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12.セイバーズ

 あれから数日が過ぎた。

 レミアは夜の散歩をやめ、一日中、部屋に引きこもっている。たまに買い物に出掛けるぐらいで、ほとんど外出しない。

 旧市街地はそのほとんどが廃墟だが、俺達以外にも住民はいて、コンビニなんかもある。

 街を歩く際、俺は周囲の様子を警戒していたが、例のセイバーズらしき連中は見掛けなかった。

 日中は活動していないのか。それなら昼間は安全そうだが。


 俺なりにセイバーズに関する情報を集めてみた。やつらは割と有名らしく、学園の人間から色々な話を聞く事ができた。

 正義を守る異能者の集団、という事になっているらしいが、その活動内容は過激できな臭かった。

 連中独自の基準で善悪を判断し、悪だと決め付けた者には容赦のない制裁を行うという。

 目を付けられたら最悪の連中という事で、かなり恐れられているようだ。構成員の数は正確には分からないが、結構規模の大きな組織らしい。


 異能都市の自警団みたいなやつらか? やり方が過激すぎるせいで警察と衝突する事も少なくないらしいが……危ない連中なのは間違いなさそうだな。

 そんなやつらに目を付けられてるんじゃ、レミアも大変だな。……レミアを匿ってる俺も他人事じゃないが。



「灰神さんはまだ登校してこないの? 早く出てくるように言いなさいよ」

 学園では、毎日のように炎条華燐からレミアの事を訊かれた。

 真面目な華燐は、クラスに不登校の生徒がいるというのが放っておけないらしい。

 俺とレミアの仲を疑ってるみたいだしな……ただの知り合いだって何度も言ってるんだが。

「他人と関わろうとしないあの子があんたにだけはベッタリなんでしょ? ただの知り合いとは思えないのよね」

 レミアはクラスの人間とはほとんど会話を交わさず、いつも一人ですごしていたらしい。親しい友人などいるはずもなく、クラスでは浮いた存在だったようだ。

 あいつらしいよな。話してみると割と気さくで冗談もよく言う愉快なやつなんだが。少し天然でマイペースすぎるのが困りものだけど。


「なんであんただけ……格好いいわけでも性格いいわけでもなさそうなのに……弱みでも握ってんの?」

「おいコラ、俺が脅して友人を演じさせてるみたいな言い方はやめろ。どんだけ非道なんだよ俺は」

「だってあんた、脅したり怯えさせたりするの得意でしょ? 外見はアホっぽいのに中身はチンピラよね」

「てめえ……泣かせてやろうか、コラ」

 華燐は言いたい放題言うやつで、コイツとの会話はいつもこんな感じだ。

 根は真面目で素直みたいだが……もう少し遠慮とか思いやりを持って欲しいもんだ。サバサバしていて嫌味がないのが救いか。


「こんな外道のどこがいいのかしら? 灰神さんってドMなの?」

「知るか! あいつはどちらかと言えばSだろ。追い込むと殴り掛かってくるし」

「やっぱりいじめて遊んでるんだ! もう少し健全な付き合いをしなさいよね。付いてけないわ」

 華燐内部では俺は外道でドSって事にされてるらしい。ひどすぎる。

 別にレミアをいじめて遊んでなんか……向こうがからかってくるから、こっちも対抗してるだけだし。たまにつかみ合いの喧嘩になるが。

 あいつ、普段は無表情ですごく落ち着いてるのに感情的になると結構面白いんだよな。いや、別に楽しんでないけど。


 華燐にもセイバーズの事を訊いてみたところ、やはり知っているらしかった。

「セイバーズ? ああ、あいつらね。そりゃ知ってるけど、関わらない方がいいわよ」

「やっぱり危ない連中なのか?」

「かなりね。悪だって決め付けた相手を集団でボコッてるようなやつらだから。あいつらに目を付けられないよう、みんな気を付けてるぐらいだし。本人達は正義の味方のつもりなのがまた気持ち悪いっていうか……まあ、ロクでもない連中なのは確かね」

