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涙の(?)終業式。そして夏休み!


 そろそろ、1学期が終わっちゃうのか。何だかんだあって、あきらちゃんといろいろ遊ぶ事もできたしなぁ。噂に次ぐ噂で、あきらちゃんが僕に用がある事を伝える時男子も女子も「カノジョさん呼んでるよ」とクラス中に言われるようになったし。そのたび、僕もあきらちゃんも恥ずかしい思いをするよ。


 あきらちゃん、僕が思ってるよりも、ずっと可愛い子だったなぁ。1年生の時から知ってたけど、今みたいになるまで、近づくのも何か怖かったからなぁ。確かに見た目可愛いんだけどね。何度も「厄介な子だな」と思ってたけど、友達になってみると、親しみやすいし、何だか守ってあげたくなっちゃうなぁ。うーん、思い出しただけでまた会いたくなった!


 夏休み、会えるかな?この辺(横浜市旭区)は、夏休みの小学生の為にピッタリな施設がたくさんあって、友達を誘って遊ぶのにうってつけの場所ばかりなんだよなぁ。でも、僕はスイミングスクール行かなきゃいけないんだよね。今度の大会も控えてるし。そうそう、その大会で、もしベスト3入ったら、夏休みと同じ日まで休みが貰えるんだよな。水野コーチはよくぞ僕の心の声を聞いてくれたな、とつくづく思う。きっと、コーチなりのご褒美なのだろう。ありがとうございます、水野コーチ。


 夏だし、もしもあきらちゃんと一緒に、またはあきらちゃんもいる団体の中で出かけたりしたら、何を言おうかな?多分、家の中については話してくれないだろうな。僕、あきらちゃんの父親見た事あるけど、あの人絶対おっかないな。授業参観で、娘の出番が少ない事に文句言う人初めて見たわ。あきらちゃんが気の毒で、全体的に見て男の人が苦手になるの分かるわ。過保護、だよなぁあの振る舞い方は。だから、それ以外の話題を話さなきゃ。あきらちゃんの事、もっと知りたいな。


 あと、今度出る大会の事、まだ誰も知らないから、明日話しておこう。きっと、あきらちゃんも皆もびっくりするだろうなぁ。

 そう思いながら、終業式まであと2日に迫ったこのときを、自分の、F1などのモータースポーツ関係のグッズで埋め尽くされた僕の部屋で過した。



 せっかくトモくんと仲良くなれたのに、もう終業式前日になっちゃった。思えば7月の上旬、男子が苦手な私なのに、親切に対応してくれて、気が付いたら私にとって憧れの人になっていた。そんなトキメキから、まだ1ヶ月も経ってないのね。

 その間にもいろいろあったなぁ。男子がトモくんと私の変な噂立てたり、誰もいない教室でトモくんにお腹を触られたり、大小合わせて数多くあったわ。でも、楽しかった。もっとトモくんと一緒にいたいな、なんて思えた。

 だけど、そんな日々も明日で一旦終わるのね。そう思っただけでも憂うつになっちゃいそう。トモくんがいない日常生活なんて考えたくないなぁ。

 そう一人ぼーっとしてると、先生が教室に入ってきた。2日前から午前中の授業で切り上げるようになって、帰りの時間が早くなった。

 今日も授業が終わり、その流れで帰りのホームルームが始まった。と言っても、夏休みの諸注意、落し物確認などをする程度で、2分ぐらいして終わるんだけどね。

「では、ホームルームは以上、という前に、ここで松本からお知らせがある。心して聞いて欲しい。」

 どうしたんだろう?今日は淡々と終わらないのね。それに、トモくんが前に立ってる!?何だか浮かない顔してる。心して聞いて欲しいって事は…


「転校するのか?」

「智彦行くなー!」

「まだ俺は何も言ってねぇ。ひとまず静かに聞いてくれ。」

 いや、きっとそうなんだ。トモくん、私を置いて転校しちゃうんだ。嫌だよ!トモくんがいない学校なんて行きたくないよ!もっとトモくんと一緒にいたかった…。だめだ、涙が出てきた。声出さないように、周りに分からないようにしなきゃ。

「8月11日」

あぁ、この日に…

「12日」

2日かけて…

「13日」

3日も!?大掛かりな引越しだなぁ…。8月13日は何としてもトモくんの家に行かなきゃ。そして、トモくんが好きだったって伝えなきゃ!

「横浜国際プール開催される「ジュニアスイミング全国大会」に…」

横浜国際プールに…ってあれっ?引っ越すんじゃないの?プールに人は住めないし、なぜそこなんだろう?

