8: 剣士と魔術師
「……よし、と」
「だいぶ手馴れてきましたわね」
何体目かの雑魚モンスターを相手して、ようやく戦闘の感覚が掴めた。
最初は操作方法(?)すらわからなかったが、隣に開発者がいるのでその都度フォローを貰った。
操作方法は簡単。
頭の中で思い浮かべるだけだ。そうすると体が勝手に動く。
ユミル曰く、
「体が覚えている、ということですわ」
らしい。
どういう仕組みなんだか、という感じだが必死に修行しなければならないというよりはマシだ。
3体目くらいまでは基本動作の確認。
その後はユミルとの連携の確認。
曲りなりにも、長い間性別身の上を騙し合っていた仲だ。連携は動作に慣れてしまえば簡単だった。
「ユミル!」
「任せてくださいまし! 『フォトン』!」
俺が攻撃的前衛、ユミルが攻撃的後衛ということもあってかなり攻撃偏重だ。
そこは「攻撃こそ最大の防御、回避こそが次善の防御」という脳筋仕様によってレベル差スキル差ゴリ押しで進める。
とはいえ、後衛のユミルがヘイトを稼がないように細心の注意を払わなければならないのだが。
「壁とヒーラーがいてくれれば、まだ楽なんだがなぁ……」
「ない物ねだりをしても仕方ありませんことよ、アリーシャ?」
「いや、女神なのに回復術使えない方がおかしい」
「女神なら回復術を使えると思う方がおかしいですわ」
ユミルの職業「神位魔術師」は、PCOには存在しなかった。
それはユミルが創造神故に創った新職業なのだそうだが、これはかなりユミルの趣味が全力で投げ込まれている職業なのだ。
「回復術・味方補助術は初級のみ。攻撃術は闇属性に偏って、しかもエフェクトは趣味が悪い。あとはデバフがやけに充実していると来たもんだ」
「ちょっと待ってください! そんなにひどいんですの!?」
いや、あれは結構ひどい。
空中から突然「鉄の処女」が出現して敵をじわじわ嬲り殺して棺桶から血がにじみ出る闇魔術とか相当闇抱えている。誰だアレ考えたの。
「私の考えた最高の魔術でしたのに……自信あったのですが」
お前かよ! 違うと良いなと思ったけどやっぱりお前かよ!
「だってアリーシャが、PCOで『闇魔術は好き』って言ってくれたじゃないですか!」
「それは✝クリス✝くんが好きそうだったから」
中二病患者だと思ったから適当に言っただけだ。
「酷いですわ!」
「酷いのはユミルの趣味……いや、なんでもない」
「殆ど言ってます!」
「問題は敵のレベルが俺らに追いついたら対処できそうもないということかな」
「無視しないでくださいまし!」
ユミルはあーだこーだと言うが、レベル75は「中堅」には違いない。
ゲームに準じていれば、の話だが。
「世界の法則いじってなんとかできないの?」
「それだとあなたの嫌いなチートになりますが?」
「生き残る方が先決だし」
チートを嫌うあまり死ぬのは嫌だ。リスポンがないなら尚更である。
「無理ですわね。世界の外側からでないといじれません」
「……じゃあ今すぐログアウトして」
「アリーシャと離れたくありませんし、一度ログアウトすると再ログインができませんから」
「なんで」
「そういう仕様なんです」
ぷいっ、と目を逸らすユミル。
もしかしてこいつ、ログアウトシステムを作り忘れたとかそう言うんじゃないだろうか……。
「それに、それは問題にはなりませんよアリーシャ。別にストーリーがあるわけでもありませんから。なんだったら中堅レベル地域の外に行かなければいいだけです」
「せこっ!」
MMOではレベル帯にあった場所で狩りをしましょう。
さもなければネットで晒されて粘着されて時々変なメッセージが来てブラックリストがパンパンになります。
「されたんですのね……」
「……ノーコメント」
マナーを守って楽しくゲームしようね! ここ現実だけど!