第三話~Side 紅刻
紅刻は苛ついていた。
彼は輝音の正体を知っている。付喪神であることを、ではない。神格化され、神社に祀られた神であったことを、だ。
妖の世界は力が絶対である、紅刻にとって都合のいい社会をしていた。
妖の中には、地獄耳や千里眼、過去視など便利な能力持ちが多く、彼女のことを知るのはそれほど難しいことではなった。
プライバシーなど、妖が考えるはずもない。
好きな子のことを知りたいと思うのは人間と同じで、妖はそのための手段を選ぶことをしないし、そうすることに躊躇いも覚えない。
紅刻は輝音のことが好きだ。だかこそ、彼女の関心を奪っている少年のことを彼は許せなかった。
輝音の過去を知ったついでに、少年や少年の家族についても知っている。
彼女を祀っていた神社の宮司の末裔。
それが、彼女にとって特別なのは、見ていれば容易に分かることだった。
「イライラするなぁ……」
誰にともなく呟く。
視線の先には、楽しそうに談笑する輝音と少年がいた。珍しく笑みを刻んで少年を見る彼女の細い首を、力の限り絞めてやりたい。いや、その前に、少年の息の根を止める方が先だろうか。
それを想像すると、自然と口元が緩んでしまう。
わざと押さえていた殺気を分かるように解放すると、少年と別れた輝音がこちらを見上げてきた。
そんな彼女の黒い瞳を、薄い唇に笑みを浮かべながら紅刻は見下ろした。