2: 求婚されてた
「ネカマ」
意味:現実世界では男の人間が、ネットという匿名性を利用して女を装うこと。
ネットオカマの略。
オンラインゲームやSNSなんかでよく出没するネカマ。
ネット世界で「性別:女」と書いてあった場合、9割方男である。そう言われている程ネカマは多い。
そしてまぁ、俺もその1人なわけだ。
女キャラ「アリーシャ」を操作して幼気な少年(仮)の✝クリス✝くんから課金装備とレア装備その他諸々を貰い受けるくらいにはネカマしている。
女を装って男に近づき、女と勘違いさせ、一緒にプレイするうちに男が「あれ? こいつもしかして俺のこと好きなんじゃね?」とか思い始め、色々と世話を焼いちゃう生き物と化す。
汚い言葉で罵っていた男が急に優しくなったり、なぜか優先的に援護してくれたりと何かと便利。
それがネカマである。
ずっと男だと思わせておいて、NOOBプレイを批判された時に女であることを暴露(嘘)するとコロッといってしまった……という例もあるらしい。
まったくもって性欲というのは恐ろしい。
やりすぎると顰蹙と恨みを買うが、そこは貪欲さを抑える理性の強さ次第と言ったところだ。
それにアカウントを作り直すのも手間だしね。
俺がネカマをやり始めたきっかけは、大したもんじゃない。
本垢のキャラは男で名前も普通に男とわかる。
ただひょんなきっかけで、なぜか女と間違えられた。
勘違いしたギルメン(♂)曰く、
『いや、お前普段は男だけどたまに女々しくなるからさ』
らしい。
女々しいってそれ絶対バカにしてるだろ。
それはともかく、そこから俺のネカマ人生は始まった。
複垢を作り、全力でネカマをする。
最初は「実は男なんです」ってバラして相手の反応を見て画面の前で腹抱えて笑ってただけだが、次第にそれだけじゃ満足しない体になってしまったのである。
そしてついに貢がれるようになった。
結構簡単そうに見えるが、如何に男心を鷲掴みにするかという技術を駆使してる。
そしてたまに「なんで俺男相手に必死になってるんだ」と我に返る。
だが、俺を女だと思って行動する男共を観察するのはとても快感だ。
✝クリス✝くんなんて、完全に俺にゾッコンだ。プッ……。
「ぶわぁあハッハッハッハッ!」
ひぃっひっ。お、お腹が痛くなる。思い出すだけで呼吸困難、これが哀れな男の行動の結果。
……ふぅ。あまり笑うのもはしたないな。
さてと、✝クリス✝くんから貰った装備の処遇について考えるか。
今回の戦利品は課金装備「神刀 鳳凰炎舞」とガチャ限定レア装備「聖銀の指輪」、そして狩り中に貰ったいくつかのレアな消費アイテムいくつかと装備一式。
まず「神刀 鳳凰炎舞」は、火属性で剣士職系且つレベル75以上で装備可能となる課金装備。
✝クリス✝くんの言う通り5000PGという金額に見合う破格の威力を持っているが……。
「本垢はもっと強い装備持ってるんだよなぁ……」
レベル75帯装備にしては強いってだけだ。レベル125帯無課金装備と比べても力不足感は否めない。
まぁ、勿体ないから倉庫にでも入れておこう。サブ垢のアリーシャに装備させるのも手だが、課金装備を手にしている女キャラなんて男キャラを疑われそうだからやめておく。
そして✝クリス✝くんから貰ったもう1つの装備「聖銀の指輪」だが、これはなかなか便利だった。
魔法防御力上昇、全状態異常無効、HP自然微回復。
素晴らしい能力だ。さっそく本垢にそれらの装備を渡して、装備させるとしよう。
ちなみにこの「聖銀の指輪」の説明文が独特だった。曰く、
『フリューリング地方でしか産出しない希少鉱石「聖銀」に魔法付与させたアイテム。フリューリング地方では「聖銀製の指輪」を愛する者に渡して求婚する風習があるらしい』
である。
……うん、もはや何も言うまい。ありがたく使うけど。
倉庫の肥やしになりそうだった「神刀 鳳凰炎舞」は、課金装備特有の見た目の格好良さ、エフェクトの格好よさを併せ持っていた。
スクショ映えするから時々装備させて遊ぼう。
「って、もう寝る時間か」
モブ狩り的にも男狩り的にも収穫の良い日だったためか、結構な時間まで起きてしまったようだ。
夜はこれからだと張り切るプレイヤーもいるようだが、今日はやめておこう。
さて、アリーシャちゃんに貢いでくれた✝クリス✝くん(笑)に思いを馳せながら風呂入って寝るとしようか。
もっとも、思い出し笑いで眠れなくなりそうだが。