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8.検査

 ここは異能者が集う学園だ。通常の授業とは別に能力開発の授業時間が設けられている。

 転入したばかりで、能力の有無が不明となっている俺は、別室で検査を受ける事になった。

 最新鋭の機器を使い、たとえこれまでの人生で一度も能力を使った事がない人間であろうとも、どんな能力の素質があるのかを探り出してくれるらしい。

 様々な機器が並ぶ実験室みたいな部屋に入り、診察台みたいな椅子に座らされ、頭にヘッドギアを装着し、検査を受ける。


 ……いよいよだ。ついに俺の中に眠る異能力が見出される時が来た。

 大丈夫だろうか。覚醒と同時にものすごいパワーを発動させて、検査用の機器を全て破壊してしまうかもしれないぞ。能力をセーブするようにしないとな……。


「はい、終了。お疲れさま」

「えっ? もう終わり?」

 五分も経たないうちに検査終了を告げられ、首をひねる。

 身体にはなんの変化もない。検査を受けたぐらいじゃ能力は発動しないのか。

 機器を操作していた、白衣を着た女性に尋ねてみる。

「あの……俺にはどんな能力が眠っていたんですか?」

 すると女性は、感情のこもっていない声で淡々と答えた。

「何もないわね」

「えっ? それって、どういう……」

「あらゆる系統の能力に関する資質が一つもないわ。要するに、君は完全な無能力者という事」

「ええっ!? そ、そんな馬鹿な……」


 なんだそれ。意味分かんない。

 愕然とした俺に、女性は説明してくれた。

「都市のデータバンクには様々な異能者に関するデータが蓄積されているわ。異能力を持つ人間は、系統ごとに異なる特殊な脳内信号を発しているものなの。この測定器でその脳内信号を調べて、どの系統に当てはまるのかを検査するわけだけど……君のはどんな系統の能力にも該当しない、ごく普通の、一般人の脳波だわ」

「い、一般人……つまり俺には、異能者になる素質がないと……?」

「そういう事になるわね。ただ、これはあくまでも現時点での話。もしかすると将来的にはなんらかの能力が使えるようになるかもしれない」

「将来的にですか。その可能性はどれぐらい?」

「未知数ね。限りなくゼロに近いでしょうけど」

「……」


 あれ? あれれ? なんだか俺が予想していたのと違うぞ……。

 俺にはすごい潜在能力があって、この検査でそれが判明するはずだったのに。

 現時点では異能力が使えるようになる要素はゼロ、素質なし、ただの一般人って……。

 将来的にはもしかすると使えるようになるかもしれないが、その可能性は限りなくゼロに近いって……それって全人類に当てはまるんじゃないか?


