<7>廃ビル
ちょいと息抜きに更新
冬休み入ったらまとめて書く予定
ずんずんと前進する香那、手のかかる悪友を見失わないようにしながら周囲を警戒する北斗、いつもの調子で虚勢を張りながらも北斗の服のすそを掴む渚の三人は暗い路地の中を進んでいく。この辺りは今にも崩れそうなほど古い建物が多いが、駅に近いこともあって住みたい人間がそれなりにいた。そのため、この辺りの古すぎて使えない建物を壊して新しくマンションやアパートを建てる計画があり、住んでいる人にも希望者には別の場所に転居するためのアパートをあてがっていることもあって表通りに面している家の数件以外は人が住んでいないので明かりが少なく、特に薄暗く感じる。
「んで?相手はどこにいるんだ?どうせナギのことだから補足してるか目星つけてあるんでしょ?」
香那は歩みを止めずに後ろについてきた渚に問いかけた。渚は「バレてましたか、そうですか」とぶつくさ言いながら制服のポケットから携帯を取り出して操作する
「『お友達』情報網によると顔合わせしちゃった場所の周辺で被害報告がないとこからみて隠れてるは間違いないね。近辺で住人がいないこと、解体工事が始まっていないこと、あと隠れやすさと移動のしやすさを考えると十中八九、一番奥にある廃ビルの中かな」
「路地ってこのまま進めばいいの?」
「えーっと、まっすぐ行って突き当りを右、あとはまっすぐ。一応どっかから私たちを見てることも考えて曲がる前に周囲をよく見てからのがいいかも。路地だけじゃなくてその辺りは屋根に上れるとこもあるみたいだから屋根の方も確認ね」
さっきまでおびえていた人間とは思えないほど饒舌に男の居場所をすらすらと話す渚を見て北斗は自分の中だけで情報を整理していたのが馬鹿らしくなった。
「(最初から『軍師役』はこの子に任せた方がいいわね。余計なこと考えてると香那に手が回せなくなるし、丸投げするのがよさそう)」
そう結論付けて北斗は少し気が楽になった。元々彼女はどちらかといえば前を歩く手のかかる友人と同じく、というほどではないが頭脳労働はそれほど得意ではないのだ。
「相変わらずわけがわけがわからないわよね、あんたの『お友達』情報網ってやつは。今回もそうだけど欲しい情報そのものピタリ何だもの。いったいどんな集まりなのよ」
「秘匿事項によりお話しできませぬ。まぁ、有効活用できるし、こっちには無害ってことだけは確かだからご心配なく。あ、それはそれとして、この間ホクっちゃんが探してた小説、ちょっち距離あるけど隣町の古本屋にあるみたいよ。数日中に買いに来るなら取り置きしてくれるらしいけど今近場にいる『お友達』に頼んどく?」
「……ホント何でもござれ、ね。まぁ……お願いするわ。あとでそこの場所、メールしといて」
「あいあいさー。お、あっちからも依頼が……んー、出す分には問題ないけどこれはジョーカーとして取っておきたいんだよなぁ……」
渚は自分の言いたいことだけ伝えると自分の世界に入り込んでしまった。彼女もただ漠然とついていくより、いつもの調子でいた方が楽なのに気づいたのであろう。それから約5分後、一行は廃ビルの前へと到着した。廃ビルの前、路地から来たので正しくは裏側なのだが、そこは少し開けた空地になっていて廃材が塀の傍に積み上げられている。廃ビルはところどころひび割れており、触れたら崩れるのではないか、そんな不安を感じるたたずまいだ。北斗と渚は思わず息を飲んだ。
「さてさて、『お片付け』の時間だ」
香那は友人たちの心配や不安もよそに意気揚々と廃ビルの中へと足を進めた。