<4>内から出る声
おかしいなぁ。まだ4ページしかいてないけどギャグもおふざけも欠片ほどもないぞ……?
何故こんな目に合わねばならないのか、柳田涼介<やなぎだ りょうすけ>は見慣れぬ白い天井を眺めながらそう思った。
彼がいるのは病院の一室。個室のようで他には誰もおらず、ただただ無機質な空間が広がり、窓から夕日が差し込んでいる。彼がここにいるのは頭を強打され、気絶していたからである。気絶してから一、二時間で目が覚めており、本来ならちょっと『お話し』をして身体に異常がないか検査を受けた後に退院できるはずだったのだが、目が覚めた時にひと暴れして『お話し』をしに来た警察の人間に軽いケガをさせ、させられてしまったせいで夕暮れ時の今もこの病室から離れられないのだ。
彼はごく一般的な家庭で生まれ、ごく普通に生き、一流の大学に入って勉学に励んだ。親しい友人や気立てがよい美人な彼女に囲まれ、卒業後は長年の夢だった教鞭を取ることなり、彼の人生は彼自身でも順風満帆であると言っていいと思っていた。だが、彼の人生は教師として最初の赴任先、お嬢様学校として有名な私立白百合女子高等学校に赴任したところから綻び、崩れていった。
今まで彼は優秀だった。自分に知識を与えてくれた恩師たちも「君のような優秀な生徒は初めてだ」と太鼓判を押してくれたほどだった。だから彼は全力で初めての赴任先で教鞭をとり、学生時代に吹奏楽部だったことで吹奏楽部の顧問に任命されてからは部活動でも熱意をもって生徒に向き合ったつもりだった。
話は変わるが私立白百合女子高等学校は伝統と歴史あるお嬢様学校だ。文化部運動部共に実力は折り紙付き、学校に評判自体もよく有名企業や政治家にもここの卒業生がいる。白百合女子高等学校、略して白女の生徒はそのことに対してプライドを持っていたし、在籍している自分自身を誇りに思っていた。
そんな学校にポッと出の若造が現れた。そこらの学生とは違う自分たちに対して指導する立場にいる気でいる。彼女たちはそれが面白くなく、腹立たしかった。後は誰でも想像がつくことだろう。彼を無視し、触れればセクハラだと騒ぎ、根も葉もないうわさを流す。彼はだんだんとくたびれていったが、きっと今に彼女たちも分かってくれると信じ、努力を重ねていった。だが、綻びはそんなところでは留まらず、大きくなっていく。彼女が浮気をしていたのだ。学校から疲弊しながら帰ると男と寝ているところに遭遇してしまったのだ。男は親しかった友人の一人だった。
それから彼は女という生き物が信じられなくなり、彼女と別れ、学校をやめ、教師であることも辞め、人となるべく会わないように暮らすようになった。そんな日々の中で恨み辛みは徐々に溜まり、そしてその欲求はいつの間にか女性に対する支配欲へと変わっていった。結果的に痴漢という形で女性に対する支配欲を満たすことで事なきを得る、そんな生活を続けたこともあってか女は男より弱く、男に付き従い、裏切ることなど決してあってはならない、そう強く考えるようになった。
「(くそ……いつもそうだ。女が俺の人生を壊す。人生に傷をつける。俺が一体何をしたっていうんだよ)」
身内からあふれ出しそうな憎しみは黒いどろどろとした塊になっていく。憎しみに口が歪み、切れた唇から血が流れた。
もういいんじゃない?壊しちゃおうよ。気に食わないもの全部さ
声が聞こえた。体の内側から聞こえた声。彼の口元は引き裂かんばかりの笑みを浮かべていた───────────────
窓ガラスが割れる音を聞きつけて出入り口に立っていた警官が入ってきた。そこには人の姿はなく、切り裂かれたようにボロボロの病室に割られた窓から入る春先のまだ冷たい風がボロボロのカーテンをゆらし、差し込んでくる夕日でカーテンが不気味な影を落としているのみだった。
ヒャッハー!もう(展開を進めるのを)待ってられねぇぜぇ!
※「今ここで書かない方が盛り上がるかも?」って思う展開を削ったら案外展開進みましたわ