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18.レミアと華燐

 能力開発の授業時間、相変わらず俺は暇だった。開発しようにも能力そのものがないんだから仕方がない。

 廊下を歩いていると、赤い髪の女と鉢合わせた。

 炎条華燐は俺の顔を見るなり、文句を言ってきた。

「なんでいきなり灰神さんが来てるのよ。私に黙ってるなんて信じられない!」

「いや、俺に言われてもな。本人の意思だし」

 納得いかないのか、華燐は険しい顔で俺をにらんでいた。

 コイツはいつも怒ってるな。世の中に不満でもあるのか。便利そうな異能力を持ってるくせに贅沢だよなあ。


「灰神さん、セイバーズに狙われてるんじゃなかったっけ。そっちは解決したの?」

「いや、まだだ。連中に見付かるとまずいだろうな。レミアは返り討ちにしてやるから問題ないって言ってたが」

 とりあえず、レミアの所へ行くか。授業時間中に襲われる事はないだろうが、やはり心配だ。

「そういや、お前は何してるんだ? 訓練とかしなくていいのか?」

「やってるわよ、ちゃんと。今日は不燃物に点火できないか試してたんだけど……」


 そこでどこか遠くから非常ベルの音が聞こえてきて、校内放送が流れた。

『訓練棟B棟で火災発生、生徒はB棟から避難してください。繰り返します。訓練棟B棟で火災発生……』

 火災発生を告げるアナウンスを聞き、俺はハッとした。

 華燐を見てみると、バツが悪そうな顔をして目を泳がせている。

「おい。まさか……お前の仕業か?」

「だ、だって、防火加工してある部屋だから大丈夫だって聞いてたのに、あんなに燃えちゃうなんて……想定外ってやつよ!」


 聞けば、燃えにくい物体に火をつける訓練をしていたら、部屋の内装に火がついて燃え広がってしまったらしい。

 訓練は中止になり、華燐は部屋から追い出されたのだそうだ。

 華燐の能力、『ファイアーイグニッション』は炎を生じさせる能力で、点火と消火を自在に行えるらしいのだが、出現させた炎が何かに燃え移り、ある程度広がってしまうと消せなくなるという。

 単に炎を放つだけの能力よりも高度な能力らしく、威力も高いという。金属などの不燃物の表面にも炎を生じさせる事が可能なんだとか。なるほど、それでAクラスなのか。


「……お前の能力って、結構恐ろしいんだな。最強の放火能力じゃないか」

「放火なんかしないわよ! 私はもっと平和的で人の役に立つ能力の使い道を考えてるんだから!」

「ほう。たとえば?」

「たとえば、処理が難しいゴミなんかを塵も残さず焼却して、消火しちゃうの。周りの物は燃やさないようにしてね。不要な物だけを消滅させる事ができるようになれば、すごく便利だと思わない? ゴミ処理の問題が解決できるわ」

「なるほど。そいつを応用すれば、人一人を消すのに使えそうだな。証拠も残らないわけだ」

「だから、そういう物騒な目的には使わないってば! 私をなんだと思ってるのよ!?」


 そんな使い方は考えた事もないのか、華燐は怒っていた。

 だが、異能力というのは諸刃の剣だ。便利な反面、危険な要素も含んでいる場合が多い。

 異能者を集めて軍事利用しようとしている国もあるらしいしな。そこまで行かなくても、既に多くの国で異能者による犯罪を取り締まるために異能者を使っているっていうし。

 実際、一般人からすれば異能者ってのは脅威だ。今はまだ少数派だが、年々増えてきているっていうし、異能者で構成された大規模な組織ができたらどうなるのか……世界の支配構造が変わってしまうかもしれない。