「出場します!」

引越しじゃなくて、水泳大会に出るんだ!!よかったー!

「県大会何位なの?」

「県大会は……優勝です!!」

男子達かトモくんに群がってる間に、私は思わず安堵感から、声を潜めて泣いてたのに、一瞬だけ「うっ…うっ…」って声が出ちゃった。

「何に出るの?」

「競泳 男子 100m 自由形 神奈川代表。順当に行けば、大会3日目の8月13日に準決勝と決勝に行けるよ。」

そうなんだ。この3日間は絶対スケジュール空けなきゃ。トモくんが水泳大会に出るんだもの。


「あきらちゃん、よかったね!トモくん転校しないよ!」

 後ろでかなちゃんがそう言ってきた。って何で、かなちゃん私の心の声聞き当てたの?泣き気味になりながら聞いてみた。

「なんで…わかったの?」

「そりゃあ、今クラスで泣いてるのあきらちゃんしかいないもの。泣いてる理由は当てずっぽうに言っただけ。そしたらあきらちゃん、何か図星だったみたいで、逆に私がびっくりしちゃった。」

 当てずっぽうでも何でも、トモくんが転校すると思い込んでた私をズバリと当てたのすごいわ!


「それに…あきらちゃん、周り見て。」

えっなんで?とりあえず、言われたとおり見てみよう。


(クラス全員が阪本を凝視)


あーっ!クラスの皆が私を見てる!!ど、ど、どうしたの皆?そんなに私を見ないでー!



 今日は保体委員の仕事がある。部屋に入って、備品の確認、保健室に来た学童の確認、ベッドの準備、これらの仕事を僕一人でやってのけた。本当は、かなちゃん、ナナちゃん、森嶋さんも居るべきなんだが、何故か3人揃ってグラウンドの整備に出て「トモくんだけ保健室に残ってね」と言われて保健室で仕事をしてる。保健室の赤崎先生が留守の間、その穴埋めをするのも保体委員の仕事だ。

 準備を整えつつある頃、誰かが入ってきた。あっ、あきらちゃんだ!しかも、僕をみるなりふくれっ面でちょっと不機嫌そうな感じになった。ベンチに腰掛けるなり

「トモくんのばかぁ。転校すると思い込んで泣いちゃったじゃない。」

 確かに、あきらちゃんだけ泣いてた。ビックリさせる策はうまく行ったが、まさか泣くとは思わなかった。正直、罪悪感がある。

「ごめんなぁ。ビックリさせようと思って、クラス巻き込んだんだよ。」

「あの時、悲しかったし、私だけ泣いてると分かった時、恥ずかしかったんだから。」

「うん、そりゃあ皆の前立ってお知らせがあると言われたら「転校するのか?」と思い込んじゃうね。」

 どうやってあきらちゃんの機嫌を直そうか、考えながら話してるが、一向にあきらちゃんの表情が変わらなかった。まだ拗ねてるし「トモくんなんて大嫌い!」と言われそうでヒヤヒヤしてた。


「あきらちゃん、本当ごめん!(>人<;)あきらちゃんの機嫌が直るんだったら僕なんでもやるから。」

「…本当に何でもやってくれるのね。」

「うん!何だったら奴隷みたいに扱ってくれても…」

「いや、そこまではちょっと…。私の性に合わないから。でも、そこまてやってくれるって腹を決めたトモくんの意志が伝わったわ。」

「本当!?よかったー。そうだ、何でも言ってよ。本当に何でもするから。」

 何とか機嫌直してくれたみたい。一安心したけど、まだ何を言われるか分からない。

 まさか「ひざまずいて「僕はあきら様に忠誠を尽くします」って言いなさい。」とか言うんじないでしょうね?

 はたまた「責任、取ってよね」と言って、僕をベッドに押し倒して、あきらちゃんのなすがままにされるんじゃ?今度はあきらちゃんの手が僕の腹を…

 何て言うんだろう?次のあきらちゃんの一言に注目だ!



