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第十一話 〜Side 紅刻

わずかに性的な表現を含みますので、お気をつけください。

 彼女の気配が遠ざかったのを確認して、彼は身体を起こした。

 輝音(かぐね)のひんやりとした指の感触がまだ唇に残っている。それを自分の指でなぞり、紅刻(あかとき)は笑みを浮かべた。だが、それは喜びではなく、自嘲。

 ようやく、彼女に触れて思うままに抱いたというのに、彼の心は満たされなかった。それどころか、虚無感ばかりが募る。

 その理由は分かっていた。

 あのとき、輝音は一度も自分の愛に応えてくれなかった。

 彼女は一度も、自分の名を呼んではくれなかった。

 輝音はまだ、自分を受け入れてくれていない。

 足りなかった。身体を手に入れても、全く満足できない。

 あの声で、細い腕で、心から求めて、苦しいまでに想い焦がれてくれなければ。

 そんな彼女を想像すると、胸が弾んだ。ゾクゾクと狂った快感が胸を過る。

 目を閉じれば鮮明に思い出せる。覆い被さる自分の下で乱れる、彼女の姿を。潤んだ瞳は、けれど強い光を湛えたままで。それが余計に紅刻を興奮させた。

 あぁ、あの瞳が欲しい。

 あの、折れることのない心が欲しい。

 あの弱い身体が欲しい。

 夜と同じ色をした長い髪に触れて、細い身体を抱きしめて、この腕の中に閉じ込めて、めちゃくちゃに暴いて、泣かせて、オレで頭をいっぱいにして、他の何も考えられなくしてしまいたい。

 でもきっと、彼女はそれでも光を失わない。

 どうすれば、全てを手に入れられるのだろう。

 しばらく考えて、彼は不意に顔を上げた。

 名案だ。これなら、彼女を手に入れられる。

 口許が自然と笑みを浮かべる。

「逃がさないよ」

 一人で呟いて、彼は浴衣から制服へ着替え、立ち上がった。

 欲しいものは全て手に入れてきた。手段なんて選ぶ必要はない。究極のところ、輝音の気持ちだって関係はなかった。この腕の中に収めてしまえばこちらの勝ち。

 身体を許したところで、輝音の気持ちが自分に傾いていることは知れている。

 もう少しだ。もう少しで全てオレのもの。


 ――――どうして私なの?


 先ほど、紅刻に抱かれながら、(こぼ)すように彼女が呟いたのを思い出した。それに対して、彼は輝音に貪るような口づけで応えたのだ。

「さぁ、何でだろうね?」

 最初の記憶なんて、もう忘れてしまった。

 それを聞きたいのは自分の方だ。

 やがて紅刻の姿は闇に溶けて消えた。


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