 ……参ったな。せっかく異能都市に来たのに、無能力者確定かよ……。

 異能者の頂点に君臨してやるぐらいの気持ちでいたってのに、底辺どころか仲間入りすらさせてもらえないってのか。これじゃ地元にいた時と同じじゃないか……。


 ……俺の地元は人口一万人にも満たないド田舎なんだが、どういうわけか住民は皆、異能力を持つ者ばかりだった。

 そこらのおじさんおばさん、じいさんばあさん、若い連中や子供もみんな異能者で、生まれてくる赤ん坊まで異能者と来たもんだ。

 なのになぜか、俺にはなんの能力もなかった。

 田舎というのは閉鎖的な社会だ。そんな中で皆とは違う者がどう扱われるのか。

 村八分にされたりはしなかったが、みんな半笑いで俺を見ていた。変わり者というか、かわいそうな人扱いだった。

 みんな靴を履いてるのに俺だけ裸足みたいな……いや、違うな。俺だけかけ算ができないみたいな感じか? うーん、それも違うような……。

 他の地域ではむしろ異能者の方が少数派で、うちの地元は特殊なケースだと聞いた。

 おそらく異能者の資質を持つ者が集中していたんだろう。土地にそういう力を与える何かがあったのかもしれない。


 そんな場所で生まれ育った俺には、きっと異能力があるはずで……ただ、目覚めるのが遅れているだけなんだ。二次成長期が訪れるのには個人差があるように。

 だから俺は異能都市に来た。異能者の研究開発が進んでいるここなら、いまだ目覚めないでいる俺の能力を見出してくれるはず……そう信じて。

 その結果がこれか。泣きたくなってきたぜ、畜生……。


「そんなに落胆しないで。異能力についてはいまだに研究中よ。分からない事の方が多いの」

「はあ」

「そもそもなぜ異能力を使える人間が現れ始めたのか、誰にも解明できていないの。だからこそ、異能者を集めて研究を行う都市が造られたのよ。研究が進めば、能力を持っていない人間に異能力を与える事もできるようになるかもしれない。無能力者にも希望はあるわ」

「……」

 なんだか気休めのような事を言われてしまい、とぼとぼと検査室を後にする。

 研究が進めば、か。いつになるんだろうな、それ。俺が生きているうちに実現してくれるといいんだが。

 こんなはずじゃなかった。たとえ今は目覚めなくとも、俺には隠された能力が眠っていると信じていたのに……。


 肩を落とし、ため息をつきながら歩いていると……廊下の途中で赤い髪の女と鉢合わせた。

 炎条華燐は腰に手を当てて俺の前に立ち、声を掛けてきた。

「南部計司、だったわね。改めて挨拶させてもらうわ。私は炎条華燐。あのクラスのクラス委員をやらせてもらっているわ」

「ああ、どうも。昨日は悪かったな」

「……やけに素直じゃない。なんだか元気がないみたいだけど……」

 拍子抜けという感じで、華燐は首をかしげていた。

「そう言えば、能力の検査を受けたんでしょ? あんた、どんな能力を持ってるの?」

「……っ!」


 おいおい、今、それを俺に訊くか? あまりにも残酷な質問だぞ、そいつは……。

 しかし、ここでキレてみせるのもみっともないよな。コイツに悪気はないんだろうし。


 そこで俺は軽く深呼吸をして怒りを抑え、ボソボソと呟いた。

「……未知数だ」

「えっ? 未知数って……どういう事?」

「俺の能力は最新鋭の機器でも測定不能だったのさ。今の技術じゃ解明できない、無限の可能性が眠っているらしい。言わば、インフィニティ……!」

「イ、インフィニティですって……なんか無駄に壮大な感じが……底が知れないわね……!」

 俺は冗談のつもりで言ったのだが、華燐は目を丸くして驚き、どうも真に受けているみたいだった。

 この女、もしやものすごく素直なのか? 少しは疑って欲しいもんだ。

 一応、嘘は言っていないしな。勘違いしてるんならそのままにしておこう。


「お前は炎系の能力が使えるんだな」

「ええ、そうよ。私の能力は『ファイアーイグニッション』。いつでもどこでも自由に炎を生じさせる事ができるの。こう見えても割と優秀な能力者なんだから」

 華燐は胸を張り、得意そうに答えた。

 炎を自在に発生させる事ができるのか。異能力としてはスタンダードだが、便利そうな能力だな。

「優秀なのか。じゃあ、Sクラスの能力者とか?」

「……Aクラスだけど。Sクラスなんて滅多にいないわよ」

 華燐は少し面白くなさそうにしていた。Aクラスなら十分大したものだろうに、Sクラスのレミアと比較されてると思ったのかも。

 しかし、炎系の能力なんて噛ませぽいイメージだったけど、なんの能力もないやつに比べりゃはるかにマシだよな。無能力者なんか噛ませにもなりゃしない。


 密かに落ち込んでいる俺に、華燐が尋ねてくる。

「あんたに訊きたいんだけど……灰神さんとはどんな関係なの?」

「灰神? ああ、レミアの事か」

 コクンとうなずき、華燐は呟いた。

「あの子、少し前からちっとも学園に来なくなったのよ。先生に訊いても理由を知らないって言うし、住んでるマンションに行っても誰もいないみたいだし、どうなってんだか。何か聞いてない?」