 うふふっ。トモくん、私は最初からトモくんの事許してるとは知らず、おどおどしてるわ。可愛いわぁ。もっといたずらしちゃおうかな。

「じゃあ、左手出して。」

 こう言うと、また私がトモくんの手をいっぱい触るんじゃないかな?なんて思っちゃうかなぁ。うーん。私としては、この前みたいに握ってあげたいけど、また1年生のあの子とか、誰かが入って来たところ、私がトモくんの手を握ってるのを見られたら、恥ずかしいもの。ちょっとだけ…ちょっとだけだから。


ギュッ


「ありがとっ!ハイ終わり!」

 トモくん驚いてる。「あれっ!?もう終わりなの?」と言ってるような、そんな顔してるわ。

「あらっ?この間みたいに握らないの?」

「また誰かが入ったら恥ずかしいもの…」

「ぼ、僕はそうなっても構わないけど…」

「私はダメなの!クラスメイトに見られたら、間違いなく私とトモくんは、こ…恋人に思われちゃうでしょ!」

「あぁ、そうだね…。」

 本当は、恋人で居たいんだけど、男子からの目が怖い。「何で智彦は良くて俺たちはダメなんだ?」と質問攻めされそうだもの。私はそう言うシチュエーションに耐えられないから、そう言っちゃうだけなんだけどね。


「それとね、保健室入った時、私拗ねた表情してたでしょ?」

「うん。どうしたの?」

「あれね、最初からそのフリしてたのよ。」

「え"っ…!?」

苦笑を浮かべながら、トモくんが膝から崩れ落ちた。

「マジでか!!うわぁー、ひっかかっちゃったわー!!」

「えっへっへー。帰りのホームルームで私を驚かせた、お返しだよー。」

「お返しされちゃったー!参りやした!」

 やった!見事にしてやったりだわ。それにしてもトモくんって、普段しっかりしてて、クラス委員よりもマネージメントが上手くて頼り甲斐があるのに、自分が弄られる立場になると、何だか弱い人に見えちゃうから不思議ね。よく照れるし。そこがまた可愛いのよね。


 さて。トモくんを弄ってみせたし、私はこの辺で帰ろうかな。友達の家にお呼ばれして、遊びに行かなきゃだし。

「トモくん、私帰るね。この後友達と遊びに行かなきゃだから。」

「そっか。てか、わざわざ僕にドッキリしかける為に保健室に来たの?」

「うん!」

「初めて見たぜ。体調悪くないのに保健室くる子。」

 そうね、まぁ、邪魔にならない程度に過ごせたし、長い事いちゃったらトモくんのお仕事に支障きたしちゃうからね。

「またね!トモくん!」

「また明日。あきらちゃん!」

 そういって扉に向かった時だった。私の右足が左足につまずいて転びそうになった。このままじゃ転んで、どこか怪我しちゃう!どうしよう!



 痛たたた…。転けそうなあきらちゃんをかばおうとして、背中と後頭部打っちゃったよ。痛いなぁ。

 まぁ、僕はいいんだ。あきらちゃん大丈夫かな?

「あきらちゃん、大丈夫?」

 今僕はあきらちゃんを抱いてる。もう倒れそうになったから、あきらちゃんを抱きかかえた時に一緒に倒れた。あきらちゃんが上になるようにしたら、どこにも身体打ちつけないで済むし。きっと大丈夫だろう。


「うん。大丈…夫。」

 なぜか言葉がつっかえたあきらちゃん。僕の顔を見て、今のこの状況を知ると、急に大粒の涙を流した。ま、また僕はあきらちゃんを泣かせちゃったの?えっ?でも何で?てか泣いてしまわれると僕が後で大変なんだが。

 もしこのシーンを、クラスの男子が見たら「智彦、ついにやったな。誰よりも早く、大人の男になっちまったな!」と言われ、きっと僕が貞操捨てたと勘違いされる。

 女子なら、可能性があるとすればグラウンド整備から帰ったかなちゃん達だ。あの子らだと

「トモくんサイテー!」

「まだ小学生なんだよ!」

「責任取らざるを得ない…。トモくんは父親ね…。」

と言われるはずさ!足の位置からして、何かおかしい。僕の両脚の間に、あきらちゃんの左脚がある。見方によっては性行為に勤しんでるように見える。更にあきらちゃんが泣いてると来たものだから、僕が強引にしてるとしか思われないだろう。


「あきらちゃん、僕あきらちゃんに悪い事したかな?」

「そうじゃないの…。嬉しくて…。トモくんの腕の中にいる夢、何回も見てきて、ついに実現したの…。」

 あぁ、そういう事か。あきらちゃんの夢が叶って、嬉しくて泣いてるのか。以前聞いた事ある話だなぁ。あの時はまだ、あきらちゃん僕が男子だから苦手だったんだよなぁ。今ではこんなに嬉しそうにしてるし、男子が見たら僕に羨望の眼差しを向けられるんだろうなぁ。

