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6.炎系

 適当に歩いていると、ビル街から少し離れたあたりで、かなり規模の大きな自然公園と思われる場所にたどり着いた。

 ……公園か。こいつはいい。ここなら異能者達が対決の場所に選んでもおかしくない。


 揉めていそうな人間を捜して歩いてみる。日曜日だからかジョギング中の人間が多いな。異能力を使って加速しているやつでもいないかな?

 遊歩道が延々と続くアホみたいに広い園内をしばらく歩き回ってみたが、異能力を使っているやつは一人もいなかった。

 馬鹿な、なぜだ。バトルはないにしても、能力の練習とかしてるやつが一人ぐらいいてもよさそうなものなのに。ここは本当に異能都市なのか?

 さっきのミニスカ女にもっと能力を見せてもらえばよかったかな。公園を散歩しただけで終わるなんて……これじゃただの暇人だ。


 途中にあったベンチに座り、一息つく。

 何気なく数メートル離れた位置にある隣のベンチを見てみると、そこにはダークグリーンのコートに身を包み、ツバの広い帽子を被った怪しいやつが座っていて、群がる鳩にパンくずを与えていた。

「フフフ、食らうがいい、鳩ども……さあ、他者を蹴落として、奪え、食らえ……! 何が平和の象徴だ……フフフ」

「……」

 もしや鳥を自在に操る能力者じゃないのかと期待したんだが、単なる危ないやつみたいだった。

 コートの襟を立てていて、帽子を目深に被っているので顔はよく見えないが、髪が長いのと声からしてたぶん女だな。

 今日は結構気温が高いのに真冬みたいな格好をして、暑くないのかね。言っちゃ悪いが、変質者っぽいよな。


 ……鳩に餌の奪い合いをさせて支配者の気分にでも浸っているのか? ちょっと楽しそうな気もするが、そういう遊びは人目がある場所ではやらない方がいいんじゃないかな。

 ぼんやりと眺めていると、鳩が俺の所にまで来て、エサを催促するように足下をウロウロした。

 鳩ってどこにでもいるよな。悪いが俺はエサなんか持ってないんだ。他を当たってくれ。

 靴をつついてくる鳩をシッシと追い払う。コートの女が俺の方に顔を向けて舌打ちしたような気がしたが、あんな怪しいやつとは絡みたくないので気付かないフリをしておく。


 そろそろレミアに連絡を取って合流しようか、などと考えていると……ベンチから十メートルぐらい離れた場所に小さな広場があり、そこにレミアが立っているのに気付いた。

「……ん?」

 よく見るとレミアは一人ではなく、誰かと話をしているみたいだった。

 相手は赤い髪をした気の強そうな少女で、険しい顔をしてレミアに何か怒鳴っているようだ。

 友達と談笑してるって感じじゃないな。まさか、レミアを狙っている連中の仲間か?

