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109 黒狐が行く!②

さっきの光景が、脳裏に焼き付いて離れない。


何であの子は、身代わりになってまで私を助けたの?

なんでこの子達は、巻き込まれる可能性があったのに、私を助けたの?

私はこれから、どうすれば良いの? 


分からない判らない解らない……何が起こっているの? これは本当に夢なの?


「……きゅい」


一緒の穴に逃げ込んだ子達が、私の周りに集まり身を寄せて来る。

あぁ、あったかい。落ち着く。

…皆、震えてる? そっか、そうだよね、皆も怖いよね…………誰だ、私の天使たちを怯えさせるのは。


「ギュ! ギュギ!!」


ガリガリと掻き込む様に、私達が入った穴に腕を突っ込む巨大鼠。そうだこいつだ、何もかもこいつのせいだ。

先までの感情は何処へやら、今私の内に沸き立つ感情は、この子達を襲う存在に対しての殺意に染まって行く。 


それに、ここに此奴が居るって事は、あの子はまだ無事かもしれないんだ。だったら現状、やる事は一つしか無いじゃん。


「きゅ…きゅい?」

「…!? きゅきゅ~い!!」


擦り寄ってくる子達を掻き分け、前へ。他の子が止めに入るが、それを押しのけ、巨大鼠の腕が届くギリギリの距離で止まる。

巨大な爪が、鼻先ギリギリをかすめる。集中しろ、これは夢だ、恐怖を捨てろ! こいつに一矢報いる!


<観察LV10>→<鑑定LV1>

<集中LV3>→LV4

<怒りLV4>→LV5

<見切りLV1>→LV2


「きっしゃーーー!!」(そこだーーー!!)

「ビャーーーー!?」


腕が伸びきる瞬間、動きが止まったその瞬間を見極め、指へと全力で噛り付いた。


<全力攻撃LV1>


ふーははは! 幾らデカくて強くても、爪と指の肉の間を噛まれたら、堪ったもんじゃないでしょう! って、うぉう!?

反射的にか、巨大鼠が腕を引っ込めようとする。だがそれは、相手が嫌がっている証拠だ。故に、全力で踏ん張る。に が す かーーー!!


<踏ん張りLV1>


うぎぎぎ、引きずられる~~~。出鱈目に暴れやがって、畜生がーーー!


「きゅ…きゅぴゃーーー!」

「「「きゅぴゃー――!!」」」

「ビャーーー、ビャーーーーーーーーー!?」


視界の端に何かが映ったかと思ったら、巨大鼠から悲鳴が上がった。その後もワラワラと奥から鼠達が現れ、指に、腕に噛り付き、穴の奥に引きずり込もうとする。

だけど、相手の方がまだ強い! このままじゃ、皆まで外に引きずり出されちゃう。だぁーーもう! こうなったら嫌がらせは止めよ! 本格的にぶっ倒してやる!


<指揮LV4>→LV5

<念話LV1>


(皆聞けーーー!)

「「「!?」」」


バラバラにやってもダメ! ここは、力を合わせて、一気に引く!!

踏ん張りながら、力を溜めろ。準備はいいか! 行くぞ!


<団結LV9>→LV10


「「「じじーーーーーーーーー!!!!!」」」

「ギュピャ!?」


よっしゃぁ、引き勝った! 続けて行くぞ!


「ジ…ジジジ…ジジ、ジジジ!?」


溜めては引く事を繰り返していると、ドンっと突っかかる様な、先ほどとは違う感覚が襲って来た。モコモコした視界の先、巨大鼠が腕を突っ込んでいた穴が、毛で埋まっていた。

腕の付け根、肩が見えてるって事は、これで動きは封じたぁ! 後は…後は如何する!? 


― ズササ――― -


あっぶな!? 気を抜くと、引き戻される。

クソ、外から攻撃できればいいのに、このままじゃ出れないし、こうなったらこの腕だけでも!


「ギュ…ギュ! ……キュ?」


あれ? 巨大鼠の引っ張る力が弱まった。

諦めた? それとも体力切れ? と思ったら、巨大鼠の困惑した様な鳴き声が聞こえてきた。外の様子が見えないから、何があったか全然分からない。


― ジュジュ -

― ジュジュジュジュ -

― ジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュ!!! -


凄い量の鳴き声が聞こえてくる。この鳴き声、どっかで聞いたような………あ、思い出した。


「ピギャーーー!?」


これ、鼠の威嚇音だ。


矢鱈目ったら暴れ出す、巨大鼠。悲鳴と、ブチブチと何かが引き千切れる音が聞こえてくる。

そうして、巨大鼠の腕から力が抜け、ぱたりと地面に落ちた。それと同時に、私の中に何かがしみ込んで来る。


<下剋上>取得


巨大鼠の腕を見ると、頭の中にイメージ? イメージが数値化された? なんかが浮かんで来た。


HP 0


何故か分からないけど、この瞬間ストンとハッキリと、相手が死んでいることを認識できた。

ずるずると、巨大鼠の体が引きずられる事で隙間ができ、そこから鼠達が顔をのぞかせる……え~と、勝ったの?


