エピローグ
翌日、セイバーズが特定の異能者を襲い、非合法な研究機関に売り飛ばしていた事が公になった。
ネットニュースやテレビで取り上げられ、朝から大騒ぎになっていた。
セイバーズの本部には警察の捜査が入り、メンバーは取り調べを受けているという。
研究機関の方も特定され、既に逮捕者が出ているらしい。
無論、それらの情報をマスコミや警察に流したのは朧幻燈の仕業だ。
おそらくあいつには仲間がいて、手分けをして情報を流したんじゃないかと思う。
これでもうセイバーズはお終いだろう。
幹部クラスの連中はみんな逮捕されたらしいし、組織を維持できるとは思えない。
リーダーのやつが金目当てだけじゃないみたいな事を言っていたのが気になるが……たぶんそれは警察の調べで明らかになるだろう。
レミアを狙っていたセイバーズが壊滅し、一件落着。
これでレミアも安心して自分のマンションに戻る事ができるに違いない。
事件の翌朝、アパートの部屋でテレビのニュースを見ながら朝食をとっていた俺は、その事をレミアに尋ねてみたのだが……。
「マンションなら解約したけど」
「はあ? 解約って……なんで?」
「いつ戻れるのか分からなかったから。ただで住まわせてもらっているのに部屋を空けたままなのは悪いと思って」
「そ、そうか。あれ、じゃあ、戻る部屋がないのか?」
レミアはすまし顔でうなずき、俺を見つめて告げた。
「そういうわけなので、しばらくお世話になります」
「決定事項なのか!? いや、でもな……」
「私がいたら迷惑?」
「迷惑じゃないけど……おい、ウルウルした目で見つめるのはやめろって言ってるだろ! 卑怯だぞ!」
行く所がないんじゃ追い出すわけにもいかず、引き続きレミアを居候させる事になった。
いいのか、これで。なんか色々とまずい気がするんだが……。
「お世話になるのだから、計司が私の髪の毛を食べても文句は言わないわ」
「食べねえよ! まだそれを引っ張るのか!?」
「脱げと言うのなら脱ぎます」
「じゃあ脱げ。って、冗談だよ! お願いだから迷わず脱ごうとしないで!」
躊躇いなくゴスロリ服の肩紐を下ろして服をはだけようとしたレミアを慌てて止める。
レミアは「居候のサービス」とか言っていたが、そんなサービスはいらん。俺の理性が崩壊するわ。
居候は続ける事になったが、引きこもる必要はなくなったので、一緒に学園へ登校する事になった。
女子と一緒に登校するのって結構恥ずかしいんだが、レミアは平気らしく、すまし顔で隣に並んで歩いていく。
教室でも隣の席だし……周りから誤解されそうだよな、これ。
「また仲良く二人で来たの? なんかベッタリだよねー」
教室に入り、席に着くなり隣に座る里奈から冷やかすように言われた。
俺は平静を装い、クールに否定しておいた。
「そんなんじゃない。たまたま偶然、一緒になっただけだ」
「ほんとに? 華燐ちゃんは計司が一方的に付きまとってるんじゃないかって言ってたけど」
「あいつ、まだそんな事を言ってんのか? あの女は脳味噌が残念な構造をしてるから何を言われても本気にしない方がいいぞ」
「誰の脳味噌が残念な構造なのよ!」
「うわっ!」
セミロングの赤い髪を炎のようになびかせ、炎条華燐がすっ飛んできた。
つり目がちの目をさらにつり上げて俺をにらみ、文句を言ってくる。
「あんなに手を貸してあげたのになんて言いぐさなのよ、このストーカー! 頭髪をこんがり焼いてアフロにしてあげようか!?」
「アフロはよせ。いや、手伝ってくれた事には感謝している。どうもありがとう」
「えっ、あ、ああ、うん。どういたしまして……」
「それはそれとして、いい加減ストーカー扱いするのはやめろ! この際はっきり言っとくが、俺はレミアに付きまとってなんかいない! どちらかと言えば、コイツの方が……」
そこまで言い掛けて、俺は口をつぐんだ。レミアがジッと見つめているのに気付いたのだ。
レミアは無表情のまま、淡々と呟いた。
「計司の言う通りよ。私は彼に付きまとわれてなんかいない。誤解しないで」
「ほんとに? 我慢しないでちゃんと言った方がいいわよ」
「事実よ。むしろ私が彼を巻き込んでしまった。申し訳ないと思っているわ」
真面目な口調で語るレミアに、華燐はやっと納得してくれた様子だった。
……この女はマジでまだ俺の事を疑ってたのかよ。冗談かと思ってたのに。ひどすぎるだろ。
「炎条さんや小波さんにも感謝しているわ。助けに来てくれてありがとう」
「ク、クラスメイトを助けるのは当然よ! 別にお礼なんかいいってば」
「一番活躍したのは覇王城さんだしね。『少女A、警官隊を相手に大乱闘後、逃走』ってニュースが流れてたけど……大丈夫かな、あの人」
実名報道されなかったって事はやはり未成年だったのか。真姫の無事を祈ろう。
レミアは小声で「あの暴力女は早く逮捕されればいいと思う」と呟いていた。
一方的に喧嘩を売られたのをまだ怒っているみたいだ。あとでなだめとくか。
「計司にはとても感謝しているわ。だから多少はエッチな要求にも応えてあげるつもり」
「なっ……」
真顔でおかしな事を言い出したレミアに、俺は仰天した。
華燐と里奈は目を丸くして驚き、何か想像したのか、頬を赤く染めていた。
「だ、だめよそんなの! もっと自分を大切にしないと!」
「ていうか、計司は灰神さんに何を要求してるの? 助けてあげたからって、そういう見返りを求めるのはどうかと思うなあ」
二人から非難の目を向けられ、嫌な汗をかく。
なんでそうなるんだ……コイツら俺をどんな人間だと思ってるんだ?
