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16.接触

 翌朝。俺が起きた時、レミアはまだ寝ていた。

 深夜に出歩くのはやめたみたいだが、よく寝てるな。今日も一日中、部屋ですごすのか。

 床の上に敷いた布団に仰向けの姿勢で寝ているレミアの姿を眺める。ほんと、黙ってると美人だよな。

「……」

 昨夜の仕返しに、顔に落書きしてやろうかと思ったが、やめた。そんな真似をして、レミアの逆襲が怖すぎる。


 ……部屋にこもってばかりで退屈だろうが、もう少しだけ我慢していてくれ。

 俺が必ず、普通に学園へ行けるようにしてやる。別に正義の味方を気取るつもりはないが、何も悪い事をしていないのに身を隠さなければならないなんてひどい話だ。

 そんなのを許してはおけない。この俺がセイバーズの悪事を暴いてやるぜ。

「……行ってくる」

 寝ているレミアに小声で挨拶をして、部屋を出る。

 レミアが「行ってらっしゃい」と呟いたような気がしたが、俺は振り返らなかった。



「おはよう! あれ、どうしたの、計司。元気ないね」

 教室に入り、席に着くと、隣に座る里奈が声を掛けてきた。

 不思議そうに顔をのぞき込んできた里奈に、ぎこちない笑みで答える。

「お、おはよう……ちょっと筋肉痛で……身体中、ガタガタなんだ……」

 乱暴な同居人にプロレス技を掛けまくられた影響が今頃になって出てきやがった。

 アパートを出るまではなんか身体が痛いな、ぐらいだったんだが、学園まで歩いてくるうちに、関節やら筋やらが痛み出して、最悪の状態になっている。

 運動不足なのに全身ストレッチを受けちまったようなもんか。慣れればむしろ身体の調子がよくなるかもしれない。

 あの引きこもり吸血鬼め。もう少し優しくできないのか。手加減ぐらいしてくれよな。


 里奈は不思議そうに首をかしげ、俺の上着の胸に付いているピンバッジに気付くと、ハッとした。

「あれ? それってもしかして……セイバーズの?」

「おう。試しに仮入団してみたんだ」

 里奈は目を丸くして驚き、俺を非難してきた。

「なんで!? 仲間になんかならない方がいいって言ったのに! 何考えてるんだよ!」

「いやまあ、色々と事情が……ちょっと連中に興味があってね」

「し、信じられない……面白半分で関わったりしたらひどい目にあうよ。早く抜けた方がいいって」

 やはりと言うか、里奈は俺のセイバーズへのメンバー入りに反対だった。

 詳しい事情を話せないのがつらいとこだが、これでいい。俺がセイバーズの仲間になった事が広まれば、周りにも動きが出てくるはずだ。

 ここはかなり規模の大きな学園だ。生徒の中にセイバーズのメンバーがいても不思議じゃない。

 そいつらと接触し、連中の内情を探る。街中を歩き回るよりも効率はいいはずだ。


「馬鹿じゃないの、あんた。よりによってあんな連中の仲間になるなんて……呆れて物が言えないわ」

「ははは……」

 休み時間、廊下を歩いていると、炎条華燐が声を掛けてきた。

 俺がセイバーズに仮入団したという話は、既にクラスで噂になっているらしい。


 眉を吊り上げて非難してきた華燐に、俺は軽い口調で告げた。

「俺さ、前々から正義の味方ってやつに憧れてたんだ。だから試しに入ってみるのもいいかなって」

「いいわけないでしょうが! あいつらはロクでなしだって教えてあげたのに! 馬鹿なの? それとも大馬鹿なの?」

 えらい言われようだな。まあ、あれだけ連中の悪い評判を聞いておきながら、すんなり仲間入りしてたんじゃ非難されても当然か。

 それにしても予想していた以上に連中は嫌われてるみたいだな。一応、正義を守る組織って事になってるのにここまで評価が低いとは。メンバーも肩身が狭いんじゃないか。


「あの……ちょっといいかな?」

「?」

 不意に声を掛けられ、俺は首をかしげた。

 眼鏡を掛けた気の弱そうな男が立っていて、俺をジッと見つめている。学年章を見てみると、三年生だった。

 しかもそいつの胸には、俺のと同じピンバッジが付いていた。形は同じだが、俺のは白で向こうのは金色。……早速来てくれたのか。

「どうも。僕は三年の田中。君と同じ、セイバーズのメンバーだよ」

 柔らかく微笑み、田中さんとやらがフレンドリーに話し掛けてくる。華燐は「げっ」と呟き、黙ってしまった。

「白のバッジって事は、君は仮入団した人? 二年生なんだね」

「あっ、はい。よろしくお願いします、先輩!」

 俺はビシッと気を付けをして、深々と頭を下げた。田中さんは苦笑し、俺に告げた。

