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9.ミサイル

 通常の授業は退屈そのものだった。普通の高校と変わらない。

 そして、能力の訓練を行う授業も、なんの能力もない俺にとってはやる事のない暇な時間になってしまった。

 能力を持っている生徒は、自分の能力に応じた訓練や学習を学園内にある様々な施設で行っている。

 施設を見学するなり、自習するなり、好きにしていいそうだが……無能力者は放置されてるわけか。転入初日からクラスの最底辺に叩き落とされた気分だぜ……。

 落ち込んでいても仕方ないので、学園内を見学して回る事にする。

 異能力を目にする事で脳が刺激され、隠れた能力が目覚めるかもしれないしな。可能性はゼロじゃない……はずだ。


 校舎の外、グラウンドの片隅でショートヘアの少女が何かやっているのを見掛けた。小波里奈だ。

 暇潰しついでに、ちょっと見学してみる。

「えいっ、発射シュート!」

 里奈は二〇メートルぐらい離れた場所に的を置き、それを狙って小さなボールを打ち出していた。

 昨日、街中でやってたのをここでもやってるのか。あの時よりも的の位置が離れているのはゲームじゃなくて訓練だからか?


 俺が見ているのに気付き、里奈が声を掛けてくる。

「暇そうだね。計司は訓練しないの?」

「……まあな。俺の潜在能力はまだ目覚めていないのさ」

「それって、能力が使えないって事? ここじゃ珍しいね」

「うっ……!」

 直球ストレートな指摘を受け、思わず胸を押さえる。

 痛い所を突いてきたな……悪気はなさそうだが。

「……小波のは物体を打ち出す能力なのか?」

「里奈でいいよ。私の能力はね、『ミサイル』なの。色んな物に推進力を与えて飛ばす事ができるんだ。すごいでしょ?」

「すごい……っていうか、変わった能力だな。どんな物でも飛ばせるのか? たとえば自動車とか」

「あんまり重い物や大きい物は無理かな。このボールぐらいが丁度いいの。これより大きくなると、飛ばせる距離が短くなるし、狙い通りに飛ばせないんだよね」


 ちなみに里奈はBクラスの能力者らしい。コイツもかなり優秀な部類の異能者だったわけか。しかし、ミサイルとかいう割にショボい能力のような……。

 いや、待てよ……飛ばすのが刃物とか鉛玉だったら、かなりの威力が出せるんじゃないか?

 意外と危険な能力なのかもしれないな。戦闘向きなんじゃないか。


「街中でゲームなんかやってたのは、能力を鍛えるためか?」

「まあねー。訓練になるし、ジュース代ぐらいは稼げるし。計司みたいな反則をやられたのは初めてだけど」

「悪かったな。じゃあ、また勝負してやろうか?」

「えっ、いいの? 今度は二度投げとかなしだからね。それでも勝つ自信ある?」

「学食を賭けようか。負けた方が昼飯を奢るんだ」

「よし、乗った! ふふ、昨日のお返しができる上にお昼奢ってもらえるなんて、ラッキー!」

 ぬふふ、と不敵に笑う里奈。二度投げなしなら絶対に勝てると踏んでいるみたいだ。

 見ていた限りじゃ、コイツの能力の命中精度はかなりのものだ。二〇メートルの距離でミニボールの投げ合いをしても俺はまず勝てないだろう。

 まあ、まったく勝ち目がないわけじゃないが。


「里奈は能力ありで。的の中心に近い位置に当てた方が勝ち。互いに一度しか投げないって事でいいな?」

「オッケー。それなら絶対に負けないよ!」

「決まりだな。それじゃ、お先にどうぞ」

「あっ、ここから動いたらだめだからね! 的の近くまで行って投げるのもなしで!」

「いいとも。さあ、さっさとやれ」

 実を言うとボールを持ったまま的に近付いてから投げるというのも考えたんだが、禁止されてしまったか。


「んじゃ、行くよ。発射シュート!」

 里奈は慎重に狙いを付け、能力を使ってゴムボールを射出した。

 ボシューッ、と白煙を上げてボールがすっ飛んでいく。

 的の中心から二センチぐらい外れた位置にヒットし、里奈が舌打ちする。ど真ん中に当てられなくて残念だったな。

「ああ、惜しい! でもまあ、計司には勝ったかな。あれより近くに当てるのは無理でしょ」


 勝ち誇る里奈を一瞥し、俺はゴムボールを手に取った。

 二〇メートルというのは結構な距離だ。慎重に狙いを付けても当たるかどうか。

 だが、この方法なら……届きさえすれば当たる確率は高いはずだ。

「おりゃあ!」

「えっ? ああっ、そんなのあり!?」

 俺が投げたゴムボールが的へと飛んでいくのを見やり、里奈が目を丸くする。


 五個ほど手に取って、まとめて投げた。的まで届かせる事だけを考えて、山なりの軌道で。

 的に命中したのはそのうちの二個だけだったが、一個はど真ん中に命中した。

 名付けて数打ちゃ当たる作戦。一か八かだったが、上手く行ったな。

「ど真ん中に当たったよな? 俺の勝ちだ」

「卑怯すぎるよ! あんなの反則でしょ!」

「一度に複数のボールを投げてはだめだとは言わなかっただろ? 作戦勝ちだよ」

「あー、もう! またやられた! 悔しすぎるよぉ……!」

 里奈は悔しそうに地団駄を踏んでいた。遊びみたいな勝負でも勝つのは気分いいもんだ。しかも異能力を使う相手に勝ったわけだから、喜びもひとしおだ。


 落ち込んでた気分が少しだけ晴れたな。里奈と勝負してよかった。

「ありがとう、里奈。おかげで実にすがすがしい気分だよ」

「こっちは悔しくて仕方ないよ! もう一回、勝負しようよ!」

「今ので服二枚分だぞ? 次も負けるとさすがにまずいんじゃないか」

「また脱衣ルールにすり替えてる!? 賭けたのは昼ご飯でしょ!」

 チッ、覚えてやがったか。さり気なく脱衣カウントを増やしてやろうと思ったのに。

「また今度な。それまでに腕を磨いておけ」

「言われるまでもないよ! もっと命中精度を上げてやるから!」

「次の勝負は腕相撲な」

「ええっ!? それじゃ能力鍛えても勝てないじゃ……鬼ぃ!」

「ふははは」

 悔しそうにうなる里奈を嘲笑い、その場を後にする。

 勝負の世界は非情なのだ。次も絶対に勝ってやろう。どんな手を使ってもな。


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