103 研究発表会
①楽しいお茶会
②やっぱりクロスさんは苦労蟻
③NTR
「最近、強い奴がチラホラ出て来て、こっちの仲間に入ろうとする奴が増えて―――」
「<幹部>達の縄張りが広がって、他の<幹部>の縄張りと被り―――」
「砦の建造に関して、要請が幾つか来ています。希少素材を使用しますので、許可の―――」
今日も今日とてお仕事中。皆さんからもたらされる情報を整理し、大まかな方針を決めていく。細かい内容は、現場に任せた方がよく回りますからね。こっちは、情報を統轄するだけで良い、さらに情報を捏造する子も居ない。いやー、本当に楽ですわ、我ながら良い御身分になったモノです。
特に最近、慣れたのか成長したのか、処理能力が向上したとハッキリ自覚するようになった。今なら、3つ位同時に報告を聞けるまでになりましたからね。目指せ、聖徳太子!
そんなこんな話を聞いていると、珍しい方が報告に訪れた。
「……主」
「おや、タクミさんが来るのは珍しいですね? 何か特別な事でもありました?」
魔導研究室・室長の役職を担っている、蜘蛛のタクミさん。普段は研究室に籠り…もとい子守気味で、あのマッドサイエンティスト共の管理をして貰っている。本蜘蛛は研究の方がしたいみたいですけどね。
いや、うん。だって、魔導に造詣があって、冷静で、やる気もあって、無理をしない上に、視野が広い。研究者の責任者には打って付けだったんですもん。あの地獄で、唯一無事だった子でもありますし。
「……魔道具ができた」
「おぉ、とうとうできましたか! あ、クロスさん。それは許可しますので、そのまま進めて下さい」
術式の出し方を見つけてから、早じゅ~……12日か。試作品第一号と言っても、相当速いのではないでしょうか?
やったことと言ったら
①実験で作った検査機を改良したものに、魔力を流して式を確認。後に、書き起こし保存。
②目的の効果になる様に式を組み合わせて、魔術として発動できるか確認。
③魔力が流れやすい素材と流れにくい素材を使い、式の形を作り、魔道具の形にする。
である。
①は、魔道具を作る上での大前提。何度も使う事になるでしょうから、データ収集と参照の為に保存している。
情報媒体は紙なので、嵩張って仕方がない上に、目的に合った式が有るかも分からない。現状、探し出すのも一苦労な状況なんですよね。その内整理とか、他の保存方法を見つけないと、やってられなくなりますね~、どうにかしないと。
②は、試験段階で魔道具の形にしていると、時間も材料費も余計に掛かるので、魔術の形で発動するか試してから、魔道具作成に移行する形を取っている。
……俺が見ていない時に、何度か暴発したみたいですけどね! 発動しないからって魔力を流し過ぎるなと、何度言った事か……
③では、魔力が流れる素材は、蜘蛛達の糸が採用されている。
うん、あれ素材としてすっごい優秀。勝手に量産されるし、魔力の流れ易さ、(以後、魔力伝導率)も良い。更に、形も自由自在と来たもんだ、他の素材を探すのが馬鹿らしくなるレベルです。
出す子によっては、属性が付いたりしますけど、現在無属性の糸が殆どですしね。属性が付いていたとしても、現状そこまで行っていないだけで、利用方法は見つかるでしょう。火系の魔道具に、火属性が付いた糸を使うとか、やってみたいですね~。
あ、抗魔石は高いので、使っていないです。その代わり、すっごく魔力伝導率の悪い素材を見つけては、試験も兼ねて使っている。
今のとこ、加工と保存、耐久性を見て【ゴッテンコウ】って鉱石の製錬品を使っている。元の世界で言うところの金に似ているかな? コアさん曰く、殆どの場所で採掘でき、産出量も多いのだとか。それもあって消費DPが安い安い。
コアさんから調べられて【生産】できるもので、目ぼしい素材ももうないですし……今度は合金辺りを試してみる予定。
現在はDPを使って【生産】していますけど、その内鉱山とか見つけたいですね~。ここ一帯は山が多いですし、領域を広げて行ったら、見つからないかな?
「……みんなが見せたいって言っているだけ、完成じゃない」
「試作品でしょう? 初めから、そのまま使える実用品ができたりしませんって。そもそも、完璧な物なんて在りはしないんですから。有るのは、使えるモノか、次の作品の参考にできるモノか、ですよ」
「……それもそう。物は広場に用意している最中」
ほうほう? ちょっと領域内の様子を見てみますか。コアさん、場所って分かりますか?
~肯定。ご要望の場所を表示致します~
「「「フンス、フンス!!」」」
「オ~ライ、オ~ライ」
「これ、こっちで良いのか?」
「……ん。そこ置いて」
「……優しくね?」
コアさんが、会場の準備を進めている蜘蛛を中心とした一団を表示してくれた。
随分張り切っているご様子、微笑ましいですね~。確かに、自分の成果が形になったり、評価されたりするのは、楽しいですもんね。これは、真剣に対処しないといけない。
いい点を挙げるのは当然として、発破をかける目的で辛辣な評価も必要でしょう。このバランスを間違えると、やる気をなくしたり、逆に付け上がったりしますからね、聞く方によって、打たれ強さとか捉え方は変わるでしょうし、他との差別化や、公平な評価も心掛けないといけない……あれ? 結構難しい?
ちょっと憂鬱な気分になりながらも、報告内容を捌き切った後、会場準備中の広場へ向けて移動する。
その間も、小さめの箱の様なものや、棚やコンテナレベルの大型まで、幾つもの試作品が広場に置かれていく。結構な量ですね?
― ドスン! -
「「「へーーーーーー!!!!???」」」
「丁寧に扱え! こにょ野郎!?」
「お、おう、すまんすまん」
荷車の様なものを引っ張る、豚や牛、檜物を下ろしているのは、器用な賢猿や大猿などなど……
「随分な大所帯になっていますね、仲間に入った子が増えたとは、聞いていましたが……」
「……ん……皆、同類」
タクミさんが遠い目をしている。成る程、同類なんですね。
「……後で、監督要員探してみますね?」
「……お願い」
さてさて、自主性や発想力を削がない為に、監督者だけ置いて基本干渉しない様にしていましたが、どんなものができたのでしょう? 楽しみですね!
迷宮主のメモ帳:状態異常<毒>
魔力の流れを撹乱し、肉体の構成を破壊する状態異常。
現体に近い程(ハッキリした肉体を持っている程)その影響が大きく出る。
HPを削り、改善されなければ、そのまま死亡する可能性がある。
時間経過、又は魔法やスキルによる浄化によって解除が可能.
適応すれば、影響を抑制する耐性を取得することができる。