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14.留守番レミアさん

 買い物を済ませてアパートに戻った頃には、すっかり日が暮れていた。

 俺が部屋に入ると、レミアが出迎えてくれた。

「ただいま……」

「遅いじゃないの。何かあったのかと思って心配したわ」

 レミアは眉根を寄せ、不機嫌そうにしていた。

 連絡ぐらいしとくべきだったか。このぐらいの時間なら別にいいかと思ったんだが。

 少しオーバーな気もするが、レミアは自分が狙われているから不安なんだろうな。


「俺がセイバーズに拉致られたとでも思ったのか? 連中は俺の事を知らないはずだし、心配ないって」

「でも……万が一という事もあるし……」

 俺が軽い口調で言うと、レミアは俯き、ブツブツと呟いていた。

 ……かわいいとこあるじゃないか。普段もこのぐらい素直ならいいのに。

 レミアの頭をポンポンと軽く叩き、安心させるように言う。

「俺は大丈夫だから心配するな。もしも連中に絡まれるような事があっても逃げ切ってやるさ。俺の逃げ足は半端ないんだぜ?」

「ならいいけど……遅くなる時は連絡ぐらいして」

 レミアは頬を膨らませ、プイッと顔をそむけてしまった。

 なんか妙にかわいいな。出会ったばかりの頃は無表情で愛想の欠片もなかったのに……少しは打ち解けてきたって事か。


 リビングに入り、テーブルの上に買ってきた物を並べ、夕食にする。

 レミアの前にナポリタン、チキンライス、トマトジュースなどを置いてやると、彼女は眉根を寄せた。

「……なぜ、私のはトマト系ばかりなの?」

「あっ、レバーもあるぞ。鉄分補給だ」

「血の代用品みたいな物ばかりじゃないの。私は吸血鬼じゃないと何度言ったら……」

 さり気なく生ニンニクを近付けようとしたら、レミアはそれをつかんで俺に投げ付けてきた。


「ふっ、やはりニンニクが苦手らしいな……」

「生でニンニクを食べられる人なんて滅多にいないでしょ。いい加減に……」

「悪い悪い。お詫びにこれをどうぞ」

「何これ? ミネラルウォーター?」

「教会でもらってきた聖水だよ。悪しき者を払う効果が……あいた、痛い! ペットボトルで殴るなよ!」

 ただの天然水だと説明すると、レミアは許してくれた。

「悪ふざけがすぎるわよ。能力を使っていない時の私は普通の人間なんだから、吸血鬼扱いしないで」

「分かってるって。ただの嫌がらせだから気にしないで……お、おい、落ち着け! 俺が悪かった!」

 つかみかかってきたレミアの手首を押さえ、慌てて謝罪する。

 コイツ、意外と短気だよな。軽い冗談なんだからそこまで怒らなくてもいいだろうに。


「なんて性格が悪いの。信じられない」

「いや、優しいだろ。行き場所のない無愛想な吸血鬼女を匿ってあげてるんだからさ」

「それには感謝してるけど……日に日に私の扱いが雑になっているような気がするわ」

「心配するな。気のせいじゃないよ、それ」

「……」

 またレミアがつかみかかってきて、俺は必死になって彼女を取り押さえた。

 レミアはプイッと顔をそむけ、食事を続けた。


「……意地悪ばかりして……寝てる時に噛み付いてやろうかな……」

「むっ、とうとう吸血衝動が抑えられなくなったのか? 寝る時は身体中に十字架を巻き付けとくか」

「好きにすれば? 十字架なんか持ってないくせに」

「いや、あるよ? 安いの売ってたから買っといた」

 十字架のペンダントを取り出してみせると、レミアは露骨に顔をしかめていた。

「私に嫌がらせをするためにそんな物まで……信じられない」

「嫌がらせ? いや、これは……」

「……まさか本気で吸血鬼対策のために用意したんじゃないわよね?」

「は、はは……まさか……」

 笑顔で誤魔化し、買い込んだ十字架グッズをベッドの下に押し込んで隠しておく。

 いやまあ、俺もレミアが吸血鬼だとは本気で思っていない。思っていないが……万が一という事もあるしな。


「なんて疑り深いの。こんなに大人しく留守番してるのに」

「べ、別に疑ってないぞ。たとえ本当は吸血鬼だとしても、レミアが俺を襲うような事はないって信じてるから」

「……」

 レミアは不満そうに目を細めていたが、ため息をつきながら、スパゲティナポリタンを食べていた。


 俺にススッと肩を寄せてきて、軽く肘で小突きながら囁いてくる。

「信じてるのか疑ってるのかはっきりして。そういう言い方は卑怯だわ」

「そ、そうか? 俺としては正直な意見を述べたつもりなんだけど」

「正直ならいいというものではないでしょう。もっと私に優しくしなさい。自由に外出する事もできない私をかわいそうだとは思わないの?」

「それはまあ、気の毒だとは思って……お、おい、無意味にくっつくなよ。よせって!」

 ペタッと肩をくっつけ、寄り掛かってきたレミアに思わず赤面してしまう。

 コイツ、たまにこういう事してくるんだよな。俺が女に免疫ないのを見抜いてからかってるのか。

 女というだけでも困るのに、コイツはかなりの美人だから洒落にならない。自覚があるのかないのか知らないが、俺には刺激が強すぎる。


「それ以上くっつくと、髪の毛に顔を埋めて匂い嗅ぐぞ?」

「好きにすれば。そのぐらい別に……」

「顔埋めて思い切りスーハーするぞ? それでもいいのか? いいんだな?」

「……」

 するとレミアはススッと俺から離れた。

 眉根を寄せ、生ゴミを見るような目を向けてきたが、気にしないようにしよう……。


「なぜわざわざ気持ちの悪い言い方をするの。理解できないわ」

「お前があんまり無防備だからだよ。もっと警戒しなさい。油断しちゃだめだ」

「……馬鹿な事ばかり言うくせに、意外と真面目よね。そこは長所かしら?」

「うるせえ。ほっといてくれ」

 そんなに馬鹿な事ばかり言ってるか? 少し前に、お前の銀髪って白髪なんじゃねえのって言ったら首を絞められたが、そのぐらいの冗談は許して欲しいもんだ。


「そういやさ、レミアは覇王城真姫って知ってるか?」

「覇王城……名前は聞いた事あるわ。『歩く暴君』とか『無差別殺戮マシーン』と呼ばれているそうね」

「そ、それはまた……えらい言われようだな」

 本人が聞いたら泣くんじゃないか。自分の悪い評判について気にしてるみたいだったし。

「その覇王城とかいう人がどうかしたの?」

 レミアから問い掛けられ、どう答えるべきか迷う。

 お前を狙ってるみたいだから気を付けろ、と言っておくべきか? でも、余計な心配事を増やすだけのような気もするな。


「いや、別に。強い異能者を探してるらしいから、見付からないようにしろよ」

「そう。分かった、気を付ける」

 こんなもんでいいか。レミアは引きこもってるんだし、そうそう出会う事もないだろ。


 当面の問題はセイバーズの方だ。どうにかして、あいつらがレミアを狙わないようにできないものか。


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