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4.異能都市へ

 アパートがある地区は異能都市建設前に存在していた旧市街地だとかで、再開発の予定はなく、住民もほとんどいない、半ば放置された街らしい。

 旧市街地のエリアを抜けて一キロメートルほど歩くと、そこにはきれいに整備された真新しい都市があった。中心部には近代的なビル群が建ち並び、それを取り囲むようにして街が形成されている。


 エリュシオンⅢ。異能力の研究、開発を行っているという、異能者が集う都市。

 十数年前に立ち上げられた、新たな人類による次世代の理想郷を作り上げるという『理想郷計画』に基づいて建造された、第三の都市だ。

 近年、世界各地で増加の一歩をたどる異能者達を管理し、育成する目的もあるという。

 ちなみに第一、第二の都市は色々と問題があったらしく現在は閉鎖されている。

 別名、異能都市と呼ばれるだけあって、ここには全国各地から多数の異能者が集まってきていると聞く。

 市民として登録された異能者は都市側の研究などに協力する代わりに、色々と優遇されるらしい。

 優秀な異能者ほど待遇はよく、公共の交通機関は全て無料、衣食住の面倒まで見てくれる。

 そりゃ異能者ならここに住みたがるだろうって話だ。


 レミアも異能者として市民登録しているらしい。しかもコイツは……。


「え、Sクラスだと……最上級、超特別待遇の異能者なのかよ!?」

「ええ、そうらしいわ」


 レミアの登録カードを見せてもらい、俺は仰天した。

 異能者はランク分けされていて、AとかBとかのクラスに振り分けられている。

 能力の希少性、持続時間、効果範囲など、様々な要素で評価されるらしいが、最も重要視されるのは能力の強弱だ。

 単純に強いか、弱いかが重要なわけだ。珍しくも何ともないよくある能力であっても、ずば抜けて強い力を発揮できれば高く評価される。

 E、Dクラスの低能力者は割と多く、常人と大して変わらない連中だ。Cクラス以上になると数は減り、強力な能力を使える者が増えてくる。

 かなり優秀なレベルでBクラス、さらに上だとAクラス、AAクラス、AAAクラスと評価される。

 Sクラスは最上級のクラスで、滅多にいない強力で優秀な能力者だ。

 当然ながら異能都市ではものすごく優遇されているという。なんてうらやましい……。


 しかし、このすっとぼけた吸血鬼姉ちゃんがSクラスの能力者なのか。

 なんだか急に風格というか威厳というか、そういうものがあるような気が……。

 隣を歩くレミアを見つめていると、レミアはチラッと俺を見やり、ボソッと呟いた。


「そんなに見つめちゃいやん」

「……」


 いや、風格とか全然ないわ。俺の勘違いだったわ。

 この女、ただの天然ボケだわ。しかもちょっと電波入ってるぽいし……能力の評価に性格とかは考慮されないんだろうな……。

 ガックリ来ている俺に小首をかしげつつ、レミアは淡々と呟いた。


「異能者なんてそんなにいいものじゃないわ。どこへ行っても普通の人には煙たがれるし、化け物扱いされる事もあるし……」

「ああ、それはよく聞くな。異能者共通の悩みってやつか」


 暗い顔で俯いたレミアにうなずき、俺は彼女に告げた。


「だが、それでも俺は異能者がうらやましい。人の領域を超えた能力が使えるなんてすごいじゃないか」

「計司は異能者に肯定的なのね。怖いとは思わないの?」

「いや、全然? むしろ憧れてるぐらいだぜ」

「そう。計司みたいな人ばかりならいいのにね」


 今までに色々あったのか、レミアはどこか寂しそうだった。


 人間というのは異質なものに対し強い拒絶反応を示す。

 数が増えたとは言え、異能者はまだまだ少数派だ。

 一般社会では肩身の狭い思いをする場合が多いんだろうな。

 とある特定の地域では逆の立場の人間が肩身の狭い思いをしていたりするんだが……それはまあ、特殊なケースか。

 ある程度の想像は付くものの、俺には異能者の苦悩ってやつがどういうものなのか完全には理解できない。それを知るためにも早く能力に目覚めてみたいもんだ。


 ともかくレミアは優秀な異能者で、この異能都市では特別待遇を受けているらしい。

 研究や実験にちょっと協力するだけでかなりの額の報酬が支払われるという。

 レミアはそういったものがあまり好きではないので、必要最小限の協力しかしていないらしいが。

 住居についても都市の一等地に建つ高級マンションに部屋が用意されてるとか。だったらそこに住んでいたらいいんじゃないかと思うのだが……。


「私を狙っている連中にマンションをマークされているの。もう、あそこへは戻れないわ」


 深夜、着替えを取りに戻ってみたら、マンションから出た所で例の連中に遭遇したという。

 しかも武装していて集団で襲い掛かってきたとか。

 どうにか振り切って逃げてきたらしいが、そんな状況なんじゃ確かに危ないな。


「警察に相談したらどうだ?」

「相談ならしたわ。でも、私を狙っているのは警察も手を焼いている連中らしくて、当てになりそうにないの」


 異能者が多いだけに、治安維持には都市側も力を入れているらしいが、それにも限界があるようだ。

 レミアを狙っているのはかなり問題のある異能者集団で、警察ですら取り締まれないでいるらしい。ヤクザみたいな組織なのかな。


 刃物で切り付けられたというのが証明できれば傷害罪が成立すると思うんだが……レミアの手の傷は完全に治っていて傷跡すらない。彼女の能力によるものらしいが、これじゃ証明は難しいか。


