12: 新・始まりの町無双
「課金装備の神刀使っちゃうと殺しかねないから、今回は素手でいくとしますかね!」
なにせ30人そこそこいる奴ら全員が軒並み10台で、そんな相手に5分の4殺し縛りをしなければならないのだ。
しかしそれはそれでゲーム的な面白さはある。ようは殺さず気絶させるだけでいいのだ。
「というわけで、まずは1人目!」
まず最初にノックダウンしたのは、絶対にモテなさそうな顔の不良Aくん。
えぐりこむように鳩尾一発で簡単にダウンだ。
「っと、程々に弱そうな武器持ってるね。ちょっと借りるよ」
というわけで不良Aくんの腰から、果物ナイフのようなちっこい武器を拝借。
装備する手間が億劫だから、このまま手持ちで戦うとしよう。
一番槍で突撃した不良Aが瞬殺されたのを見たギャングたちは、
「兄貴!」「くそっ、仇討つぞ!」「こうなったら殺してからやってやる!」
と、意気揚々。
考えなしに3人くらい剣を構えつつ突撃をかましてくる。やれやれ。
「乱戦で長物とか、チュートリアルやり直せ!」
まさに無用の長物!
3人が密集して突撃すれば剣を自由に振り回す空間的余裕がなくなる。
一度軽く回避してしまえば、俺を剣で対処することは不可能!
「病院で3人仲良く反省会でもしてな!」
不良Aから借りたナイフを、俺から見て一番左にいた奴の右腕に突き刺す。
その瞬間、そいつの手から剣が落ち、それを地面に落ちる前に拾って中央にいた奴の鳩尾を柄で思い切り殴り飛ばす。
そしてその勢いのまま、一番右にいた奴を剣で横一閃。
……を、数秒の間にやってみた。
「グアッ!」「ガフッ!」「ギャアアッ!」
3バカの短い悲鳴が小気味よく連なる。
こいつらレベルが元から低いせいで、これだけでHPの半分以上を喪失している。
しかし、頭の中でハリウッドアクションみたいなイメージをするだけで身体がその通りに動くって本当便利な機能だ。
あとでユミルに感謝しておこう。
「これで4人」
一瞬で4人を戦闘不能にしたせいか、ギャング集団は面白いくらいにたじろいでいる。
でもリーダーっぽいやつが「やっちまえー! 数で押しつぶせー!」と言っているせいで引けるに引けないような状況になっている。
いやいや、無茶ぶり上司を持つのは辛いだろうね諸君。手加減してあげないけど。
剣を構え、脳内でイメージ。
囲まれていて、そしてユミルも近くにいない状況で、敵を半殺しにするのに最適な剣技は――。
「――『サークルエッジ』!」
そう叫ぶと同時に、俺は左足を軸に360度、円状に周囲のチンピラたちに斬りつけた。
PCO時代、割と重宝した初級剣技。
ただしレベル差が60以上あるから、威力は段違いだ。
全部まとめて10人、いただきました。
ふふふ。ユミルの金で食えるディナーを想像しただけで涎が出る。唇を湿らせておかんとな。
「この女……!」
「おい、これはどういうことだ!」
「あんな鋭い『サークルエッジ』見たことねぇぞ!」
ふむ。さすがに初級剣技たる「サークルエッジ」は彼らも知っていたか。
「あんたらが弱すぎるんだよ」
レベル75になってから出直してきな!
さすがに同時に斬りつけた人数が多かっただけに、彼らはだいぶビビっていた。
何人か応援を呼んでいるようだが――焼け石に水だろうな。
「あらアリーシャ。返り血がひどいですわよ?」
そして気づけば、ユミルが再び傍に近寄ってきた。
ただし敵に囲まれている状況下なので、今回は背中合わせの構図。
「近接戦してるから仕方ないよ」
「あぁ、折角買った装備が汚い男共の血に……。でもそんな姿のアリーシャもまた戦女神のようで素敵ですわ……」
この状況下でもそんなこと言えるということは、相当余裕なのかな?
「ユミルは何人倒した?」
「10人です」
「俺は14人。どうやら、今日はユミルの奢りだな」
俺がそう伝えると、癪に障ったのかユミルは持っていた聖書を開いた。
彼女が何事かを呟いた後、
「――Absorb!」
彼女がそう唱えた瞬間、ユミルの目の前にいたチンピラ数人の影が突然立体的に動き出し、彼らを地面に引き摺り込もうとしているではないか。
「な、なんだこれは――!」
「た、助けてくれ! 影が! 影がぁああああ!!」
状況を掴めないまま、連中はずるずると地面に埋まり始め、そして、
「Release!」
ユミルが指を鳴らしてそう唱えると、影は影に戻った。
影によって地面に飲み込まれそうになっていたチンピラ数人は、肩から下が土に埋まったままだが。
「これで16人、ですわ」
ユミルは、負けず嫌いな上に趣味が悪い魔法を使う。
……しかしこれで、見えている敵の数がだいぶ減った。
俺とユミル合わせて30人が戦闘不能なのだから、当然だ。
「残りは、ひー、ふー……5人か」
「私が2人を行動不能にさせれば、私の勝ちが確定ですわね」
「むむ」
それはまずい。
広範囲遠距離攻撃が得意な魔術士相手に先手を打たないと勝てないではないか。
しかも残った連中はもう殆どが腰を抜かすか逃げようとしているかである。
これはもう無理かな。そう思ったその時である。
「いや、今日は私が、お嬢様方に奢らせていただく」
逃げ腰になっていたチンピラの背後から、恰幅の良いオッサンがそう言いながら現れたのである。




