第0話 少女が背負わされた呪い
注意:この小説にはキーワードにもありますとおり、R-15(作者基準)、残酷描写(作者基準)及び開幕鬱展開(確実)がございます。
作品の核心にも関わりのある部分に該当しますが、それらの要素が苦手な方はご注意ください。
▼
▼
▼
▼
▼
それでは、本編をお楽しみください。
鏑木あずさは前世に勇者という肩書を持っていた人物であり、遥かに遠い前世で魔王を倒した際に受けた呪いから、前世の記憶と経験、能力を受け継いだ少女である。
ネット小説などで前世の記憶やら経験やらを受け継いでの転生というのは、本人にとって、大いにプラス補正となることが多い傾向にある。
しかし、あずさにとってしてみれば、それははっきりと『否』と言えるほどにマイナス方向に働いていた。
先ほども触れたように、あずさが前世の記憶を受け継いだのは、魔王という絶対悪の存在から受けた、絶対の呪いだ。いい方向に働くわけがない。
あずさの前世に倒された魔王は、その死に際に意味ありげなことを口走って死んでいった。
その言葉は、幾度もの転生を繰り返し、すでに精神的には三〇〇を超えた今でもまだ鮮明に思い出せる。魔王の呪い、あってのことであるが。
『勇者よ、貴様は生きよ、死んでも生きよ、永久に生きよ。その呪いは貴様を逃さない、離さない。たとえ貴様の魂が磨り減ろうとも、その呪いは貴様を許さぬ。生き続けて我が怨嗟の声を永久に聞き続けるがよい』
その呪いは、受けた当初こそは何もないじゃないか、と楽観視していた。
しかし、いざ死ぬときになり、その運命を受け入れたかと思えば、別の世界で、別の人間として産声を上げていた。
それ以降は、まさに地獄であった。
奴隷が身ごもった子として転生したときはまだマシだった。その世界では奴隷の子供は奴隷として扱われる世界であったが、人であるだけまだましだった。
人に害しか及ぼさない害虫に生まれたこともあった。かつて勇者として人を救った自分が、今度は人を襲わなければならない。それも、とてつもなくおぞましい姿の害虫として。『あずさ』としてその時のことを夢という形で見ることもあり、その記憶は耐えられるものではなかった。
愛玩動物として生まれた時もあった。買われたのが暴力的な飼い主だったために、理不尽な体罰など幾度となく受け続けた。
そのどれもが、魔王の怨嗟の声で、復讐の手段だった。
魔王の呪いは勇者を許さないし、逃さない。勇者が幾度目かの転生を迎え、今生――あずさとなった今だって、どうなることかわからない。
今はまだ、資産家の家系に生まれつつも欲を出さず、それなりに幸せな人生を送れてはいるが……その精神は、度重なる心労から、すでにかなりすり減ってきていた。
それまでに経験してきた物事のどれかが、高確率で悪夢となって睡眠中に再生される。
彼女には、この『現代日本』という平穏な世界、平穏な国に生まれてなお、安らぎというものを持つことは許されていなかった。
本日もまた、もう数えるのもおっくうになるくらい繰り返した、最悪の目覚めを経験する。
――今日見た悪夢はなんだっただろう。なんだっていい、無事に朝を迎えられたなら。
基本、前世から受け継ぐのは能力と経験、記憶、思考傾向。それ以外はすべて、転生するごとに違う精神を『彼女たち』は持ってきた。
今代の『彼女』も、そういった部分を除いては、きわめて少女らしい精神の持ち主ではある。
しかしながら、魔王の呪いが、勇者としての経験が、かたくなにそれを拒んでいるのもまた事実である。
なぜなら。ひとたびその幸せを受け止めれば、いざ『呪い』による運命歪曲で、周囲を巻き込んだ不幸が襲かかってきたときに、その絶望が大きくなってしまうから。
だから『彼女』、あずさは感情をただひたすらに、押し殺していた。
周囲からは常に冷静沈着、つかみどころがなく、きつい性格の持ち主として知られていた。だが、それは彼女の本心でないことは、確かである。
呪いさえなければ、あずさはいたって普通の一少女でしかない。可愛らしいものをこよなく愛し、他者を害することを最も嫌う。本来の彼女は、そんな思想の持ち主なのだから。




