◇かわりに。
キーワード:パーカー・代役・メガネ
正義のヒーローを支える謎の人物。その素顔は明かされていないとはいえ、他人が代わりを務められるわけがないと思うのだ。
「沖縄旅行に行ってくるわ」
そう言ってスーツケース片手に出かけていったあいつのことを俺は恨んでいる。
パーカーを目深にかぶり、飾り物のメガネをかける。
二重の変装をしているが、こんなものが意味をなさないぐらいに僕とあいつは似ても似つかない存在だ。身長は大体同じだとしても、声も、行動も、容姿も、だれがどう見ても他人でしかない。
「こんにっちはー」
言われたままに向かったカフェで見ず知らずの誰かに声を掛けられた。
頭が軽そうな彼はあいつの友人なのだろうか。そんなことを思案しているうちに僕は無視をしていると勘違いされてしまっていたようで、
「無視はやめてよー」
体をゆすられながら言われたそれにさすがに反応を見せないわけにはいかない。
「あ、あぁ」
よくよく考えてみればあいつがどんなキャラでここに居るのか僕は知らないんだ。真面目なお堅い奴かもしれないし、気弱でヘタレな奴かもしれないし、俺様で高慢な奴かもしれない。
ヒントもなしにその性格を予想するのは難しく、僕はやけになって考えるのをやめた。つまりあれだ、フィーリングってやつ。感じるがままにキャラを演じて見る事にしたのだ。
「ごめんごめーん。ちょっと考え事しててさ」
こんな調子で誤魔化せるのだろうか?