 そうなる前に、異能者側のエースかジョーカーにでもなっておきたいもんだが……俺の潜在能力が目覚めるのはいつになるんだろう。早いとこ覚醒したいもんだな。


「特定の物体だけを焼却する能力か。実現すればすごく便利そうだな」

「でしょ? あんたの髪の毛だけを焼却したり……」

「そんなのは迷惑なだけだが……女の衣服だけを焼却できたら楽しそうだな」

「なっ……! なんていやらしい使い方を思い付くのよ!? このド変態!」

 軽い冗談のつもりで言ったのに、華燐は顔色を変え、左右の腕を交差させて胸元をガードしていた。

 コイツも割とプロポーションいいよな。美人だし、もう少し愛想良くしてたらモテモテだろうに。


「俺の異能力が目覚めないかな……服だけを次元の彼方に飛ばして、この世界から消滅させるんだ……!」

「ちょっと、私に手をかざして変な事を念じないでよ! ほんとに発動したらどうすんの!?」

 俺にそんな潜在能力が眠っているとでも思ったのか、華燐は真っ赤になってうろたえていた。

 相変わらず素直な反応をしてくれる。どこぞの吸血鬼にも見習って欲しいもんだ。


「……計司。何をしているの?」

「うわっ! な、なんだ、レミアか。脅かすなよ」

 一体、いつの間に近付いてきたのか、傍らにレミアが立っていた。

 び、びっくりした……まさか本人が現れるとは……噂をすれば影、ってやつか。

 レミアは俺と華燐を交互に見つめ、ポツリと呟いた。

「なるほど。分かったわ」

「えっ? な、何がだ?」

「今度は炎条さんにセクハラをしているのね。手当たり次第なの?」

「人聞きの悪い事を言うな! セクハラなんて……し、してないよ?」


 よく考えたらセクハラと言えない事もないので、あせってしまう。

 華燐は助かったとばかりに安堵の息をつき、俺に非難の目を向けてきた。

「私の服を次元の彼方に飛ばそうとしたくせに! セクハラじゃなきゃなんなのよ!」

「い、いや、だからそれは冗談で……」

「計司にそんな能力があったの? まあ、怖い」

「ねえよ、馬鹿! そんなのがあったら、とっくにお前を丸裸にひん剥いて……い、いや、もちろん冗談だからな?」

 レミアに真顔で見つめられ、冷や汗をかく。

 やめろよ、そんな虫けらでも見るような目で見ないでくれ……いいじゃないか、この程度の冗談ぐらい言っても。


 また非難されるのかとビクビクしていると、レミアは妙に優しい口調で俺に告げた。

「計司がどうしてもと言うのなら、脱いでもいいけど。その代わり、もう他の子にセクハラをしてはだめよ」

「べ、別にそんなの希望してないし! そういう趣味の悪い冗談はよせ!」

「私は本気だけど」

 何を言い出すんだ、コイツは。勘弁してくれよ。


 案の定、華燐が真っ赤な顔で抗議してきた。

「だ、だめよ、そんなの! 灰神さん、もっと自分を大切にして! こんなヤツの汚らしい欲望を満たしてやる必要なんかないのよ!」

「計司には助けてもらっているから。裸を見せるぐらいで恩返しができるのなら構わないわ」

「やめなさいって! 散々弄ばれたあげく、ゴミのように捨てられるのがオチよ!」

 ……えらい言われようだな。この女は俺の事をなんだと思ってるんだ?

 ここで何を言っても俺が不利になるだけのような気がする。話題を変えよう。


「レミアは訓練をやらないのか?」

「ええ。面倒だから、サボっているわ」

 無断で何日も休んでおいて訓練はサボるのか。学園側からしたら最悪の生徒だな。

 それにしてはなんの罰則もなく、担任から呼び出されもしないっていうのは変じゃないか。どうなってるんだ。

「さすが、Sクラスの異能者ね。特別待遇でお咎め無しなんだ。登校するように注意してたのが馬鹿みたいだわ……」

 華燐が眉根を寄せ、面白くなさそうに呟く。

 異能者として優秀だから、学園でも特別待遇なのか。さすがは異能者の理想郷とでも言うべきか。

 しかし、その優秀な能力のせいでセイバーズに狙われているのだとしたら、いい事ばかりじゃなさそうだな。


「そう言えば、灰神さんの能力ってなんなの? 見た事ないんだけど」

「……」

 言いたくないのか、レミアは黙ってしまった。質問したのに無視された形になり、華燐がムッとする。

 そこは何か適当に答えとけよ。ったく、しょうがねえな。

「レミアの能力は恐ろしいものなんだ。使えば相手は確実に死ぬ。だから気軽に見せられないんだよ」

「そ、そうなの!? やだ、怖い……」

「……」

 華燐が恐怖に震え、怯えきった目でレミアを見つめる。

 レミアは俺をジロッとにらみ、不愉快そうに呟いた。

「そこまで危険ではないわ。適当な事を言わないで」

「何よ、嘘なの?」

「いや、あれはかなり危ないぜ。人前では使わない方がいい。俺も何度殺されそうになったか……」

「やっぱり危ないの? もう、どっちなのよ!」

 華燐は俺とレミアを交互に見やり、どちらを信じていいのか分からない様子だった。

 馬鹿だなあ。何も考えずに俺の言う事を信じとけばいいんだよ。その方が幸せになれるぜ?


「計司は平気で嘘をつくから。あまり信じない方がいいわ」

「あっ、やっぱそうよね? 私も前から思ってたのよ。コイツってば嘘ばっかつくでしょ? 信用できないわよねー」

 華燐が笑って言い、俺はムッとした。するとレミアが、ポツリと呟く。

「嘘はつくけど、信用はできるわ。少なくとも私は計司を信頼している」

「えっ? 嘘つきだけど信用できるって? 何それ、どういう事?」

「……」

 説明するのは難しいのか、またレミアは黙ってしまった。

 いや、そこはがんばろうぜ。フォローしかけといて途中であきらめるなよ。


 華燐は怪訝そうにしていたが、なぜかニヤッと笑い、俺を肘で小突いてきた。

「何よ、結構信頼されてるじゃない。よかったわね」

「そうか? かなり微妙な評価のような気がするが……」

「贅沢言わないの。少なくとも付きまとわれて迷惑してるって感じじゃないじゃない。これで少しはあんたも報われるんじゃないの?」

 その程度で喜ばなきゃいけないのか。どんだけ底辺に見られてるんだよ俺は。

 まあ、多少なりとも信頼されてるのが分かったのはよかったかな。さすがにただの嘘つきのセクハラ野郎だと思われてたらショックだし。


 俺の事はともかく、レミアが意外なぐらい普通に学園生活を送っていてほっとした。

 長い間、不登校を続けていたんだし、その事で生徒の誰かから厳しく追及されるんじゃないかとか、学園側からなんらかの処分を受けるんじゃないかと心配していたんだが……大丈夫みたいだな。


 ……何か忘れている気がするが、気のせいだろ。問題ないないっと。


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