<8>所謂一つの『正義』
廃ビルの中は月明かりのあった外より薄暗い。ガラスの割れた窓から入る光も一部の窓以外は板が打ち付けられていてほとんど入ってこない。ただ、中に入った途端にわかることがあった。正面入り口側の階段、微弱な光ながらも階段で繋がっている二階から光が漏れているのである。これには一同呆れ顔であった。
「……舐めてんのか?まさか『工事現場の担当者が作業用のライトを消し忘れた』とかと勘違いするとでも思ってんの?」
「ホントにそうならどっかの誰かさんより考え無しよねぇ……」
「いやいや、さすがにないでしょー。んー……あえて深読みするなら『追っ手を倒す算段がついている』か、『好奇心で近付いてきた人間を殺してスッキリ』ってとこだろうけどどうなんだろ。捕まえた時の話と病室の惨状見る限り、そんなに冷静な判断で動いてると思えないんだよね。だからどっちかといえば後者のほうが有力?」
そんな会話をすることが煩わしくなったのか、香那は階段へと歩み寄る。それを慌てながらも音を立てないように二人が続く。階段を上がった先には電気式のランプがぽつんと置かれているだけで、左右にいくつか部屋のある廊下、変わったところは見られない。首をかしげながら部屋の中を調べていくが二階に男はいなかった。
「んー?待ち伏せもなければ罠もなし?じゃああとは三階?やっぱ何も考えてないのが正解?」
渚はうんうん唸りながらこの状況を整理していたが、香那と北斗は彼女では結論にたどり着かないと感じ、肩に手を置いてそれを止めた。
「カナっち?ホクッちゃん?」
「ナギ、たぶん考えてないんじゃないぞ」
「渚、私もこれに関しては香那に同感」
「どういうこと?」
「部屋に切ったみたいな跡がある部屋、あったでしょ?あとは例の気持ち悪い部屋」
彼女の言う通り、二階の部屋のいくつかの床や壁に大小様々な切り傷のようなものがあった。先程、二階を調べ終えたときに渚は一階を調べたところ、最初は気付かなかったが一階にも傷跡が所々に見受けられた。どの傷跡も乱雑で法則も特にない。強いて言うならば二階より上に向かうときに目に入りやすい位置に傷跡が多く見受けられるくらい……と、ここまで考えて渚はハッとした。
「……意図的に傷跡を見せてる?」
「たぶんね」
「『新しいおもちゃを見せびらかす』みたいにな。それに」
香那は二人を連れて一階に下り、自分たちが通ってきた廊下横の一室を「この辺か?」と呟きながら開く。中はおびただしい数の壊れたマネキンが一階の一室にバラバラにされた状態で詰め込まれていた。特質すべきは見たところ全てが女性型のマネキンであるということだろうか。
「ヒャッ」
「…………ここまでとは、ね」
「アイツ、確証はないけど私らが来るのを待ってるんだ。そんな気がする。んで、アイツは私らに見せつけたいんだよ、新しい『おもちゃ』が凄いってところをさ」────────────────────
─────────────────────廃ビルの三階。広めのフロアの奥の壁際にあるボロボロなソファーに深く腰掛けた男、柳田涼介はどこかから持ってきたワインを瓶のまま飲んでいた。
来たみたいだね、あの子達。歓迎の印も気に入ってくれたみたいだ。準備しておいたかいがあったね。こっちに来てくれるみたいだし、万々歳だ。
「あぁ。俺を馬鹿にしやがったあの馬鹿なメスガキどもを殺そう。それでやっと俺は前に進める。そんな気がするんだ。お前もそう思うだろ?」
そうだね。女は男にこうべを垂れてかしづくもの。男に楯突く女は粛清しなきゃ。僕たちの『正義』は揺るがないよ
「『正義』か……いい響きだ」
これからは君が、君自身が『正義』だ。自分が正しいと勘違いする馬鹿な女どもも、君という『正義』を馬鹿にするやつも全て殺そう。それを手助けするのが僕の役目であり、それが僕たちの悲願。そうだろう?
柳田は傍らに置かれたカバンをひっくり返す。中から出てきたのは女性を象徴するマークの上からバツ印を書きなぐった紙の束と大量の女性の写真。それをかき集めて天に向けて放り投げる。降り注ぐ『恨み』の中で右腕を振るう。それだけで『恨み』は細切れに切り裂かれた。
「その通りだ。俺の、俺たちの『正義』を執行しようじゃないか」
彼の口角が自然と吊り上がっていく。その目はかつて教師を夢見ていた頃の彼とは異なるギラギラとした光が灯っていた。
最後の辺りはわりと書く前から決まってたけど前半がなぁ……もうちょい良いのが浮かんだら書き直すかもしれません(;─ω─)
やっと次辺りから戦闘に入れそうカナー……?