「怪我をさせられた証拠が残らないんじゃ、治癒能力が高いってのも善し悪しだな……」

「能力発動中なら傷など負わなかった。不意を突かれて油断したわ」


 つまり、相手は素の状態のレミアに刃物で切り付けてきたのか。イカれてやがるな、そいつら。

 ……今さらだが、レミアに案内役を頼んだのは失敗だったか? そいつらに見付かったらまずいよな。


「昼間は連中も大人しいはずだから大丈夫だと思う。仕掛けてくるとしたら夕刻以降でしょう」

「日中は活動してないのか。だったらいいけど」


 夜間の活動がメインの組織なのか? いかにも悪の組織って感じだが、そんなのが存在しているなんて、ここって結構怖い所なんだな。


「ところで」

「ん? どうした?」

「異能都市のエリアに入ったわけだけど……『ここがエリュシオンⅢか』と言わなくていいの?」

「まだそれを覚えてたのか!? 頼むから忘れてくれよ……」

「計司と初めて出会った時の大切な思い出として脳の記憶領域に永久保存しておこうと思うの」

「いい事言ってるみたいな言い回しだけど、それもうただの嫌がらせだろ! 今すぐ記憶から消してくれよ!」

「ふっ……ここがエリュシオンⅢか……」

「やめろ! 真似するのはやめて! 泣くぞチクショウ!」


 俺、そんなドヤ顔じゃなかったと思うんだけど……普段は表情の変化に乏しいくせに、俺をからかう時はものすごく楽しそうにしてるように見えるのは気のせいか?

 あんまり俺をいじめると後悔する事になるぜ? だからもう勘弁してください……。


 まだ午前中だからか通行人の姿もまばらな都市を、ゴスロリ衣装のレミアと並んで歩く。

 ……狙われてるんならもっと目立たない服装にした方がいいと思うんだが。ゴスロリ衣装にこだわりでもあるのかね。


「吸血鬼が普通の格好をしていてはさまにならないもの。私なりの自己主張よ」

「普通に吸血鬼だってカミングアウトした!? や、やっぱり本物の吸血鬼なのか……?」

「違います。私は人間よ。異能力で吸血鬼ぽくなるだけ」


 リアル吸血鬼と吸血鬼ぽくなる異能者の境界線がよく分からないが……こうして昼間も活動できるのは人間だからなのか?

 映画とかで見たけど、吸血鬼の中には日中でも歩き回れるデイウォーカーっていう亜種がいるらしいし、レミアが人間なのかどうか判断が付かないな。

 俺を食料にしないって保証があるのなら、別に吸血鬼でも構わないけどな。そこんとこはどうなんだ。


 都市の中心部には近代的なビル群が密集していて、都会という感じだった。

 俺の地元じゃまず見掛けないような高層ビルがいくつも建っていて、そのスケールのでかさに圧倒されてしまう。

 ただ、俺が頭に思い描いていた異能都市のイメージとは少し違った。

 そこら中に異能者がいて異能力を使いまくっていると思ったのに、普通に通行人が歩いているだけで誰も能力を使っていない。これじゃ普通の街じゃないか。


「意味もなく異能力を使うわけないでしょう。異能者をアトラクションの出演者キャストか何かと間違えてない?」

「でも、せっかくの異能都市なのに……そこらで異能バトルでもやってないのか?」

「やってません。そんな無法地帯に人が集まるわけないでしょう」


 レミアは呆れたように呟いていた。こんな非常識が服着て歩いているような女に常識を説かれるとは……なんか腹立つな。


 ……いいじゃないか、少しぐらい夢見たって。

 異能力なんか使った事のない俺からすれば、異能者ってのは憧れの存在なんだよ。

 特に意味もなくバンバン能力を使ってみせて欲しいのさ。

 俺は田舎育ちなので、地元の人間以外の異能者を見る機会なんて滅多になかったしな。

 もっと色んな能力を見てみたいし、人が少ない田舎じゃなかなかお目にかかれなかった異能者同士のバトルも観戦してみたい。


「なあなあ、レミアさん。君はレアな能力持ちなんだろ。そこらを歩いてる異能者にバトルでも吹っかけてみないか?」

「……私はならず者じゃないわ。馬鹿な事を言わないで」

「そう言わずに、ちょっとだけ! あとで美味しいスイーツでも奢るからさ」

「美味しいスイーツ……だ、だめよ、そんなのに惑わされないから。乙女の心を揺さぶるなんて、恐ろしい男ね……!」


 意外なぐらい動揺してるな……この女、実はチョロいのか? クールぽいが、根は単純なのかも。

 もうちょい押せば、言う事を聞いてくれそうだな。俺の巧みな話術で誘導してやるか。


 そこでレミアは立ち止まり、前方に目を向けて眉根を寄せた。

 見ると、俺達と同い年ぐらいの少女達が談笑しながら歩いている。


「そう言えば、今日は日曜日だった……まずいわね」

「えっ? 何がまずいんだ?」

「午前中でも学生がウロウロしているのよ。同じ学園の人に会うとまずいわ。隠れないと……」

「お、おい、どこへ……って、もういない!?」


 妙な事を呟き、レミアは俺を置いていずこかへ走り去ってしまった。


 なんなんだ、一体。事情ぐらい説明しろよな。

 まあ、いいか。しばらく一人で見学してみよう。レミアとはスマホのアドレスを交換してるから、いつでも連絡は取れるし。


 どこかに異能バトルをやってるやつはいないかな。異能力を使ってみせてくれるやつでもいいが。


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