13.タイラント
放課後、学校帰りに都市の中心部に寄っていく事にした。
セイバーズのメンバーでも見付けられたら、と思ったのだが、例の白いジャケットを着ているやつは見当たらなかった。
夜にならないとだめか。連中の溜まり場でも分かれば、色々と情報が得られそうなのに。
繁華街の裏通りを歩いてみる。あまり人気はなく、通行人の姿もまばらだ。
ヤバい連中ってのはこういう場所を好むと思うんだが……セイバーズは一応正義の集団だから、裏通りにたむろしていたりはしないのか。
今日は収穫なしか。あまり遅くなってレミアが心配したらまずいし、さっさと帰るかね。
「ん?」
裏通りに面した、そこそこ広い公園に複数の人間が集まっているのを見掛け、足を止める。
見ると、あまり柄のよくない連中が二〇人ぐらいいて、たった一人と対峙していた。
なんだなんだ、喧嘩か? かなりヤバい雰囲気みたいだが……。
男達はナイフや警棒、金属バットなどを手にして武装している。
相手は女で、長い黒髪をした、美しい少女だった。軍服みたいなデザインの重厚なコートを羽織っている。
男連中はいかにもチンピラって感じだが、女の方はちょっと変わった格好をしているものの、まともな人間ぽい。
ミリタリー風のコスプレをした美少女にチンピラどもが絡んでいる……そんな風に見える。
また面倒そうな場面に遭遇しちまったな。俺には関係ないが、女の子が襲われてるのを見て見ぬ振りするわけにもいかない。
警察に通報するか? だが、男達は今にも襲い掛かりそうな様子だ。間に合いそうにないぞ。
仕方ない、ちょっと割り込んでみるか。ヤバそうになったら逃げよう。
そこで俺は公園に入り、少女の方に近付いて、声を掛けた。
「やあ、どうも、こんにちはー」
「?」
怪訝そうな顔をした少女に構わず、言葉を続ける。
「おお、君こそは捜し求めていた人材だよ、ハニー! さあ、一緒に明日のスターを目指そう!」
「……なんの話だ?」
「ここじゃあれだから場所を変えようか? 詳しい話はお茶でも飲みながら話そう」
「?」
俺がうながしても、少女は不思議そうに首をかしげるだけだった。
くっ、鈍い女だな。芸能スカウトぽい台詞でナンパするチャラ男を装いつつ、さり気なくこの場から連れ出そうとしてるのが分かんないのか?
「なんだてめえは? 邪魔してんじゃねえぞコラ!」
チンピラの一人が叫び、柄の悪い連中が一斉に俺をにらみ付けてくる。
内心、冷や汗をかきまくりつつも俺は平静を装い、軽い口調で告げた。
「悪いけど、彼女に用があるんだ。君達はまた今度って事にしてくんない?」
「ああ? ふざけてんじゃねえぞコラ! そいつの仲間ならまとめてやっちまうぞ!」
「暴力はよくないな。あんまりしつこいと警察呼ぶけど、いいのか?」
スマートフォンを取り出し、手早く一一〇番をダイヤルして言う。
あまり俺をなめない方がいいぜ? 警察に通報しながら逃げ出すぐらい朝飯前なんだからな。「武装したテロリストが公園に集合してます!」とでも通報してやればこいつらはお終いだろう。
すると男達ではなく、なぜかコートの少女が俺を制した。
「……警察は面倒なので呼ばないでくれ」
「えっ? い、いや、でも……」
「すぐに終わらせる。通報はやめてくれ」
「?」
終わらせるって、何を? この子は何を言ってるんだ?
