<6>境界線
久々の更新。ちょっとずつでも更新頑張るぞい
その日の夕方、空が夜の闇に染まり始める頃に三人娘は件の駅へとやってきた。駅の通りは駅自体がそこそこ大きいことや時間帯のせいもあって様々な人々が歩いている。片手に買い物袋を持ち、もう片方の手で子供の手を引く母親、駅地下で買ったケーキの箱を片手に小走り気味に家へと急いでいるスーツ姿の男性、楽しそうに談笑しながら歩く学生たち。その中を流れに逆らいながら神妙な面持ちで三人は進んでいく。
人込みを奥へと進むたびに人通りが少なくなっていく。駅の裏通りは居酒屋や『いかにも』な装いの店が立ち並んでおり、客引きの声が響き、それなりに活気が感じられる。居酒屋へ入っていくスーツ姿の男たちやすでに赤ら顔の男性が客引きに捕まっていたりと表通りとは違うが少なくはない数の人々が『日常』を送っている。そんな場所のすぐそばに『日常』をそのままの意味で壊しかねないものが潜んでいると思うと彼女たちは背筋に冷たいものが走った。
渚の案内で写真が撮られた路地の入口の前に到着した。薄暗い路地が周囲の明るさと相まってまるで別の世界の入口のようにも見え、三人は息をのんだ。
「……ここまで来といてなんだけど、やっぱ警察に任せません?ほら、昨日はヤッコさんが油断してたのもなかったわけじゃないでしょうし、ね?」
「これは『ゴミ掃除』の一環。後片付けくらい子供でもできる」
「……わかったヨ」
一呼吸を置き、覚悟を決めて路地に入ろうとした渚を香那が腕を使って制した。
「渚。あんたは待機でもいいよ」
「え、でも」
「人数がいても狭い路地じゃやりにくいし、そもそもあんたは前衛向きじゃないでしょ。いいから任せておいて。まぁ、来るなら止めないけどね」
それだけ言って香那はずんずんと路地の中へずんずんと入って行ってしまった。立ち止まった渚の肩に手を置いて北斗が耳打ちする。
「待機するなら、悪いけど三十分経って戻らなかったら警察呼んでちょうだい」
「北斗……でもさぁ」
「ああなったらあの子は止まらない。何言ってもね」
「…………」
「安心なさい。危なくなったらあのバカふんじばってでも逃げるから。あんたが用意した路地裏マップもあることだし、うまくやるわよ」
渚の返答を待たず、北斗も香那を追って路地の闇へと飲み込まれるように消えていった。その場にただ一人立ち止まってしまった渚はウンウンと唸った後、頭をかきむしり、ポケットから携帯電話を取り出して電話をかけた。画面には『おじさま』の文字。
「(あー、もう後悔するくらいなら教えなきゃいいのになぁ、ホント私ってバカ!)」
結局電話の電源が切れていたらしい相手に留守電を残した。こうしておけば彼はすっ飛んでくるだろう。渚は自分の頬を両手で叩いて気合を入れなおし、悪友たちの後を追うために路地の闇の中へ飛び込んでいった。