「そうか……なあ、もしもそいつらに狙われたらどうする?」

 試しに尋ねてみると、華燐はフン、と鼻を鳴らして答えた。

「決まってるじゃない、徹底抗戦よ! 私をターゲットに選んだ事を後悔させてやるわ……!」

「お、おい、炎を出すなよ。うわ、熱い! 熱いって!」

 掌を上向きにしてシュゴーッと炎を生じさせた華燐に冷や汗をかく。

 ごく自然に炎なんか出しやがって……うらやましいぜ、畜生。


 華燐は炎を消すと、つまらなそうに呟いた。

「でもまあ、普通にしてれば狙われる事はないわよ。連中は一応、正義の味方のつもりなんだから。街中で暴れたりしない限り大丈夫でしょ」

「そうなのか。なるほど……」

 だが、それだとレミアが狙われてるのは変だな。あいつが自分から派手に暴れたりするとは思えない。

 連中に絡まれたから叩きのめしてやったと言っていたが……それで『悪』だと決め付けられたのだろうか。

 まあ、吸血鬼化するような能力だしな。あの能力のせいで悪人扱いされてるのかもしれない。


「セイバーズなんかよりも危ないやつはいるしね……たとえば、覇王城真姫はおうじょうまきとか」

「覇王城真姫? 誰だ、それ」

「すごく凶暴な異能者よ。強そうなやつに喧嘩を売っては倒してるんだって。しかもSクラスの異能者で、でたらめに強くて、警察も捕まえられないらしいわ」

「そんなのがいるのか……ここって、平和そうに見えて結構危険な街なんだな……」

 異能者にもならず者みたいなのがいるんだな。しかし、レミア以外にもSクラスがいるとは……さすがは異能都市ってとこか。

 どんな能力者なのかちょっと見てみたい気もするが、関わらないのが利口か。


「あんたも喧嘩を売られないように気を付けなさいよ。強そうには見えないけど、性格悪そうだから。目が合ったら『何見てるんだコラァ!』って感じで絡まれるかも」

「昭和のヤンキーかよ! 俺のどこが性格悪そうに見えるんだ?」

「目付き。あと顔付き。そのへん歩いてるだけで職質されそう」

「されねえよ! 言いたい放題だなおい」

 なんて言いぐさだ。スカートめくるぞコラ。

 はっきり言って俺ほど善良な人間はいないと思うが……まあ、目の前にいるコイツも含めて、なぜか異能者にはよく絡まれるんだが。

 覇王城真姫とやらを見掛けても目を合わせないようにしとくのが無難か。


 クラスにはまだ馴染めないが、顔見知りがいるおかげで退屈はしなかった。

 華燐はレミアの事でよく話し掛けてくるし、隣の席には小波里奈がいるので。

 ショートヘアが似合う里奈はあんまり女って感じがしなくて話しやすい。女顔した男友達みたいな感じか。

「……それってすっごく失礼だと思うんだけど。私ってそんなに男っぽい?」

「いや、全然? 女なのを意識しないで話せるってだけだよ」

「失礼すぎ! 少しは意識してよね!」

 別に男扱いしてるわけじゃないんだが、俺が正直な感想を述べると里奈は怒っていた。

 サバサバしているようで、一応は女扱いして欲しいのか。女心ってやつは複雑なんだな。


「華燐ちゃんとよく話してるよね。計司は気が強い子が好きなの?」

「そんなんじゃねえよ。どちらかと言うと大人しくて優しい子の方がいいな」

「あー、男って、そういう子が好きだよね。このクラスだと、灰神さんみたいな子かな?」

 里奈の口からレミアの名が出て、ドキッとしてしまう。

 今現在、あいつは絶賛不登校中だが、同じクラスなんだから知ってて当然か。

 しかし、レミアが大人しくて優しい? なんの冗談なんだ。


「あの女のどこが大人しいんだ……口数が少ないだけだろ」

「あれ? 計司は灰神さんを知ってるの? なんで?」

 ……そう言えば、俺が転入してきた時には、レミアは既に不登校中だったな。