もぞもぞと、穴の外へと這い出る。

そこには毛玉の群れと、血で真っ赤に染まった巨大鼠の遺体が転がっていた。引き千切られたのか、骨まで露出している部分まである。生きたまま食われたのか、数の暴力ってとんでもないわね。


……あれ? こんなグロイもの見ても平気だ。夢だからかな? って、こんなの見ている暇無かった。皆ちょっと退いて、通して!


毛玉を掻き分けて、前へと進む。確か、確かこの辺り…に……


真っ赤な血溜まり、倒れ伏す白い体、殆どみんな同じ見た目だけど、分かる、間違いない、私を助けてくれた子だ。


「…っ……」


HP2


生きてる、まだ生きてる! あぁ、ダメダメダメ! こんなに血を流したら死んじゃう、止血しないと!


「きゅ…い…………」


傷口を圧迫して、流血を抑える。塞げる布とかが無いから、両手で挟む様に、圧迫しすぎない様に…


「…………」


あ、そうだ! 確か毛を結んで、傷口を塞ぐ方法があった筈! あれなら、布が無くてもできるはず!


「きゅい…きゅいきゅい」

「きゅい!」(邪魔しないで!)


頭を擦り付けて来る子を突き飛ばし、傷口の周りの毛を結んでいく。

頭に浮かぶイメージを振り払う様に、自分に言い聞かせる。大丈夫、大丈夫だから、きっと助かるから…


「きゅい…」


手の形が違うから、思う様に結べない。速く、早く、はやく! 


「きゅい!」

「…………」


HP0


頭に浮かんだ数値が、現実を突きつけて来る。

熱が失せ、柔らかかった毛と肉がゴムの様に固くなる。まるで何かが抜け落ちたかの様に、命が物に変わる。

その姿が妙にリアルで、温かくて冷たくて怖くて…


「きゅ…きゅぇ~~~~……」


今まで自分を誤魔化すように、夢だと思い込もうとしていたけど。もう、無理だ。この気持ちも、目に映るモノも、鉄臭い匂いも、今私が現実に居ることを、まじまじと自覚させて来る。


何で私を助けたの? 何で身代わりなんかになったの? 会ったばかりの私に、なんでそこまでしたの?

分からない、もう聞けない、恩も返せない、もう…会えない。それがどうしようもなく辛くて、悲しかった。


「きゅい…」

「きゅきゅい…」


みんなが、私の囲うように集まって、体を摺り寄せて来る。慰めてくれてるの?

うん、うん。ありがとう。大丈夫、大丈夫だから…もう少ししたら…きっと大丈夫だから……


何で助けてくれたか、それはもう分らない。だけど、悲しんでいるばかりではいられない。ここは危険だ。もしここで死んだら、この子が無駄死になって仕舞う。それだけは許されない。


「キシャーーー!」


<危険感知LV1>


振り向かなくても分かる、あいつが居る、私達を見てる。

今は悲しんでいる場合じゃない、気持ちを切り替えろ、何でも良い、動け、でなきゃ他の皆も……


<怒りLV5>→LV6→LV7→LV8→LV9→LV10→<憤怒LV1>


思考が引っ張られる、心が一色に染まる。そう、そうだよ、あいつが、あいつ等が! この子を殺した奴と、同じ奴が!


― ジュジュジュ… -


後ろを振り向く、その視線の先には、案の定こちらに向かって走り寄ってくる、巨大鼠が居た。

逃げる? 有り得ない。逃げ回った先に、何があると言うの? そもそも私の感情が、逃げるなんて選択をさせてくれない。


― ジュジュジュジュジュジュ… -


怒りが、相手への配慮取っ払う。そして何よりも……どんなに悲しくても、怒ってても、体は正直な訳で






お腹すいた






「!?」


突っ込んで来ていた巨大鼠が、私達の目の前で停止する。何で? まいいや、こっちから行けばいいだけだし。皆もお腹空いたよね?


― ジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュ!!! -


<鑑定LV1>→LV2

<集中LV4>→LV5→LV6→LV7


「ピキャーーー!?」


巨大鼠が踵を返して、逃げて行く。

はぁ? 逃がす訳無いでしょ? あんただって、私達の事食べようと思ったんでしょ? だったら、食べられる覚悟もしてたわよね?


<団結LV9>→LV10→<連携LV1>


野郎ども、狩りの時間じゃー! 数の暴力を思い知らせてやれ!


「「「きゅーーー!!!!!」」」


<獣の王>取得



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