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Specters in Myself  作者: 九重稲穂
第一章 Specters
9/9

<9>見えない誰か

 三人が階段を一段一段踏み締めながら上っていく。三人の顔には緊張と不快の色が色濃く出ていた。


 それもそのはず。階段そのものはもちろん、周囲の壁や天井に至るまで、女性を象徴するマークがずたずたに傷つけられていたり、女性を卑下する言葉がこれでもかとそこら中に書き殴られていたのだから。


 これにはそれぞれ多少の違いはあれど、あまりの不快感に思わず呻き声を上げてしまう。



「うへぇ…………」


「……いやぁ……こりゃあ、想像以上ですなぁ。確かに強めの女難の相がありそうな経歴だったけどさぁ……」


「ここまでくると、恨みって言うより妄執とか執着の方がしっくりくるわね。気持ち悪いったらありゃしない」



 光が差し込まないため薄暗く、不快感が形を成した吐き溜まりような中を進むと扉が見えてくる。扉は周囲とは違って何も手を加えられておらず、周りの壁と比べると綺麗でそれが扉自体を周囲の雰囲気から浮き彫りにさせていた。


 香那は一歩前に出て扉に手をかけ、様子を伺うようにゆっくりと扉を開ける。罠の類はなかったようで三人は扉の奥に入っていく。


 中は雑然としていた。 外された扉や窓枠、切り傷のようなものが付いている壁と砕けた破片、踏み砕かれたような木箱、工事に使うであろう工具など、様々なものが部屋に散らばり、窓であった場所から差し込む月明かりに照らされている。


 静まり返っている部屋に香那、北斗、渚の足音が響く。三人が出す音以外で聞こえるのは電車の音くらいで本当にここに件の痴漢男がいるのかと渚が不安に思い、携帯を取りだそうと動こうとすると部屋の暗がりからぐびり、ぐびりと何者かの喉が鳴った。音の主は持っている瓶の中身を一気に飲み干した。



「…………やぁ、お嬢ちゃんたち」



 空になった瓶を適当に放り投げながら影の中から一人の男が出てくる。所々服が破けていたり、汚れてはいるが、紛れも無い香那と北斗が捕まえた痴漢男、柳田涼介だった。


 ただ、顔には以前見たときよりも不快感の増した下卑たニヤケ顔があった。小さく「ヒエッ」と悲鳴を上げた渚が北斗の後ろに隠れるのを横目に見ながら柳田は口を止めない。


「いやぁ、会いたかったよ。明日君達を探す気だったんだけど、君達の方から会いに来てくれるなんてね。ありがたいことだよ」


 香那は万が一のとき自分の攻撃が届くようにジリジリと柳田との距離を徐々に詰めていく。柳田はそんなことを気にも止めていないかのようにそのまま話続ける。



「こっちは会いたかなかったよ。クソ野郎」


「酷いなぁ。僕は君達に感謝を伝えたいだけなのに」


「感謝?」



 思わぬ柳田の言葉に多少戸惑いながらも距離を詰め、得意の飛び蹴りの射程範囲に柳田を収めた。北斗と渚も徐々に柳田の左側に回り込むように動くがそれも気に止めず、彼は虚空に向かって口を動かす。


「そうだ。感謝。お礼だよ。君達のおかげで目が覚めたんだ」


「感謝してくれてるなら話が早い。さっさと病院に戻ってくれ。そんで警察に話を 「あぁ、本当になんでこんな簡単なことにも気付かなかったんだろう!答えはこんなにも近くにあったというのに!」


 自分の言葉に被せるように声を張る柳田に苛立ちながら必殺の一撃を決めるために香那は足に力を

込める。



「おい、話をちゃんt………」



 「話をちゃんと聞け」と口に出すより前に彼は自分を抱きしめるような体勢になりながら香那をその濁った目で見据え──────


 




「───だよなぁ。相棒ぉ?」


 柳田は己を抱きしめていた腕を香那に向けて振るった。香那の目には何も起きていないように見えたが猛烈な勢いで迫る『何か』の気配を感じ、彼女は咄嗟に横に飛んだ。すると先程まで香那がいた場所を『何か』は ギャリギャリと不快な音をたてながら通過して壁に激突した。


 香那は受け身を取りながら自分のいた場所を見ると床や壁が傷だらけになり、バツ印状の傷が壁を穿っていた。咄嗟に飛んでいなければ彼女自身に刻み込まれたであろう暴威の爪痕に冷や汗を流しながら暴威を発した柳田を睨みつける。



「おいおい、感謝だなんだと言う割にはずいぶんと手荒い歓迎の仕方だなぁ、おっさん」


「僕なりの感謝だよ。間違った道を進む君達のような若者を正しく導く。それが大人である僕の役目。そうだろう?」



 柳田は香那たちへ向けて言葉を発しながら、またも彼女たちがいない虚空へと視線を向ける。まるで傍らにいる誰かに確認を取るように。香那に徐々にいら立ちが募っていく。



「さっきから誰に話しかけてんだ、おっさん。痴漢だけじゃ飽き足らず、ヤクにまで手を出してんのか?」



 思わずそう問いかけると心底気分を害されたと言わんばかりの表情を浮かべ、香那の目を見据えた。そしてまたも虚空に視線を移し、二、三度頷くとニヤケた顔に戻り、視線を香那へと向けた。



「そうかそうかそうだった!君たちには見えないんだったね」


「何のことだ」


「僕の相棒さ。僕の中にいた僕だけの大切な相棒。まさに一心同体!」



 両手を広げ、男は笑う。さも、新しいおもちゃを手に入れてはしゃぐ子供のように。



「さあ、楽しい楽しい『お遊び』の時間だ。準備はいいかい、お嬢さん方」

忙しくて書き溜めてる分のまとめが追い付かないという・・・今しばらくお持ち下さいまし(- -;)

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