俺の疑問に答えるかのごとく、彼女は動いた。全身に青白い光を宿し、猛然と男達へと突っ込んでいったのだ。
「……はああああ!」
「こ、こいつ! くそ、やっちまえ!」
男達はナイフや警棒、チェーンや金属バットを手にして迎え撃とうとした。
だが、少女は武装した男達を物ともせずに突撃し、手当たり次第に殴り倒していく。
少女が拳を打ち込むと、ボゴン、ドゴンとドラム缶をハンマーでぶっ叩いたような音が鳴り響き、人間が吹っ飛んでいく。比喩でもなんでもなく、人間一人が宙を舞い、すごい勢いで飛んでいくのだ。
ナイフや警棒が何度か当たったように見えたが、少女は無傷だった。凶器の方が折れたり欠けたりしている。
「無駄だ。我が能力、『タイラント』は全身を鋼に変え、無敵化する能力。チャチな武器など通用しない」
「く、くそ、だったらコイツをくらえ!」
男の一人が叫び、炎の塊を放つ。直撃したように見えたが、少女の身体を覆う青白い光に阻まれ、炎は四散した。
さらに別のやつが電流を放ち、凶器類を宙に浮かせてぶつけてくるやつまでいたが、それらを全て少女は弾き、黙々と敵を倒していく。
「噂通りの化け物だぜ……だが、これならどうだ!」
一人が合図すると、公園の外に待機していたのか、一台のジープが飛び込んできた。
土煙を上げながら猛然と加速し、少女に向かって突っ込んでくる。
だが、少女は特に慌てた様子もなく、右手を正面に向けて突き出し、突進してきたジープのバンパーをバシッとつかみ、受け止めてみせた。
運転席の男が必死に操作しているのが分かったが、少女にバンパーをつかまれたジープはタイヤが空転するばかりで前にも後ろにも動かなかった。
「ふんっ……!」
少女が右腕のみでジープを持ち上げ、公園の外へと放り投げる。ジープは路面に激突し、グシャグシャになってひっくり返った。
「う、嘘だろ……なんなんだ、コイツは……!」
「……今のが貴様らの奥の手か? 手応えがなさすぎるな……」
「く、くそう! この化け物があ!」
チンピラ達はやけくそになって飛び掛かっていったが、もはや勝負は見えていた。
二〇人ほどいた男達は一人残らず吹き飛ばされてしまい、半死半生の姿で地面に転がった。
「ぐええ……」
「……」
まさに圧勝、見事な無双ぶりだ。少女が異能者で、それもかなり強力な能力の持ち主である事を知り、俺は呆気に取られた。
……『タイラント』とかいったな。身体能力強化系の能力か。
あの系統の能力者は超人的な身体能力を発揮するものの、異能者としてはそれほど珍しくもなく、強力でもない者がほとんどだ。
一般人よりは強いが、異能者的には微妙な能力で、EやDクラスの者が多いのだが、あの少女が使ってみせた能力は、そういった常識的なレベルをはるかに超えるものだった。
異能者を含む、武装したあれだけの人数を相手に余裕で勝つとは……でたらめな強さだな。
間違いなくAクラス以上、AAかAAA、あるいはSクラスかもしれない。
謎の少女はふう、と息をつき、身体を包む青白い光を消して、俺に目を向けてきた。
「この連中から喧嘩を売られて、どうしたものかと思っていたんだが……君はもしや、私を助けてくれようとしたのか?」
「あ、ああ、うん、まあ……余計なお世話だったみたいだけど」
「そうでもない。おかげで無駄な問答をせずに済んだ。私は口下手なので、正直、助かった」
「そ、そう? だったらよかった……いや、よかったのか、これ?」
絡まれてる女の子を助けるつもりが、なんか妙な事になっちまったな。
俺の助けなんかなくても余裕で切り抜けられたんじゃないのか。この子、無茶苦茶強いみたいだし。
「なぜか最近、よく喧嘩を売られるので困っている。私は無駄な争いなどしたくはないのだが……」
「そうなのか? ……理由に心当たりは?」
「たぶんだが、私が覇王城真姫だからではないかな」
「なっ……なんだって?」
すまし顔でたたずむ少女を改めて見てみる。
背が高く、長い黒髪をしている。ややキツめの顔立ちをしているが、かなりの美人だ。
なるほど確かに。俺が聞いた覇王城真姫の特徴と合致するな。
もっとこう、筋骨隆々とした大女をイメージしてたんだが……背は高いけど、全然ゴツくないし、危ない感じもしないぞ。
「あ、あんたが噂の覇王城真姫なのか……?」
「……どんな噂なのかは知りたくもないが、たぶんその覇王城真姫だ」
「強そうなやつに喧嘩を売りまくって暴れ回ってるモンスターみたいな極悪異能者だって聞いたんだけど……」
すると彼女は眉根を寄せ、不愉快そうに呟いた。
「そうじゃない、違うんだ……私はただ、強者との戦いを望んでいるだけなのだ……!」
「よく分かんないけど、格闘家的なあれ? 自分よりも強いやつに会いに行く、みたいな」
