106 病気は気から、気は瘴気から?
①報連相は大事
②仲間じゃ無いよ? 資源だよ?
③狂信者、怖いでしょう
毎朝恒例となった、クロスさんによる報告の中に、気になるモノが含まれていた。
「トカゲモドキの様子がおかしい?」
「ハ! 何でも他の個体と違い、昨晩から苦しむような仕草が目立つ様になったとか」
トカゲモドキ、このダンジョンに侵攻してきた竜族。
現在は竜の素材を回収の為に、常に<睡眠>状態を維持し<精神魔法>で精神を安定化、<麻痺毒>等も合わせて痛覚を遮断した状態で剥ぎ取り、素材回収をしていたのですが、とうとう無理が出ましたかね?
「因みに、どんな風に苦しそうなので?」
「うわごとの様に謝罪を繰返し、縮こまっています。後は、悪魔族の方達によると、発している感情(瘴気)の大半が、恐怖や後悔、喪失感だそうです」
他の方は今までと同じく、<精神魔法>で楽しい気分になっているのか、阿呆面を晒しているのに対して、一体だけ苦悶の表情で震えている。
更に時々動いて、周りの者に押さえつけられていた。あれは確か、竜族が怯えた時にとる、防御形態を取ろうとしているのですかね?
ふむ………コアさんを経由しても、違いが分かりませんね………直接見てみますか。思えば、直接会うのはこれが初めてですかね?
「直接ご覧になると!? 動きを封じているとはいえ、時たま動くこともあります。特に件の家畜は、その傾向が顕著です。何かあっては事です!」
「おや? その程度の動きも、抑えられないと? その程度では、とてもでは無いですがこのダンジョンの警備を、任せる事はできませんね」
「ム」
俺の言葉に噛みしめる様に瞑目するクロスさん。何か考え込んでいるようですが、すぐに向き直り、意志の籠った眼で真っ直ぐ向けて来る。うん、良い目をする様になりましたね。
「………分かりました。しかし、こちらの指示に従って頂く事になります。よろしいですか?」
「当然です、その辺りは本職の指示に従いますよ」
―――
「ワシの前には、出ないで下され」
何が起きても対処できるようにと、クロスさんから護衛として、カブトさんが付けられた。固いですからね~、魔力の通っていない状態の爪とかが当たっても、碌に傷もつかないでしょう。護衛として、これ程優秀な盾役は居ないですね。
道中はカブトさんに角に跨り、目的地まで移動する。いつの間に作ったのか、専用の鞍まで作っていた。壁だろうとスイスイ進むので、意外と楽しかったりする。
「到着したぞい」
「ありがとうございます」
のんびりのほほんと、乗馬ならぬ乗甲虫を楽しんでいると、思いの外早く入り口に到着した。楽しかったのもありますが、カブトさんが意外と速かったのと、ショートカットを繰り返していましたからね。真下へ垂直に下りるのは、結構怖かったです。
部屋に入ると、全身を固定されたトカゲモドキの一団が視界に入る。うん、とても穏やかな顔で気持ちよさそうに眠っている。蝶さん達の<精神魔法>で良い夢を見ているのでしょう。
それは、コアさんの画面からも分かっていましたが……
「う~ん、何かが色々と溢れ出していません?」
「むう……ワシには分からん!」
(プルもわかんな~い)
分からないか、黒い靄の様なものが、溢れ出しているように見えるのですが。それのせいで、姿が良く見えない。
「ピー?」
「おや、どうしましたか?」
触れても大丈夫なものなのか、判断が付かず訝しがっていると、悪魔族の子がこちらに近付いて来た。
「ピピーピー……ピピ?」
「あ、これが瘴気なんですね」
瘴気。
魔法を発動させる為の触媒となるモノであり、生物が発する感情や意思の様なもの。無意識下での、体内の魔力の流れとかにも影響しますし、元の世界で言うところの………電気信号やホルモンに近いですかね?
そして、自身が発した瘴気以外が干渉すると、魔力の流れに異常をきたし、体調不良を引き起こす。この状態を<呪い>と言うのですが……
「凄い量噴き出していますが、<呪い>状態にはなっていないんですよね」
名称:暴竜
氏名:ゴドウィン
分類:半虚現体
種族:竜族
LV:10 / 25 <睡眠(大)><麻痺(大)><抑制(大)><乱魔(小)>
HP:2390 / 2390
SP:2900 / 2900
MP: 540 / 540
筋力:1650
耐久:1160
体力:1160
俊敏:1160
器用:1160
思考:250
魔力:250
適応率:10(Max100)
変異率:10(Max100)
スキル
・肉体:<竜鱗LV3><竜爪LV3><竜牙LV3><竜骨LV3>
・技術:<魔力操作LV3><身体操作LV3><飛行LV3><跳躍LV3>
・技能:<身体強化LV2><全力攻撃LV5><威圧LV5><自己回復LV3>
称 号:<失いしモノ><狂いしモノ><はぐれ竜>
「ごめんなさい……助けて……止めて……やだやだやだやだ!!」
「む!」
「またか!」
全身から瘴気が噴き出し、拘束を引き千切る勢いで暴れ出すトカゲモドキ。それを見て、カブトさんが間に割り込み、周りの子達が抑え込みに入る。
状態異常何て何のその、てか先ほどまでかかっていた効果が切れていますね。
………蝶さん達の<鱗粉>と<精神魔法>を、瘴気が弾いているように見える。動き出したのは、それが原因ですかね? 効きも悪い。
数分後、漸く<鱗粉>が効いたのか動きが鈍り、押さえつけられ再度拘束する。
「殺さないで、殺さないで、死んじゃヤダ、食べないで、“お父さん”」
………………ふ~~~~~~~~ん?
