19: これからどうしよう
「アリーシャ、今日の御予定は?」
「……どうしような」
宿での朝ご飯。
ビュッフェ形式? と言えばいいのだろうか、そんな形式の朝ご飯である。
高い金払った甲斐あって、なかなか美味である。
「始まりの町ですしチュートリアルは終えましたし、順当に狩りにでも出かけます?」
ユミルは、固い黒パンをナイフで半分に切りつつそんなことを言う。
ナイフを手に「狩り」という単語が出てくると、妙に威圧感がある。
「ストーリーを進めるって手もあるよな」
「いえ、ゲームではありませんよ?」
「いや、ゲームだろ……」
レベルとかそういうシステムがあるんだ。ゲームでいい。
「PCOで最初にやったことってなんだっけなぁ……」
ユミルが気を利かせて切ってくれたパンにバターを塗りつつ、今後の予定を考える。
いや、ていうかパンくらい俺が切るって。そこまで良妻賢母しなくていいから。
「課金じゃないですか?」
「最初から課金やる奴いんのかよ」
「えっ?」
「えっ?」
なにこれ、こわい。
「まぁ、狩りを進めると同時にストーリーが進む感じじゃないですか? ほら、クエストカウンターに行ってストーリークエスト受注して……」
「やっぱりゲームじゃないか」
「あ、そうですね」
まぁ、だいたいの方針は固まったか。カウンターに行ってクエスト受注、と。
「で、そのカウンターはどこにあるんだ?」
「……たぶん、あそこに」
そう言って、ユミルが手に持っていたフォークで差した先にあるのは、元ビギニングポリス行政府にして現ギルド「ウルティマ」本部であった。
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ギルド『ウルティマ』外注クエストカウンター。
それが、クエスト受注受付場所の名前だった。行政府時代は単なるクエストカウンターだったらしいのだが……まぁ、そういうことだ。
「『ウルティマ』加入者以外の、外からやってきた冒険者たちがクエストを受けたい場合はこちらで受け付けております。えーっと、お2人はクエストを受けたことは……」
「ありません」
「畏まりました。では冒険者登録から始めましょう」
という、PCO時代からある「冒険者登録」というチュートリアルが始まる。説明が長い割にはわかりにくくぶっちゃけ攻略Wikiを見た方が速いというアレだ。
俺もチュートリアルは適当に済ませるタイプだから、全然覚えてない。やってるうちに慣れるタイプ。
でも、これをやらないとストーリーが進まないし、特別報酬品が序盤で役に立つアイテムということもあってやらないわけにはいかない。
というわけで、そんな拷問に付き合っていくわけにはいかないので要約しよう。
冒険者ランクがあるよ!
最初は「新人」からだね!
その後順番に、「初級者」「中級者」「上級者」「達人」と上がっていくよ!
ランクに応じたクエストを受けられるよ! 当然難易度や報酬も上がるよ!
クエストは討伐系と採取系と輸送系があるよ!
失敗したら報酬の10分の1から2分の1の違約金を払ってもらうからね!
じゃあこの水晶に手を当ててみよう! 冒険者の力量が図れてかつ個人登録ができる優れものなんだ!
すごい! 君達はもう上級者なんだ! じゃあ冒険者カードにそう書いておくね!
はい、これが冒険者カードさ! 再発行は手数料かかるからなくさないでね!
終わり!
……うん。
長々と聞いた割にランクのくだりいらなかったな。それにこの内容を十数分聞くのはやはり拷問に近い。
受付の人が金髪兎耳ちゃんじゃなかったらグーで殴ってた。
「では、なんのクエストを受けますか?」
「討伐で簡単なの」
「……じゃあ、こちらでどうでしょうか」
そう言って兎耳ちゃんが提案してくれたのが、以下のようなクエスト。
『【緊急】ガリアゴブリンの討伐
Rank: 上級者
達成条件:本日中にガリアゴブリンを10体以上討伐する
失敗条件:本日中に討伐できなかった
報酬:55000PS
上級者用片手剣 』
「……簡単なんですの、これ?」
「どう考えても簡単じゃないような」
俺の知る「ガリアゴブリン」はそこそこ強かった。
ステータス云々ではなく、ゴブリン系は大抵群れるから数の暴力が凄まじいのである。
1対3くらいなら余裕で倒せるが、10体で群れることなんてザラにある。だれかがトレインしてるんじゃないかと疑うくらいには群れる。
そしてそれを本日中に討伐?
無理無理。冒険者なり立て1日目の俺らにそんなこと。
「ストーリークエストとかないの?」
「はい? なんですかそれ?」
ないんかい。
「……違約金のこと考えると無理もできんな」
「しかし、これ以上簡単な上級者クエストは『ウルティマ』の方に優先的に案内するので……」
「うわー……」
さすが独裁ギルド。外注に厳しい。
「何もしない、っていうのもなんですわ。受けてみましょう。幸い、私たちは財布に余裕がありますし」
「はぁ、そうだな……。これもチュートリアルの一環か」
なんていうか、冒険とかそんなのいいから静かに暮らしたいもんだわ。