「そうだ、まさにそんな感じだ! 私は、自分の能力をぶつけるのに相応しい好敵手を捜しているだけなのだ! 決して無法者のように暴れ回っているわけではない!」
クールな態度を一変させ、覇王城真姫は何やら熱く語っていた。
どうも噂とは違うみたいだな。強い異能者だっていうのは間違いないみたいだが、ちゃんと理性を備えた人間なんじゃないか。
「よかった。もっと凶悪な、暴力の権化みたいな怪物かと思ってたよ」
「そ、そうか。誤解が解けたようで何よりだ」
「でも、この暴れっぷりじゃあな。危ないやつだって噂されても仕方ないんじゃないか?」
「うっ……!」
倒された連中、みんなひどい有様なんだが。馬鹿でかい恐竜か何かに襲われたらこうなるんじゃないかって感じだ。人間に殴り倒されたぐらいじゃああはならないよな、普通……。
「手加減はした。誰も死んではいない」
「手加減してあれ? 怖すぎるな……」
「ううっ……!」
拳を握り締め、ブルブルと肩を震わせる覇王城真姫さん。
ちょっと涙目になってる。面白い反応だが、あまり追い詰めると殴り掛かってきそうだ。
「こ、これは正当防衛だし……私は悪くない……悪くないはずだ……」
「どう見てもやりすぎだし過剰防衛じゃないかと思うけど、凶器を使って大勢で襲ってきたあいつらが悪いよな」
「そ、そうだろう? 私は悪くないよな?」
「あれ? でも、先に手を出したのは覇王城さんの方だったような……?」
「ううっ!? い、いや、それは……」
「まあ、どっちでもいいよな。喧嘩を売ってきたコイツらが悪いんだ。そういう事にしとこうぜ」
「あ、ああ。そうしてもらえると助かる」
そう言って、覇王城真姫は胸をなで下ろしていた。
なんかイメージしてたのと違うみたいだ。結構、他人からの評価を気にするタイプなのか。
せっかく話す機会を得たんだし、ついでに訊いてみるか。
「ところで、覇王城さんはセイバーズという連中について知ってるか?」
「セイバーズ? ああ、あの……何度か見掛けた事はあるな」
「連中と揉めた事は?」
「特にないな。街中で遭遇しても、私とは目を合わせようとしないし」
なるほどな。あいつら、本当に強い異能者には絡まないようにしているわけか。正義の味方が聞いて呆れるぜ。
そんなんでよくレミアを狙う気になったもんだな。あいつも相当強いと思うんだが……。
「あのような烏合の衆になど興味はない。私が求めるのは強者のみ……!」
「バトル思考だなあ。あんまり派手にやってると警察に捕まるぞ」
「ふっ、警察ごときに捕まるものか。よく追い掛けられているがな!」
既に目を付けられてるのか。アウトローな姉ちゃんだな。
「しかし、なかなかよい相手が見付からないので困っている。街を歩いていると、ああいうチンピラどもにはよく絡まれるのだが……」
「強いって噂だもんな。倒して名を上げようってやつらもいるわけか」
「今現在、私が標的にしているのは銀髪の女だ。聞いたところによると、かなりの実力者らしい」
「……銀髪の女?」
妙な単語が出てきて、思わず反応してしまう。
おいおい、それって、まさか……いや、銀髪の女ぐらい他にもいるだろうし、うちに居候してるアレの事とは限らないよな……。
「銀色の長い髪をした、黒いゴスロリ風の服を着た女で、鬼神のごとき強さだという。吸血鬼だという噂もあるが……」
やっぱりレミアの事だった! 超危険人物だと噂されてるバトル狂に狙われてるって、あいつも大概だな。
「ぜひ、手合わせしたいのだが、目撃情報が少なくてな。それらしい人物を見掛けた事はないか?」
毎日見てますし、俺の部屋に居候してますよ。
などと言えるはずもなく、俺は内心の動揺を悟られないように注意しつつ、首を横に振った。
「いや、全然。見た事ないなあ」
「そうか……」
特に疑った様子もなく、覇王城真姫はうなずいていた。
……ややこしいのと知り合っちまったな。レミアを狙ってるやつがセイバーズ以外にもいたとは。
これ以上、話すのはまずい気がする。レミアの知り合いなのがバレる前に退散した方がよさそうだ。
「君の名は? よければ教えてくれないか」
「南部計司。強者とは無縁の一般人だよ」
俺が名乗ると、覇王城真姫は目を細め、薄く笑みを浮かべた。
「あれだけの人数を相手に、見ず知らずの人間を助けようとするとは大したものだ。称賛に値する」
「いや、別にそんな大したもんじゃ……たまたまだよ、たまたま」
「何か困った事があったら声を掛けてくれ。力になるぞ」
「そ、そう。まあ、気持ちだけ受け取っておくよ」
なんだかフレンドリーな態度を取られてしまい、反応に困ってしまう。
噂とは大違いで、割といいやつみたいだな。かなりの美人で、しかも強い異能者と知り合えたんだから喜ぶべきなんだろうが……。
レミアを狙ってるんじゃ、仲良くするのは難しいか。二人が対決するような事態にならない事を祈ろう。