「そんなに緊張しないで。うちは明るく楽しい組織だよ。仲良くしよう」

「そ、そうですか」

「ところで、いきなりで悪いんだけど、二年生なら知ってるかな。実は、二年の灰神レミアさんという子を捜してるんだけど……」

 いきなり来たな。大当たりだ。

「そいつなら、同じクラスですよ」

「おっ、そうなのかい? しばらく登校してきていないらしいんだけど、どこにいるのか知らない?」

「すみません、そこまではちょっと分かんないですね……そいつに何か用でもあるんですか?」

 俺が尋ねると、田中さんは表情一つ変えずにサラッと答えた。

「ちょっと問題のある子らしくてね。発見次第、本部に連れてくるように言われてるんだ。たぶん、カウンセリングでも受けてもらう事になるんじゃないかな」

 ほう。カウンセリングね。表向きはそういう事にしてあるのか。

「見掛けたら本部に連れていきますよ。えっと、本部ってどこにあるんですか?」

「いや、そこまでしてくれなくてもいい。灰神さんの居場所が分かったら僕に知らせてくれないかな」

「あっ、はい。分かりました」

 それだけ言って、田中さんは去っていった。

 本部の場所が分かればと思ったんだが……仮入団員には任せられないって事か。


 そこで黙っていた華燐が、俺に詰め寄ってきた。

「ちょっと、どういうつもり? あれって、灰神さんが目を付けられてるって事でしょ。あんたまさか、彼女を売るつもりなの?」

 そういう風に取られちゃったか。まあ、傍から見ればそう見えるよな。

 少し考えてから、俺は華燐の腕をつかみ、引っ張った。

「えっ、何? ちょ、ちょっと、どこに行くのよ」

「いいから。黙って付いてきてくれ」

「……」

 華燐はかなり戸惑っていたが、俺の態度から真面目な話をしようとしているのが伝わったのか、大人しく付いてきてくれた。


 人気がない場所まで移動し、俺は周囲を警戒しつつ、華燐に告げた。

「レミアがセイバーズの標的にされてるのは知ってる。俺が連中に近付いたのは、レミアを助けるためだ」

「ど、どういう事?」

「連中の内情を探り、レミアを狙わせないようにするのさ。不正を暴いて、活動できなくしてやるつもりだ」

「それって、つまり……仲間になったフリをしてるって事?」

「そうだ。俺はレミアを売るつもりなんかない。信じてくれ」

「……」

 華燐は俺をジッと見つめ、やがてうなずいた。

「イマイチよく分かんないけど……灰神さんのため、っていうのは嘘じゃないみたいね。そこは信じてあげるわ」

「それで十分だ。ありがとう」

 礼を言うと、華燐は頬を染め、目を泳がせた。

「べ、別にあんたにお礼を言われる筋合いはないし。勘違いしないでよね!」

 ここでまさかの狙い澄ましたようなツンデレ台詞来た! 面白い女だな。

「でも、大丈夫なの? あんたが灰神さんの味方だってバレたらお終いなんじゃない?」

「その通りだ。だから、レミアの事はよく知らないって態度で通す。あいつと俺が親しいのを知ってるのはお前ぐらいだから、何か訊かれても黙っててくれ」

「それは構わないけど……そんなに上手く行くのかしら?」

 幸いにもレミアは不登校で引きこもり中だ。華燐が黙っていてくれさえすれば俺とレミアの関係を疑われる事はあるまい。

 嘘がバレて疑われる前に、連中の内情を探ってやる。まずはメンバーに接触して、本部の場所を聞き出してやるか。


「にしてもあんた……灰神さんのためにそこまでやるんだ? やっぱ惚れてんの?」

「……そんなんじゃないって言ってるだろ。あいつとはただの顔見知りだよ」

「顔見知りねえ……あんたって、もしかしてツンデレ? やだ、きもーい」

「……」

 誰がツンデレだ、誰が。キモいとか言ってるとぶっ殺すぞ?

 ムッとした俺を見つめ、なぜか華燐は愉快そうに笑っていた。

「いいわ、協力してあげる。セイバーズのやつに何か訊かれても黙ってればいいのよね?」

「ああ。悪いな」

「上手く行けば灰神さんの好感度が上がるかもしれないわね。ストーカーから友達未満ぐらいにレベルアップできるといいわね!」

「おう! これでやっと俺もストーカーを卒業できるぜ! って、違うわ!」

「ストーカーじゃなくて変質者だっけ? まあ、どっちでもいいよね」

「てめえを付け回してやろうかコラ」


 まだ俺が一方的にレミアに付きまとってると思ってるのか……コイツとはいずれ決着を付けなければならないようだな……。

 それは後で考えるとして、まずはセイバーズだな。連中の内部に潜り込んで色々と探ってやるとしよう。



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