嫌な答えが返ってきそうだから訊かないけど。
「俺はそんなの要求してない! 言いがかりはやめてくれ!」
「容疑者はああ言ってるけど、どうなの?」
華燐が尋ねると、レミアは表情一つ変えずにうなずいていた。誰が容疑者だコラ。
「何も要求なんかされていないわ。誤解しないで」
「そうなの? だったらなんで……」
「感謝の気持ちを示しているだけ。計司になら何をされても……あまり過激な事を要求されても困るけど」
レミアはそんな事を言って、頬を染めていた。
やめろ、そういうのはよせ。ていうか、どんな顔すりゃいいんだ、俺は。
華燐は目をまん丸にして驚き、里奈は変な笑いを浮かべている。
いや、お前らも黙るなよ。そこはツッコんでくれないと、俺が困るだろ。
「あ、あのな、レミア。そういう冗談は言わない方がいいぞ。誤解されるだろ」
「私は本気だけど。他人に何を言われても構わないわ」
「俺が構うんだよ! お前だって俺と噂になったりしたら困るだろ?」
「困らない」
ヤバい、コイツ、マジだ。いや、感謝してくれるのはいいけどさ。
もうちょっと時と場所を考えて発言してくれないかな。
俺がうろたえていると、華燐がため息をつき、呟いた。
「とうとう灰神さんを落としちゃったのか……意外とやるじゃない、あんた」
「い、いや、落としてなんか……」
「そういう事なら私達が口出しするのは変かな。二人の問題って事だよね」
「里奈まで! だから、違うんだって! そんな関係じゃないから!」
華燐と里奈は呆れたような顔をして、俺が何を言っても聞いちゃくれなかった。
なんだよ、どうなってるんだ。俺はただ、レミアを助けただけなのに。なんでこうなるんだ……。
ガックリとうなだれ、ため息をつく。
そこでふと、膝の上に載せていた右手が柔らかいものに包まれた感覚があり、ハッとする。
「!?」
「……」
机の下で、レミアが俺の手に自分の手を重ね、キュッと握り締めていた。
驚いた俺が顔を上げて隣に座るレミアに目を向けると、レミアはいつものポーカーフェイスを維持したまま、口元を緩め、かすかに微笑んでみせた。
な、なんだコイツ、妙にかわいい顔しやがって……なぜ手を握る? そしてその笑みの意味はなんだ? サッパリ分からない……。
うろたえる俺を見つめ、レミアがポツリと呟く。
「……計司は意外と鈍い」
「は、はあ? 俺が鈍いって……どういう意味だよ」
「胸に手を当ててよく考えてみるといい」
「胸に手を……こうか?」
右手はレミアに押さえられているので、左手をレミアの方へ伸ばし、彼女の胸元に当てようとしてみる。
無論、俺は冗談のつもりだったのだが、レミアに手をはたかれ、ジロッとにらまれてしまった。
「そこでそういう真似をする神経が信じられない。計司は馬鹿なの?」
「い、いや、今のはただの冗談で……」
「冗談で誤魔化すべき場面じゃないはず。もっと真面目に考えて」
「は、はい……すみません……」
レミアに真顔で注意され、俺はうなだれるしかなかった。
華燐と里奈までもが呆れ返ったような顔をして、「駄目な野郎だわ」「尻に敷かれるタイプだね」などと言っていた。
俺が悪いってのか? 何がどう悪いのか、説明して欲しいもんだが……もしかして、異能者にしか分からない何かがあるのか?
それじゃ俺が理解できないでも無理はないよな。ああくそ、早く異能の力に目覚めたいぜ……!
「……そういう問題じゃないわ」
「えっ? じゃあ、どういう問題なんだ?」
「知らない」
レミアにはため息をつかれ、華燐と里奈には指先でツンツンとつつかれた。
俺だけが何も分かっていないらしい。女ってのは未知の生き物だよな……。
今回で一応の完結です。
ご愛読ありがとうございました。