 周囲を警戒しつつ、レミアの所へ行ってみる。他にも仲間がいるのならまずい。レミアを連れて逃げなければ。


「……なんとか言いなさいよ! 大体、あんたは……」

 俺が近付くと、赤い髪の少女は怪訝そうな顔をした。

 身長はレミアと同じぐらいで、セミロングの髪は真っ赤だった。顔付きはやや幼いが整っていて、かなりかわいい。

 淡いブルーの、ノースリーブのワンピースミニを着ていて、細身で華奢だが出る所は出ている感じ。

 つり目がちの目が気の強そうな印象を醸し出している。ぼうっとした感じのレミアとは対照的なタイプだ。

 黙って突っ立っているレミアに声を掛けてみる。

「よう、大丈夫か?」

「平気。彼女は顔見知り」

「そうなのか? 俺はまたてっきり……」

「……誰よ、あんた。人が話してるとこに割り込まないでくれる?」

 赤毛の少女が呟き、鋭い眼差しを向けてくる。警戒しているというよりも敵意全開という感じだ。

 レミアを狙ってる連中じゃないのなら下手に揉めない方がいいな。ここは友好的な態度を示しておこう。


 そこで俺はニコッと微笑み、軽い口調でフレンドリーに話し掛けてみた。

「やあ、どうもどうも! 俺はこの子の連れでさ。見ての通り全然怪しい者じゃないから安心していいよ!」

「あ、怪しい! すごく怪しいわ! あと笑顔がキモイ! 何者なのよ、コイツ!」

 えらい言われようだな。俺のどこがそんなに怪しいんだ? しかもこの素敵な笑顔がキモイだと? 訴えるぞコラ。

 フォローしてもらおうと思い、目を向けると、レミアは小首をかしげていた。

「何者なのかと言われても……昨日、知り合ったばかりでよく知らないし……」

「そうなの!? さてはストーカーね! この子にしつこく付きまとってるんでしょ!」

「誰がストーカーだ! レミアもなんとか言ってくれよ!」

「その、あの……どう説明したらいいのか……」

 突然の事で頭が回らないのか、レミアは少し困った顔をしていた。

 このマイペース女が、のんびりしすぎだろ。

 そこは適当に「超格好よくて全然怪しくないナイスガイ」とでも言ってくれればいいのに。「異能都市に嵐を巻き起こすイレギュラー的な存在」でもいいけど。


 仕方なく俺が説明しようとすると、赤毛の少女が険しい顔でにらみ付けてきた。

「この子が大人しいのをいい事にエロい事しようとしてるんでしょ! そういう顔してるもの! この女の敵!」

「誰が女の敵だよ。少しは人の話を聞いて……」

「問答無用よ!」

「!?」

 赤毛の少女が右腕を振るうと、手の先からゴオッと真っ赤な炎が発生し、火の粉が飛んだ。

 掌に燃え盛る炎を生じさせたまま、俺に鋭い眼差しを向けてくる。


 異能力だ。それも炎系の能力者か……! 見た目そのまんまに攻撃的な能力の持ち主なんだな。

 しかし、炎系か……あんまりレアな能力じゃないな。むしろスタンダードなタイプだ。

「大人しく消えなさい! でないと火傷するわよ……!」

 なんかすっかりやる気になってるぞ。自分に酔いやすいタイプなのか。

 そこでレミアが、赤毛女に告げた。

「やめて。彼は何も悪くないわ」

「あんたは黙ってて! こういうヤツに甘い顔してるとひどい目にあわされるんだから! 私に任せなさい!」

「だから、そうじゃなくて……」

 耳を貸そうとしない赤毛女に、レミアは困った顔をしていた。

 要するに口下手なんだな。フォローしようと努力してくれたのは分かったのでよしとしとこう。


 俺はため息をつき、一歩前に出て臨戦態勢を取った赤毛女と向き合った。

 話し合いができそうにないのなら仕方ない。少し痛い目にあわせてやるか。

 こう見えても俺は異能者の相手をするのには慣れてる。丸腰で攻撃系の能力者とまともにやり合っても勝ち目はないが、やりようはある。


「思い込みの激しいやつだな。俺をどうするって?」

「見て分からない? 私の炎でこんがり焼いてやろうってのよ。それが嫌なら大人しく……」

「へえ、俺を焼き殺すのか? さすがは異能者、人の命を奪うのなんて日常茶飯事ってわけだ」

「えっ? い、いや、そういうわけじゃ……」

 赤毛女が戸惑ったのを見て取り、俺はさらに前に出て距離を詰めた。

「いいぜ、やれよ。自慢の炎で俺を消し炭に変えてみろ」

「あ、あんた、正気? 私の攻撃をまともに受けたらただじゃ済まないんだからね!」

「だから、やってみせろ。その代わり、やるなら一撃で確実に仕留めろよ?」

「えっ?」

「俺は死に物狂いでお前に飛び掛かるからな。お前の細い首をつかんで、焼き尽くされる瞬間まで全力で絞めてやる。俺とお前、どちらが死ぬのが先か、勝負しようぜ……!」

「いや、あの……な、何もそこまでしなくても……」

「俺は腹をくくったから、お前も覚悟を決めろ。仕掛けてきたのはそっちだからな。どんな結果に終わっても後悔するんじゃねえぞ……!」

「う、ううっ……!」


 赤毛女はオロオロとうろたえ、目尻に涙をにじませ、怯えきった顔をしていた。

 もはや最初の勢いは欠片もなく、俺を脅す余裕もない様子だ。

 両手を前に突き出し、つかみかかる構えを取りつつ、ジリッと前に出る。

 すると赤毛女はジリジリと後退し、掌の炎をフッと消して、叫んだ。

「き、今日のところはこれで勘弁してやるわ! い、命拾いしたわね!」

「おい、寝ぼけた事言ってんじゃねえぞ。今ここでケリを付けて……」

「あ、あんたごとき、急いで仕留める必要もないし! そ、それに急用があるのを思い出したし! だからその……さよならっ!」

「あっ、こら!」

 クルリと回れ右をして、赤毛女はすごい勢いで逃げていった。

 おお、すばらしいダッシュだな。加速能力でも持ってたのか?


