始まりの夜
突然ですが、まず最初に自己紹介をする事にします。私の名前は菅谷 奈央。近所の高校に通う普通の高校一年生です。そして今、私は親友の佳奈に連れられ、夜の学校に肝試しに訪れています。えぇ、断りました。断っても聞かないんです。あの人。
「ねぇ、佳奈…。やっぱりやめよう?」
「いつまでビビってんの? もう覚悟決めなさい!」
「だって……。」
私と佳奈は校門を越えて、廃校舎に差し掛かる。夜に見る廃校舎はそれはそれは不気味だった。今すぐ帰りたい。だが佳奈を置いては帰れない。私は不気味な廃校舎の前でただ口をパクパクする。
「何やってんの…、奈央?」
「こ、怖い…。」
「よし! じゃあ入るよ。」
なんですって!?入る?えっ、どこに?入るところなんてありませんけど…?私は周りを見回す。
「ほら、行くよ!」
「待って待って! 本当に無理! お願い! 帰ろう!?」
そして結局、私は佳奈に強引に引っ張られ、今、廃校舎の廊下を恐る恐る歩いています。
「いや~、やっぱ雰囲気あるね~。」
「…。」
話しかけないで!私は今とても話せる状態じゃないの…。
「…奈央?」
佳奈が喋らない私を心配して振り向く。その時だった。ガサガサ…と不気味な音がすぐ近くから聞こえてきた。音は次第に大きく、激しくなる。
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー! お化けだー! 怖いぃぃぃぃぃぃ!」
私の叫びが廃校舎に響く。
「奈央の方が100倍怖いよ。私から見たら。」
尻餅をつく私と対照的に、佳奈は音のする方向に臆する事なく進んで行く。
「佳奈! 待って! 殺されちゃうよ!」
「何言ってんのよ! 誰もいないよ!」
佳奈は私の方に振り向く。その瞬間、私だけが見てしまった。私を呆れたように見る佳奈の右にある部屋の扉。そこから伸びた一本の手が佳奈の左腕を掴む。
「え…?」
佳奈は最後にそう漏らすと、静かに部屋に引きずられていった。一瞬の沈黙の後、部屋から佳奈の悲鳴が聞こえてきた。
「きゃぁぁっ!」
「佳奈!」
怖かった。でも佳奈は親友だ。私の体は、自然と親友が引きずられていった部屋へと向かう。しかし、そこにはお化けどころか佳奈もいない。
「佳奈!? 佳奈!?」
返事はない。私は恐怖に負けた。親友を置いて、その場から逃げ出してしまった。
「いやぁぁぁぁ!」
私は夢中で走る。そして、気がつくと家の前に着いていた。翌日、警察による佳奈の捜索が行われ、学校は休みになった。しかし、佳奈は見つからなかった。