「……」

 レミアのやつ、不登校の理由を学園側に知らせてないのか。

 しかし、本人が秘密にしているんなら俺が教えるわけにはいかないな。黙っておこう。

 華燐を疑うわけじゃないが、悪い噂が広まったりしたらレミアが困るだろうしな。


「ねえ、灰神さんとはどういう関係なの? ただの顔見知り? それともストーカー? 教えなさいよ」

「ストーカーじゃない。レミアとはその……運命共同体みたいなもんかな?」

「運命共同体ですって!? 何それ、どういう事? ま、まさか……付き合ってるの?」

 華燐は目をまん丸にして驚き、頬を染めていた。

 ……何を想像したんだ、何を。これだから女ってやつは……なんでもかんでも恋愛事に結び付けるなよな。


「そんなんじゃない。ただ、あいつが抱えてる問題を解決するのに協力してるだけだ」

「問題って何よ? 恋愛関係のもつれとかそういうの? ふええ、あの灰神さんが……大人しそうな顔してるくせに、人は見かけによらないのね……」

「おい、勝手に勘違いするな。そんなんじゃないからな。変な噂を流すんじゃないぞ」

 やや強めの口調で注意すると、華燐はコクコクとうなずいていた。

「分かった、言わない。こう見えても口は堅い方なのよ。言い触らしたりしないから。約束するわ」

「そうしてくれ。問題が解決すれば、レミアは登校してくるはずだ。それまで待っててやってくれ」

 華燐はうなずき、真面目な顔で呟いた。

「ただサボってるだけじゃないって分かって安心したわ。学園には来ないのにあんたみたいなのとつるんでるから、悪い男に引っ掛かって困ってるんじゃないかって心配してたのよ」

「俺のせいだと思ってたのか? 勘弁してくれよ……」


 ガックリ来た俺を見つめ、華燐はクスッと笑った。

「昨日は極悪人にしか見えなかったけど、あんた、意外と悪いやつじゃなさそうね。ちょっと安心したわ」

「そりゃどうも。これでも善良な人間のつもりなんでよろしくな」

「……で、灰神さんとはどうなの? 付き合ってはいないにしても、ただの顔見知りじゃないんでしょ? 誰にも言わないから教えてよ。あんたが一方的に惚れてるとかそういうの?」

「……」

 なんでそうなるんだ。俺は別にレミアの事なんか……そりゃ、美人だとは思うけどさ。

 ここはハッキリ否定しておこう。変に勘違いされるとレミアも困るだろうし。


「全然そんなのじゃないから。俺はあいつの事なんて特になんとも思っていない。困ってるから協力してやってるだけだ」

「何それ、ツンデレ? 本当は灰神さんにラブラブなの? 無理して格好付けなくてもいいのに」

「だから、違うって! 勝手に誤解するなよ。俺なんかと噂になったらレミアがかわいそうだろ」

 俺の言葉を聞いた華燐は、なぜか頬を染め、瞳をキラキラさせていた。

 おい、やめろ。なんだその目は……妙な目で俺を見るんじゃない!


「や、やだ、そんなに必死に灰神さんを庇っちゃって……あんた、意外と一途なのね。そういうの、嫌いじゃないわよ」

「何がだよ。勘違いするのも大概にして……」

「でも、灰神さんじゃレベル高すぎない? いくら尽くしても報われそうになくてかわいそう……」

 憐れむような眼差しを向けられ、イラッと来てしまう。

 なんなんだ、この女は……初めて会った時もそうだったが、思い込みが激しすぎないか?

 実はレミアの方が惚れていて、しつこくまとわりつかれて困っている、と言ったら信じるかな?

 本気にされても困るか。レミアが知ったら激怒するだろうし、やめとこう。


「そう言えば、灰神さんはどこにいるの?」

「どこって、それは……」

 俺の部屋に居候してる、とはさすがに言えないな。絶対に勘違いされるだろうし。

「どこかに隠れ家を確保してるらしいぜ。場所は俺も知らない」

「ふーん、そうなんだ。問題っていうのが早く解決するといいわね」

「そうだな」

 適当な事を言っておくと、華燐は信じた様子だった。

 上手く誤魔化せたみたいだな。コイツが疑う事を知らないやつで助かった。


 しかし、問題の解決か。レミアはどうするつもりなんだろう。このまま隠れ続けていても解決できるとは思えないが。


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