構安全?

取り敢えず、周囲の安全確認、で、良いよね? 皆を連れて来るのは、それからでいいでしょう。いいよね? 合ってるよね?


「って訳で、プリンちゃん、行ってきなさい。敵を見つけたら、無理はしないようにね」

「了解しやした。野郎共! 偵察に行くぞ!」

「「ワンワンオー!」」」

「静かに行けや!」


隠密行動を心がけてよね、もう。何が居るか分かんないんだから。

しかし、プリンは無かったかしらね。鼠だったころは活発だな~程度だったから、こんな口調だと思わなかったのよ。今更改名もできないし…可愛いからいいか!


待って居るのも暇だし、私も少し探ってみましょうかね。近くに、他に地下への穴でも無いかしらね~


「姉御、姉御! メシ見っけた」

「早!?」


近くの茂みが揺れ、プリンちゃんが顔を出す。口には茶色い何かを咥えている。これは、巨大鼠の亜種?


「弱かった!」

「いっぱい居た!」

「でも逃がした、足速い!」


大きさは同じくらいだけど、こっちの方が弱いのか。その代わり数が多くて速いのね。

良し、そんなのが生き残っているなら、力関係はそこまで絶望的では無い筈。周囲の安全を確保したら、他の子達も呼ぼう。


「その為にも、私も出るわ」

「ダメっす姉御、姉御に何かあったら、取り返しがつかないっす!」

「そんなの、危険なのは皆も同じよ」

「「「同じじゃない!!」」」


そ、そんな怒鳴る事無いじゃない。危険度は同じなんだから、皆は探索に力を入れて貰って、他より強い私が出た方が確実じゃん。


「姉御は…姉御は唯一無二なんです! 代わりの利くおいらとは違うっす!」

「姉御は、デーンと構えていてくれれば良いんす!」


生れた時からそうだったけど、皆私に対して過保護に過ぎる。私だって死にたくないし、死ぬつもりも無い。心配してくれる事自体は嬉しいんだけどね。


「…言いたいことは分かったわ」

「では!」

「それでも出るわ」

「姉御!?」


確かに、守るだけならそれでいいかも知れないけど、それじゃぁきっとじり貧になる。だって、トップの私が進化しないと、皆も進化できない可能性が有るんだもの。リスクを恐れては、リターンは得られない。私の自己強化は、必須事項よ! 


「勝てない相手ならすぐに逃げるし、それならいいでしょ?」

「ム~~~」


それでも渋る、プリンちゃん。

勝てない、逃げれない相手なんて、遭遇した時点で終わりなんだから、何処に居たって同じよ。


「それとも…私が危ない時に、近くに居ないつもり?」

「それは!?」

「だった初めから私の近くに居て、全力で守りなさい!」

「!? …分かりやした、姉御。お供させて頂きます!」


良し、探索開始…の前に、ビスケちゃん()ショコラちゃん()達も呼んで、ここの守りを任せましょう。他には、ロールちゃん()にも探索に加わってもらわないと。目標は、安全確保と肉以外の食べ物よ、そろそろ肉以外の物も食べたいの!


―――


森の中を進んでいく。時々弱い奴を見かけはしたけど、周囲に危険な存在は確認できなかった。これってもしかして、私達って結構強い?

これなら、もう少し冒険しても良いかも知れないわね。安全を確保した範囲が広い程、危険が近づいて来た時気付きやすいし、対処するまでの時間が稼げるはず!


「もう少し、奥まで行ってみましょう」


取り敢えず、真っ直ぐ進んでみる。変に曲がりくねって迷いたくないし。

だってここ、木ばっかりで風景が変わらないんだもん。皆が居なかったら、迷う自信あるわ。最初は良い所だなと思ったけど、流石にこれじゃ飽きるわね。


そんな訳で、どんどん奥まで進んでいった訳だけど…


「なんも居ないっすね」

「メシも見つかんないっす」


途中から何も見つからなくなっちゃったのよね。あの穴から、生き物が湧いてるから、奥に行くと生き物が少なくなるのかな? 御飯(食べれる植物)とか豊富そうだし、無理して移動する理由も無いのかもね。


「…ッシ」

「何かあった?」

「……何か居やす」


何処だろう……全然わからん、こうゆうのは苦手だ。直接的な危険にはすぐに反応できるのに、こう、野生の勘的なのが全く働かないのは、遺憾ともしがたい。


姿勢をさげ、慎重に進む。


「あ…姉御。これ以上は」

「何かあった?」

「分かりやせん。だけど、尻尾の震えが止まらねぇんでさぁ」


プリンちゃんを見れば、尾を後ろ脚の間に挟み、腰が引けていた。他の子達も同様で、完全に怯え切っていた。弱い鼠の頃に巨大鼠に襲われた時ですら、こんな姿見無かったわよ。


「そんなにヤバイの?」

「姉御の近くなら、どんな奴が相手でも平気だと思ってやしたけど…無理です、これ以上は危険です」

「ひ…引き返しやしょう」


そんな存在が近くに居るだなんて、そんなんじゃ安心して生活できない。尚更確認しなきゃならないわ。皆の安全の為にも、ここはリスクを取る!