 ずっと休んでいるあいつを俺が知っているのはおかしいって事か。華燐とはレミアの事を話すから油断していた。

「この街に来た時に偶然知り合ってさ。一応、顔見知りなんだよ」

「そうなの? ふーん……」

「な、なんだよ?」

「別に? そりゃ灰神さんと比べたら私なんか女らしさの欠片もないでしょうよ、って思っただけ」

 里奈はムスッとして、面白くなさそうにしていた。

 俺がレミアと比較してるとでも思ったのか。そいつは邪推もいいところだぞ。


「レミアと比べてなんかいないって。それにあいつはそれほど女らしくはないだろ。里奈と変わらないよ」

「いいよ別に、無理してフォローしなくても。どうせ私なんか男女だし。パンツルックだと男の子と間違えられちゃうしね」

 里奈は顔をそむけ、拗ねたように呟いていた。

 そんなに気にしてるのか。別に男っぽくはないと思うが……女っぽくもないけどさ。

「女なのを意識しないで話せるとは言ったけど、男みたいだとは思ってないぞ。ちゃんと女だと思ってるって」

「ほんとに? 怪しいなあ」

「嘘じゃないって。次はどんな勝負を仕掛けて脱がせてやろうかって悩んでるぐらいだし」

「それでフォローのつもり!? やらしいなー」

「よし、腕相撲で勝負だ! 脱衣ルールで!」

「やらないよ!」

 里奈はガードを堅め、変質者を見るような目でにらんでいた。

 男扱いすると失礼だと非難され、女扱いすると変態扱いされるのか……理不尽極まりないな。


 どうでもいいが、今の反応は割と女っぽいな。いつもそんな感じなら男扱いされる事もないんじゃないかと思うが、あまり女っぽいと俺が話しにくくなってしまう。まあ、現状維持って事でいいんじゃないかな。


 ついでなので、里奈にもセイバーズの事を尋ねてみる。

「ああ、あの連中ね。正義の味方とか言ってるらしいけど、いい噂は聞かないなあ。弱い能力者が集まって自警団みたいな事してるとか……」

「弱い能力者? そうなのか」

「メンバーのほとんどはそうらしいよ。中には強いのもいるらしいけどね」

 強い能力者の集団ってわけじゃないのか。弱いやつほどよく群れるっていうが……。

 考えてみれば、それも当然か。異能者といっても強力な能力が使えるやつなんか一握りだろうしな。

 だが、その一握りがメンバーにいる可能性はある。甘く見ない方がいいだろうな。


「誘われてもメンバーにならない方がいいよ。悪人でもなんでもない人を悪党だって決め付けて痛め付けたりしてるらしいし」

「なかなかの外道だな。そんなのがよく存在を許されてるもんだ」

「そんなに派手に活動してるわけじゃないから、警察も捕まえられないんじゃない? よく知らないけど」

「なるほど……」

 俺が聞いた噂じゃ、警察ともよく揉めてるらしいが……実際はどうなのか分からないな。


「じゃあ、覇王城真姫っていうやつは?」

「は、覇王城真姫……! だめだめ、そっちは本当に危ない人だから! 見掛けても近付いちゃだめだよ!」

 里奈は顔色を変え、俺に忠告してきた。

 そこまで危ないやつなのか。なんだかちょっと会ってみたくなってきたぞ。

「参考までに聞きたいんだが、どんなやつなんだ?」

「背が高くて、髪の長い、女の人だよ。歳はたぶん私達と同じぐらい……学生かどうかは知らないけど」

 それだけじゃよく分からんな。背が高くて髪が長い女なんて、いくらでもいそうだし。

「見れば分かると思うよ。見るからに危なそうな人だから」

 筋肉ムキムキの世紀末覇者みたいな女なのかな? それは確かに危なそうだ。

 名札でも付けて歩いててくれれば助かるんだが……まあ、危なそうなやつには近付かないようにしてればいいか。


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