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11.夜の散歩

 深夜。

 部屋の窓を開き、レミアは外へ出て行った。

 寝たフリをしていた俺はベッドから這い出して、開いた窓から外の様子をうかがった。


 レミアはアパートの近くにある建物の屋根を足場にして跳躍し、あっと言う間に姿が見えなくなった。

 おお、あれがバトル物の漫画やアニメでおなじみの屋根移動ってやつか。実物を見るのは初めてだ。ちょっと格好いいな。


 レミアが姿を消した方角を確かめてから、俺は急いで部屋を出た。もちろん窓からじゃない。

 アパートを出て、走って後を追う。このあたりは街灯も少なくて、夜はほぼ真っ暗だ。

 レミアが向かった方角には、街の光があった。都市の方へ向かったみたいだな。


 別に詮索する気はないが……さすがに心配になる。事情を聞いても「夜の散歩」としか言わないし。

 危ない事をしていないんならそれでいい。とりあえず、レミアが何をしに行ったのか確かめないと。


 しばらく走ると、街灯が増えてきた。あとワンブロックぐらいで旧市街地を抜ける。

 旧市街地の外れ、廃墟と化した街の終点あたり。通りのど真ん中で、複数の人間が争っているのを見掛け、足を止める。

 慌てて物陰に隠れ、様子をうかがう。


 揃いの白いジャケットを羽織った男達が数人いて、誰かと争っているようだ。

 集団の中心にいるのは、長い銀髪に黒いゴスロリ服の少女。瞳を真紅に光らせたそいつは、レミアだった。


 白ジャケットの連中は金属製の長いロッドを振り回し、レミアを攻撃していた。

 だが、レミアには当たらない。獣のようにすばやい動きで攻撃をかわし、敵を翻弄している。

「くっ、こいつ! いい加減に観念しろ!」

「おい、そっちへ回り込め! 逃げ道をふさぐんだ!」

 そいつらは一〇人ぐらいいたが、レミアを包囲しきれずにあせっている様子だった。


 レミアが襲われているんなら助けなきゃと思ったんだが……なんか余裕みたいだな。笑ってるように見えるのは気のせいか?

「ククク、雑魚どもが……今宵、私と出会った不運を嘆くがいい……!」

 気のせいじゃなかった! しかも悪役みたいな台詞を……どうなってるんだ?


 攻撃を避けてばかりだったレミアが、不意に動きを変え、敵の一人に飛び掛かった。

 そいつの腕をガシッとつかみ、真紅の瞳を輝かせる。

「……エナジードレイン……!」

「う、うわあ! ち、力が……抜ける……」

 腕をつかまれた男は立っていられなくなり、その場に膝を突いた。

 エナジードレイン……他人から体力を奪い取る能力か。なるほど、吸血鬼らしいスキルを持ってるんだな。


 仲間の一人が慌てて手にしたロッドを振るい、レミアを殴り付ける。

「こ、こいつ! 離れろ!」

 金属製のロッドで力任せに殴られたのだ。普通なら大怪我をしているだろう。俺の方がヒヤッとして、思わず声を上げそうになった。

 だが、レミアは平然としていた。尚も振り下ろされるロッドを片手でパシッとキャッチし、持ち主ごと持ち上げてしまう。

「こ、この! 放せ!」

「いいわ。放してあげる」

 左腕のみで人間一人を宙に浮かせ、ゴミでも捨てるように放り投げる。

「うわああああ!」

 飛んできた仲間を慌てて避け、白ジャケットの連中は恐怖に怯えた顔でレミアを見ていた。

「こ、この女、やはり化け物だ……おい、応援は呼んだのか?」

「とっくに連絡済みだ! 応援が到着するまで足止めを……」

「無理だよ、こんなの! 強すぎる!」

 あせる男達を真紅に輝く瞳で見つめ、ニヤリと笑うレミア。

 普段の無表情でぼうっとしているのが嘘みたいな姿だ……悪の女幹部か、それこそ吸血鬼にしか見えない。

 戦ってる相手は白いジャケットを着ていて、正義の味方ぽいしな……何者なんだ、あいつら?


