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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

怪獣と猛獣使い

 少しだけ昔のあるところにとても腕の良い猛獣使いがおりました。

 猛獣使いにはどんな猛獣も従わせる素晴らしい才能がありました。


 人々が危険だと恐れるどんな生き物も、猛獣使いが鞭を振るい、号令を出し、褒めてやればみな大人しく彼に従うのです。


 そんなある日、猛獣使いの元にこんな願い事が舞い込んで来ました。


「猛獣使い様。猛獣使い様。どうか私たちを救ってください。村の近くにそれはそれは恐ろしい、見たことも無い猛獣が住み着いてしまったのです」


「それは面白い。この猛獣使いに従えられない猛獣はいない。その猛獣も見事手懐けてみせよう」


 猛獣使いはそう言って、その恐ろしい猛獣の元へと足を運びました。

 その堂々たる振る舞いにみな「もうコレで安心だ」と大喜びです。


 して、その猛獣は村の近くの湖畔でようようと歩き回っておりました。

 大きな体は殻のようなものに覆われ、ところどころにゴツゴツした角がでていて、顔も実に凶暴そうです。なるほどこれは人々も怯えるはずでしょう。


 その凶暴そうな生き物を猛獣使いも初めて見ました。ですが猛獣使いは少しも恐ろしいとは思いません。今まで自分が従えてきた猛獣たちとて、危険と恐れられてきた生き物です。それらと渡り合い、従えてきたのだという自負が、彼の自信であり誇りでした。


 猛獣使いがピシリと鞭をならせば、その生き物は猛獣使いを振り返ります。

 猛獣使いは目を逸らさずに言いました。


「おい貴様、そこを動くな」


 そう言われるとその生き物は前のめりにしていた体を後ろにそらせて、じっと猛獣使いを見てきます。


「そうだ、それで良い。お前はどこから来た」


 猛獣使いが尋ねると、その生き物は鋭い爪でガリガリと首の殻を掻きました。


「うんと遠くだ。ここからずっと……日の隠れる方に、ずっとずっと歩いた先だ」


 その生き物は素直に答えました。


「そうか。ではお前はなんという生き物だ」


 猛獣使いが尋ねると、その生き物は長い尻尾をずるりと揺らしました。


「オレ様は、オレ様だ」


 猛獣使いはそうかと頷きました。この生き物は自分がなんであるかを知らないのでしょう。珍しいことではありません。


「お前がここに住み着いたせいで、近くに暮らす人々が迷惑をしている」


 そう言うと、その生き物は不機嫌そうな顔をします。


「オレ様を追い出そうってのか?」


 そう言って鋭い歯を見せつけてきます。ですが猛獣使いは少しも怯みません。


「お前が大人しく言うことに従うなら、俺がお前の住処を用意してやろう」


 働けば食事も出るし、役立てば褒めてやろう。

 猛獣使いがそう言うと、その生き物は少し考えてから「わかった。それならオマエと共に行こう」と猛獣使いに従いました。











 それよりさらに昔のお話。

 とある砂漠にとても恐ろしい怪獣が住みつき、人々はずっとその怪獣に怯えて暮らしておりました。  その事を憂いた王様がなんとか怪獣を倒そうと、悩んだ末にその国で最も美しい、末のお姫様に言いました。


 お前のその美貌があれば怪獣も心を許すかもしれない。怪獣の花嫁となり、怪獣を倒す方法を探りなさい。


 美しいお姫様はそうして恐ろしい怪獣のもとへ嫁ぐことになりました。




「怪獣様、怪獣様」

「なんだ、姫よ」

「怪獣様に嫁ぐためには、どうすればよいのでしょう」

「それでは姫よ、まずは巣を作るのだ。安心して暮らすための巣を作る。場所はお前が決めるのだ。そこへ俺がついていき、そこに二人で巣を作るのだ」




「怪獣様、怪獣様」

「なんだ、姫よ」

「巣を作ったら、どうすればよいのでしょう」

「それでは姫よ、糧を得るのだ。生きてゆくための糧を得る。お前が好きなもので良い。それを共に食べるのだ」




「怪獣様、怪獣様」

「なんだ、姫よ」

「糧を得たら、どうすればよいのでしょう」

「それでは姫よ、共に過ごすのだ。お前のことは俺が守ろう。お前は俺の傍に居て、時々歌ってくれればいい。それから嬉しかったとき、俺の頭を撫でてくれ」






「怪獣様、怪獣様」

「なんだ、妻よ」

「怪獣様は、聞いていたよりも恐ろしくはないのですね」

「おかしなことをいう、妻よ。お前は最初からずっと、まっすぐ俺を見ていただろう」

「そうでしたか」

「そうだとも」


 その時、怪獣の胸についていた殻が二つに割れて、中から輝く心の臓が姿を見せました。

 そこへ「アレだ! アレを撃つのだ!」と、遠くから多くの矢が飛んできて、お姫様を庇った怪獣の 心の臓を貫いたのです。怪獣は大きな声を上げてばたりと倒れました。


 お姫様は驚いて倒れた怪獣を揺り起こそうとしましたが、怪獣は苦しむばかりです。


「怪獣様、怪獣様」

「なんだ、妻よ」

「死なないで下さい、怪獣様」


 お姫様は怪獣を殺すために嫁ぎました。

 ですが、怪獣と過ごすうちに、優しい怪獣を愛してしまったのです。


 お姫様はこれ以上怪獣が傷ついてしまわぬよう、怪獣の大きな体に覆い被さり怪獣を守ろうとしましたが、お姫様の体は脆く、飛んでくる矢には耐えられません。

 傷つき倒れたお姫様を見て、怪獣はとても悲しみ、大きな声で吠えました。


 その声だけで飛んでくる矢ははじかれ、怪獣を倒そうと集まってきた兵達は、恐れ、逃げ出しました。

 静かになった二人の巣で、怪獣は自分の輝く心の臓を取り出すと、それをお姫様の口に含ませました。


 すると、今にも死んでしまいそうだったお姫様の傷はたちまちに癒え、白い頬が赤く色づきました。それを見て怪獣は安心したように目を閉じると、もう起き上がることはありませんでした。




 怪獣は退治され、怪獣に嫁いだお姫様は無事に国へと帰ってきました。

 そしていつまでもいつまでも若く美しく健康でした。

 ですがお姫様は平和の象徴として沢山の素敵な王子様に結婚を申し込まれましたが、誰の元へも嫁ぎませんでした。











 それから長い時が経ち、そこからずっと東へ歩いた緑の豊かなその場所で、一人の猛獣使いと、一匹の珍しい生き物が並んで歩いておりました。


「猛獣使い。オレ様はどこに巣を作ればいい?」

「俺の暮らす場所だ。お前の仲間になるものもいるぞ。それよりお前は何を食べる?」

「オマエの好きなものでいい」

「お前は何が出来る?」

「オマエと仲間を守ることが出来る」


「そうか」

「そうだ」


 猛獣使いはその生き物が大昔、ここからずっと西にある砂漠の国で、怪獣と呼ばれていたことをまだ知らないのでした。




「こうしてオレ様と猛獣使いはツガイになった」

「なってない」

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