「この子の中に燻ぶっている瘴気、全て吸い出してください」
「ピー?」
「はい、全部です。他の子も集めて下さい。あぁ、瘴気を散らす魔法薬もありましたね。この際です、使ってみましょう」
(分かった~、持ってくるね~)
【倉庫】から出しても良いのですが、結構な量を使うかもしれないので、プルさん達粘液さんに、運搬をお願いする。【倉庫】には、小分けにしたものを入れていますからね。
……先ほどからカブトさんが、何かを言いたげにこちらを見ているのですが、何かありましたかね?
「むう………そんな事をして、危険では無いかのう? 動き出し兼ねんぞ」
「まぁ、状態異常もありますし、皆さんが集まれば、簡単に抑え込めるでしょう?」
「それはそうじゃが……そこまでする価値が有るのかのう」
それを言われると、回答に困りますね。
瘴気に対する実験とも言えますが、何と言いましょうか………俺の我がままと言いましょうか、ポリシーと言いましょうか。勘違いするのもされるのも、好きでは無いんですよね。
「体内に渦巻き、纏わりつく瘴気が、精神に影響を及ぼさないとは思えません。なんてったって、瘴気は感情の塊みたいなもんですからね。そうなると、彼等の言動は正常な状態では無かった可能性があります。それを改善できるのであれば、それに合わせた対応をするべきではありませんか?」
殺されてしまったクロスさんの部下には悪いですが、もし原因を取り除けるのであれば、この子本来の性格に見合った対応をするべきだと思うのです。
「殿がそうしたいのであれば、ワシはもう何も言わん」
(持ってきた~)
さて、鬼が出るか、蛇が出るか………朗報は寝て待て……だったかな? のんびり待ちましょうーーー
(主様~、報告で~す)
あ~はいは~い、何事ですか~。
―――
報告聞いて~、実験用の物資を生産して~、
領域内の様子を確認して~、職人共を休ませて~(徹夜はやめい)
実験室に顔出して~、職人共に説教して~(研究室で魔術を試すな)
あれやこれやと時間は過ぎ、あっと言う間に半日が過ぎた頃、<念話>による一報がクロスさんから届く。
(主様、例の個体の浄化が終了いたしました)
「ご苦労様です、速かったですね。目は覚ましましたか?」
(覚醒の兆しが見られるとの事なので、程なく目覚めるかと)
ふむふむ、でしたらどれ程の変化があったのか、確かめさせて頂きましょうか。ちょうど吹き飛んだ、研究室の跡片付けも終わりましたしね。
― ………ススス -
「主」
「うぉう!? な、なんだ、タクミさんですか、びっくりした」
気配を消しながら背後に回るとか、心臓に悪いから止めて下さい。
しかし、タクミさんが実験室に来るのも珍しいですね。最近は監督官が派遣されて、好きな装飾課の方で活動しているはずですが。俺に用ですかね?
「……あのトカゲモドキに会うの?」
「そのつもりですが……何かありましたか?」
「その格好で?」
「え? うん」
「ダメ!」
何処に隠れていたのか、タクミさんの一声に合わせて、ワラワラと研究何時に現れる、多種多様な魔物の一団。この子達は、タクミさんの配下である、装飾課の皆さんですね。え、なに? 何で取り囲むの?
「部外者に、主様の姿を見せるのです!」
「ん。しっかりした格好、大事」
「え? ちょ待って? 引っ張らないで? 運ぶな、剥ぐな、着せ替えるなー!!??」
ちょっと!? 俺、ここの主なんですけど!? なにその服、見た事無いんですけど? 話を聞いて~~~!
―――
「「「できたー」」」
「……………………この格好で、会うんですか?」
「「「え?」」」
え……じゃ無いですよ。なにこの厨二全開の恰好は。
まるで、中世王族と軍服の中間の様なデザイン。威厳は出るかも知れませんが、元が俺では唯の痛いコスプレでしょうが………。
うん、分かっています。悪意が無いのは分かっていますから、ちゃんと着ますから、そんな寂しそうな目で俺を見無いで下さい。
(主様。例の個体が目覚めます)
「は~~~……分かりました、すぐに向かいます……て、移動させたんですね」
近くなっているので良いのですが、此処ってクロスさん達が趣味で作った、玉座の間でねぇ?
ここで会うんですか?
………何と言いましょうか、外堀からどんどん埋められている様な、雰囲気と連帯感を感じるのですが………ま、まぁ、皆さん楽しそうですし、構いませんけど。
「あ、運ぶのは面倒でしょう? 拘束を解いて連れて来て下さい」
「………それだけが理由でございますか?」
「ふふ……自由に動ける方が、選択肢が多いでしょう? その方が相手の考え方や優先度が分かりやすくなるとは思いませんか?」
「成る程、大人しければ話をするだけの価値があり、暴れる様なら論外と言う事ですな。承知いたしました、護衛はお任せ下され」
「頼りにしていますよ」
迷宮主のメモ帳:状態異常<石化>
魔力の状態を変質させ、肉体を硬質化させる状態異常
現体に近い程(ハッキリした肉体を持っている程)その影響が大きく出る。
肉体内の魔力を、<土魔法>の要領で硬質な物質に変化させる。変質する物質は、金属や結晶など条件次第で変わる。
魔法やスキルによる浄化によって解除が可能。時間が経過する程、変質した部分が安定し、解除が困難になる。
最悪、解除が不可能になり、そのまま死亡する。
適応すれば、影響を抑制する耐性を取得することができる。