 赤毛女の姿が完全に見えなくなったのを確認し、額に浮かんだ汗を拭い、胸をなで下ろす。

「ふう、あぶねー、あぶねー。危うく丸焼きにされるとこだったぜ……」

 ふと見ると、レミアが目をまん丸にして俺を見つめ、カタカタと小刻みに震えていた。

 俺は首をかしげ、レミアに声を掛けた。

「レミア? どうしたんだよ。寒いのか?」

「計司って実は怖い人なの……? いきなり命のやり取りをしようとするなんて……」

「はは、まさか。あんなのただのハッタリだって」

「えっ? じゃあ、今のは……演技?」

「ああ、そうだよ」

 当然だろ、とばかりに呟くと、レミアはガックリとうなだれ、深いため息をついていた。

「信じられない……本気にしか見えなかったのに……」

「名演技だったろ? あのぐらいやらないと引いてくれないと思ってさ」

「……彼女が攻撃してきたらどうするつもりだったの?」

「その時は土下座して謝るつもりだった」

 レミアは呆れ返り、またため息をついていた。


 そんな顔するなって。俺だってちゃんと相手を見てああいう真似をしたんだから。

 異能者を相手にする時、重要なのは相手の得意とするフィールドで争わない事だ。

 物体を射出する能力者とまともに投げ合いの勝負をしたりしないし、炎を操る能力者と真正面からぶつかり合ったりしない。

 ……卑怯とか言われそうだが、俺に言わせれば能力持ってないやつに能力使う方が卑怯だろって話だ。

 能力がないならないなりに工夫しないとな。やられっぱなしなんて冗談じゃない。


 あの赤毛の女は短気だが、平気で人を傷付けるような人間には見えなかった。

 だからこそ、ハッタリで押し通したんだ。あいつが本当に問答無用で攻撃してくるような極悪異能者だったら通用しなかった。

 まあ、その時はその時でやりようはあるけどな。一撃で即死させられるような能力じゃない限り、能力のない俺にも結構勝ち目はあったりするんだ。


「それで結局、あいつは誰なんだ?」

「彼女は炎条華燐えんじょうかりん。私と同じ学園に通うクラスメイトよ」

「クラスメイト? なんか揉めてたみたいだけど」

「私の生活態度について注意を受けていたの。彼女はクラス委員だから」

 そうだったのか。いじめでも受けてるのかと思ったぜ。

 ……あれ? そうするとあいつは……全然悪くないわけか? むしろいいやつ?

「もしかして、俺……やっちゃった?」

「ええ。真面目なクラス委員の少女を脅して怯えさせた事になるわね。まさに鬼畜のごとき所業だわ」

「あああああ……! な、なんてこった……!」

 俺としては、レミアを困らせてる変な女を撃退したつもりだったんだが……。

 最悪じゃないか。今度あの女に会う事があったら謝ろう……。


「計司がどういう人間なのかよく分かったわ。人畜無害の親切な人だと思ってたけど、私の勘違いだったみたいね」

「いや、だったらあの子が悪いやつじゃないって教えてくれよ! 思わず追い込んじゃったじゃないか!」

「二人とも私の話を聞いてくれないんだもの。人の話を聞く耳を持つべきだと思うわ」

「こ、この野郎……自分だけがまともみたいに言いやがって……」

「私は野郎じゃないわ」

 すまし顔で呟くレミアに、俺はギリギリと歯噛みした。


 この女、いい性格してやがるな。そういう態度だと部屋から追い出すぞ? 少しは感謝の気持ちをだな……。

「そろそろお昼の時間だわ。奢ってくれるのよね?」

「……お前なんかに奢るのは馬鹿らしくなってきたな。あそこでパンくずばらまいてるのがいるから、あれでも食っとけよ」

「私は鳩じゃないわ」

「そうだな。鳩にしちゃかわいげがなさすぎるよな」

「……炎条さんに言い付けてやる。計司に着替えを見られたって」

「奢らせていただきますのでそれは勘弁してください!」

 結局、レミアに昼飯を奢る事になってしまった。

 ほんと、変な女に関わっちまったな。前途多難すぎて泣けてくるぜ……。


「泣かないでイレギュラー」

「泣いてねえし! その名称で呼ぶのならもっといい感じの場面にしてくれよ……」



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