「貴方達はここに居なさい。確認して来るわ」


隠密は苦手だけど、流石にこんな状態の子達を引き連れて行くわけにはいかない。姿勢を低く、足元に気を付けて、なるべく音を立てない様に…って、イッタイ!?


「お、お願いしやす姉御。戻ってきてくだせぇ」


後ろを振り向けば、プリンちゃんが今にも泣きそうな顔で、私の尾に噛付いていた。うぐぅ、その表情は反則よ。


……あぁもう、分かったわよ。今後こっちには来ないって事で、引き返しましょう。

安堵の表情を浮かべる皆を引き連れ、踵を返す。近くに危ないモノがあるだなんて、落ち着かないんだけどな~。


「ん?」

「どうしたの?」

「なんか聞こえません?」


音? あ、本当だ。

森の奥から、バキバキミシミシっと木が裂ける様な音がし、パキパキと枝が折れる音と共に、影が差す。上を向けば、木々の隙間から差し込む光を遮る様に、巨大な何かがどんどん迫ってきていた。あれ、これって直撃コースじゃ?


「た、退避―――!」


歪に捻じれた巨木が、私達が居る所擦れ擦れに倒れてきた。あ、危なかった、皆も無事ね。

森の奥に居るヤバイ何かが倒してきたの? こんな大きな木を? これがこっちを狙っての事なのか、偶然だったのかは分からないけど。ここに長居しない方が…


「キ?」

「え?」


倒れてきた木の枝葉の間、そこに引っ付いていた黒い何かと、目と目が合った。

フニフニピコピコと動く触覚、鋭い爪と牙、少し艶のある硬そうな黒い体、妙に愛嬌のある目をした。えっと…巨大アリ?


「姉御!」


皆もその存在に気が付いたのか、巨大アリと私との間に割り込み、唸り声を上げる。ずっと一緒に居たから分かる、威嚇に怯えが混じっている。普段なら突然としても、こんな切羽詰まった声を上げたりしない。つまり此奴が、皆が怯えていた原因?


強そうには見えないけど、野生の勘的には相当ヤバイのかしら…毒とか?

だが、見えてさえいれば私だって反応できる。開けたこっちに来た時が、お前の最後だ!


掛かってきやがれこの野郎! 囲んで叩いてやる!


「キ?」(どちらさん?)


ギャー、喋ったー!?


―――


「えー、この先なにも無いの?」

「うん、全部食べつくされて、草一本も無いよ。有るのは地中に産み付けられた、害虫の卵だけだね」


話の分かる人…蟻さんで良かった。後ろでは、今でも他の蟻達がせっせと掘り起こした木を運んでいる。何でも、肥料にしたり建材にしたり、挿し木として何もない敷地に植林するらしい。そんな簡単に生えるもんなの? 魔法で何とかなる? へ~~~……


「魔法!?」

「そう」

「どうやって使うの!?」

「え、感覚で使い方は分かるはずだけど」


いやいや分からないって、イメージしろとでも…え? マジで?


「厳密に言うと、感じられる魔力に、働きかける? 意識する? 外に出しながらそれが変化する様にイメージする…かな? 普段は感覚でやってるから受け売りだけど」


むぬぬ、イメージか。その前に魔力ってモノも感じ取らないとダメなのよね。何だったかな~、こう、体の内側に意識を向けて、魔力が無かった(人だった)頃に無かった感覚を見つける的な話を、前世でゲームに誘って来た奴()が言っていたような……


目をつぶって自分の中に意識を集中する。体の中に流れてるのよね、だったら血液の流れをイメージすれば良いのかな?

…、…、……? …………あれ? イヤイヤまさか~。腕の動脈辺りを、反対の手で押さえる……脈が無い…だと?


「どったの?」

「み、脈が無い」

「はぁ? あるじゃん、何言ってるの?」


いやいやいや、こうドクンドクンって、脈打つ感覚が無いでしょう!?


「良く分からないけど…ちゃんと魔力は流れてるよ。感じられてないだけじゃ無いかな?」

「え? 心臓は?」

(心臓)? 魔石の事?」


どうやら魔石ってやつが、体内に魔力を循環させているみたい。それが、心臓の代わりになっているの? そして、魔力を感じられないから、脈も感じないと? 体の構造自体が、普通の動物と違うの?


……考えて見ればそうか、でなきゃ進化なんて、物理法則を無視した成長なんてできないか。

脈が無いって事は、あれだ。血が無いって訳では無いから、あの紅いのが魔力? …なんか違う気がする。あれは血として、酸素の代わりに魔力が含まれているとか? 心臓が物理的に血液を送っているのとは違って、魔石が魔法で送り出しているとか。だから脈が無い?

じゃぁ、血液が体内に巡っているのをイメージすれば、感じ取れるかな?







あ、これ…かな?


試しに、体の外に出て行く様にイメージしてみる。おぉ出て行く出て行く、そしてこれにイメージを込めればいいのよね? 

イメージ、イメージ………


(燃えろ)


― ボン ―


「「「おぉ!?」」」


……できちゃった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