「くそ、これでもくらえ!」

 男の一人がレミアに向けて手をかざし、拳大の炎を放つ。異能者だったのか。

 放たれた炎の塊をまともに受けたものの、レミアは平然としていた。

 腕を振るい、服に引火した炎を消し飛ばす。ダメージはまったくない模様。

「ククク、無駄な事を……貴様らごとき、私の敵ではないわ……!」

「ひ、ひいいい! ば、化け物ぉ!」

 恐怖に震える男達に飛び掛かり、レミアは一人ずつ確実に倒していった。

 手刀を打ち込み、蹴りを放ち、腕をつかんでエナジードレイン。敵の攻撃は当たらず、当たってもレミアはノーダメージ。まるで勝負にならない。


 物の数秒で男達全員をアスファルトの路面に這いつくばらせ、レミアはつまらなそうに呟いた。

「ふん、手応えのない……何がセイバーズだ……もう少しマシな兵隊を集めてこい」

「く、くそう……」

 男達は全員、立ち上がる事もできずにいたが、一応は生きているみたいだ。

 悔しそうにうなる彼らを放置して、レミアは地面を蹴って跳躍し、夜の闇に溶け込むようにして姿を消した。


 ……あいつは一体、何をやってるんだ?

 レミアがあの連中と敵対しているのは分かった。先日、レミアを追っていた連中も同じジャケットを着ていたし、同じ組織の人間なんだろうな。

 あいつらから逃げ回って、俺の所に転がり込んできたんだろうに、わざわざ自分から出てきて暴れているのか?

 そんな事をすれば、ますます狙われるはめになるんじゃないのか。どういうつもりなんだろう。

 ……本人に訊くしかないか。何か考えがあるのかもしれないし。

 倒れた連中の仲間が来たらまずい。見付からないように注意しつつ、俺は来た道を引き返した。



 アパートの部屋に戻り、しばらく待つと、レミアが戻ってきた。

 窓から入ってきたレミアは俺が起きているのを見て、少しだけ驚いた顔をしていた。

「よう。長い散歩だったな」

「……少し遠くまで出てきたから」

 部屋の明かりをつけ、レミアの姿を観察する。あれからまたどこかで暴れてきたのか、少し薄汚れていて、服がボロボロになっている。

 幸い、怪我はしていない様子だった。


 俺から目をそらしているレミアにため息をつき、尋ねてみる。

「派手に暴れてるみたいじゃないか。いつもあんな事をしているのか?」

「見たの? 私の後を付けたのね」

「まあな。居候がどこまで散歩に行ってるのか気になってさ」

 俺に付けられていたとは思わなかったのか、レミアは困った顔をしていた。

 能力は解除しているらしく、瞳の色は青に戻っている。


「この吸血鬼め、無茶しやがって。あの連中がお前を狙ってるやつらなのか?」

「ええ。そうよ」

「何者なんだ、あいつらは?」

「彼らは『セイバーズ』。邪悪な者どもを粛清する正義の組織……という事になっているらしいわ」

「実際は違うのか?」

 するとレミアはムッとして、不愉快そうに呟いた。

「私のような罪のないか弱い少女を襲っているのよ。どこに正義があるというの?」

「暴れてるレミアは邪悪な吸血鬼まんまに見えたけど」

「……あれはその、あいつらに恐怖を植え付けてやろうと思って……演技していただけよ」

 あれが演技ね。随分とノリノリだったみたいだが。


「しかし、ありゃなんの真似だ? 自分から喧嘩を吹っかけに行くなんて……あいつらに見付からないように隠れてるんだろ?」

「……隠れているだけじゃ問題は解決しないもの。連中に狩られる前に、狩ってやろうと思って」

「そういう考えかよ。見かけによらず過激だな……いや、レミアらしいと言えばらしい気も……」

「どういう意味?」

 眉根を寄せたレミアから目をそらし、答えないでおく。なんか殴られそうだし。


「昼間は身を隠して、能力が使える夜は逆に襲いに行くのか。もう完全に吸血鬼だな」

「ほっといて。……私の能力が昼間は使えないって、なぜ知っているの?」

「やっぱそうか。昼間は出歩きたくないっていうから、たぶんそうだろうと思ったんだよ」

 するとレミアは観念したようにため息をつき、説明した。

「私の能力『ヴァンパイア』は吸血鬼に近い力を使う事ができると言ったでしょう? その代償として、弱点も吸血鬼と同じになるのよ」

「なるほど。じゃあ、陽の光を浴びたら……灰になるのか?」

「さすがに灰にはならないと思う。でも、身体が焼けてしまいそうになる。それはもう、すごい苦痛なの。だから陽の光がある時は能力を使えないの」

 つまり、能力さえ発動させなければ陽の光が降り注ぐ中を歩いても平気なんだな。完全に吸血鬼ってわけじゃないのか。

 これはたぶん、十字架やニンニク、聖水も苦手だな。今度、ニンニクたっぷりの料理でも食べさせてみるか。


「事情は分かったけど、あまり利口な方法とは思えないな。もう夜の散歩はやめろ」

「どうして? 私にずっと隠れていろというの?」

「そうは言わないが、連中も馬鹿じゃないだろ。このまま続けていると近い内に隠れ家を突き止められるぞ。つまり、この部屋を襲撃される」

「!?」

 レミアはハッとして、目を泳がせた。

「……ちゃんと見付からないよう気を付けてるし、大丈夫だと思う」

「今のところは、だろ。たぶんもう、旧市街地に隠れてるのには気付かれてるぜ。街中に見張りを配置してるかもな。見付かるのは時間の問題だ」

「そんな……どうしよう」

 不安そうなレミアに、ため息をつく。

「だから、夜の散歩はやめろ。外に出る時は細心の注意を払え。どこから見られているのか分かんないぞ」

「……うん」

「連中が捜すのをあきらめてくれるのを待つんだな。その方が利口だ」

「……」

 レミアは不満そうだったが、渋々とうなずいていた。


「私はもう一生、この部屋から出られないのかな……」

「そんなわけないだろ。ていうか、ずっと居候を続けるつもりかよ」

「迷惑? 私を追い出すの?」

「別に迷惑じゃ……こ、こら、ウルウルした目で見つめるな! 追い出したりしないから安心しろ」

「……ありがとう」

 神妙な顔で礼など言われてしまい、困ってしまう。

 乗りかかった船ってやつだ。今さら追い出せるわけないだろ。


 しかし、レミアの言う通り、隠れているだけで問題が解決するとも思えない。やはり『セイバーズ』とかいうのをなんとかしないとな。

 まずは連中がどういう集団なのか調べる必要があるな。その上で対応策を考えよう。

「……計司は意外と頼りになるのね。見直したわ」

「そりゃどうも。お世辞を言っても何も出ないぞ」

「本心よ。何かお礼をしたいわ。何がいい?」

 急にそんな事を言われても困るんだが。別に何か見返りを期待してるわけじゃないし。

 そうだ、メイド服を着てもらって「ご主人様」と呼ばせるのはどうだろう? ちょっと楽しそうだよな。


「やはり、エッチな事かしら。そういうの、よく分からないけど……脱げばいいの?」

「そうだね……って、やめろ馬鹿、よせ! 服を脱ごうとするな!」

 レミアがゴスロリ服の肩紐を下ろして服をはだけようとしたので、慌ててやめさせる。

 こ、この吸血鬼女、何考えてるんだ……もう少し恥じらいを持ちなさい。

 美人だし、部屋にいるだけで十分刺激的すぎるってのに。そばに寄ってくるとすげえいい匂いがするし、困ったもんだ。


「そう言えば、なんか焦げ臭いな」

「服を焦がされたから……シャワー浴びて、着替えてくるわ」

 火炎攻撃を受けていたからか。レミア自身は平気でも、服の方はダメージを受けているのか。

 レミアは浴室へ行こうとして、俺に目を向けた。

「計司も一緒に浴びる?」

「浴びねえよ! そういうの、いいから! 冗談でもよせ!」

「意外と真面目なのね。いつも意地悪ばかり言うくせに」

「うるせえ。そら、さっさと浴びてこい。部屋の中が焦げ臭くてたまらん」

 クスッと笑い、レミアは浴室へ向かった。


 まったく、困った女だよ。なんで俺、あんなのと関わっちまったんだろうな……。

 しかしまあ、知り合ってしまったんだから仕方ない。俺にできる事なんてたかが知れているが、やれるだけ協力してやろう。

 場合によっては、田舎の知り合いに連絡を入れて相談してみるか……あんまり期待はできないが。


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