「トモくん、しばらくこのままでいい?」

「…うん。でも、もうすぐ赤崎先生来ちゃうよ。つまり、人に見られるよ。」

「離れたくない。今の私なら、誰かに見られても構わない。」

「そっか。としたら、僕もこのままの体勢でいよう。」

 あきらちゃんがニコッと笑うと、僕の胸に顔をうずめた。メガネかけてるので、壊れないようにあきらちゃんなりに保護してるのだが。


 今のあきらちゃんなら、抱きしめられても大丈夫。僕に触られても平気になった。という事は、頭撫でたら、どうなるんだろう?やってみるのも恐ろしく思えたが、少し勇気を出してやってみた。



 私、今、幸せ。こんなに近くでトモくんを感じて、トモくんの腕に抱きしめられてる。転んだ拍子とはいえ、夢に見たこの光景が、まだ先のことかなと思ったけど、思ったより早く実現できて、よかった。もっといたいなぁ。


 あっ。私の頭を、トモくんがなでてる?もう、私がして欲しいこと、見透かされたみたいね。トモくん、優しいよ。

「うふっ。頭なでてくれたんだ。ありがとう。」

「ど…どうも。」

 余計嬉しくなるわ。トモくんの優しい手が、私の頭をなでてくれる。何だか、心地よくて、気持ちいいわ。

 この間、お腹触られた時もそうだったけど、トモくんなら何の抵抗もなく受け入れられる。これが他の、老いも若きも全部含めて男の人だったら、間違いなく拒否してるところだったわ。2年生から「阪本伝説の右フック」とか、色んなあだ名がある私のパンチは、もう私の代名詞にもなっちゃったわね。それで何人もの男子を気絶させたりしたから、何だか怖い人に見られたりするのよね、私って。


ガラガラ


 保健室のドアが開いた。あっ、赤崎先生だ。

「保体委員、御苦労様。あとは私が…って、何やってるの?松本くんと阪本さん。」

「見られても構わない」確かに私はそう言った。ありのままを話そう。

「私、今とても幸せです!トモくんの腕に抱きしめられて、まるで夢を見てるような、そんな心地なんです!」

「そうなの…。てもね、阪本さん、ここは学校よ。こんなところ他の子に見られたら、いけない事してると思われるでしょ?」

 いけない事って、何?とりあえずトモくんを見ると、想像しにくかったけど、徐々に恥ずかしさが増してきて、慌ててトモくんのそばを離れた。


「す、す、すいません!私としたことが…」

「いいんだけどね。場所が、ねっ。」

 そうだった。ここは学校なのよね。さっき手をちょっと握ったあとは、まだ学校にいると認識してたのよ。幸せに浸かりすぎて、忘れてた!

「おー、意外と大胆なのね、あきらちゃん。」

 赤崎先生の後ろにかなちゃん達がいた!!しかも「私決定的瞬間見ちゃった」と言ってそうな、そんなにやけ方してる!

 もぉー!さらに恥ずかしくなっちゃったじゃない!なんで私「見られても構わない」って言っちゃったんだろう…



 しょっぱいな、口の中。あきらちゃん、赤崎先生見るなり顔を上げたから、その時にあきらちゃんの涙が口の中入っちゃった。

 それにしても、いい表情してるわ。泣いてはいるけど顔が笑ってるって、よっぽど嬉しかったのかな?僕に抱きしめられて。


 視線を下げると、あきらちゃんの胸が目の前にあった。やっぱ胸大きいな、同じ学年の女子と比べても。今揺れてたよ。あらっ?離れた。今、あきらちゃんの胸見たのバレたかな?いや、そうじゃないみたい。赤崎先生に、学校でいちゃつくと後々面倒なことになるわよ、と言われたのだろう。えらく顔真っ赤になってるな、あきらちゃん。

「おー、意外と大胆なのね、あきらちゃん。」

 かなちゃんだな。そんな冷やかすなって。またあきらちゃんの顔が赤くなったじゃんか。一言言おう。

「かなちゃん、あきらちゃんをそんなに冷やかさないであげようよ。可哀想だよ。」

「おー、さすがだね、カレシさん。カノジョさんを守りたいがために…」

「だからそう呼ぶな~!」

 一瞬で僕の顔は真っ赤っかだ。正直そのあだ名は勘弁して欲しい、気がする…


 そんなこんなで、やっと僕達は保健室を出て、帰り道を歩いた。ここ最近、僕の前にナナちゃんとかなちゃん、あきらちゃんと僕、森嶋さんの3列で並んで帰るようになった。さっきからかなちゃん達が僕とあきらちゃんを弄ってくるのだが…

「ほーらぁ。せっかくなんだし、さっきの続きを…」

「だからあれは、事故なのよ!」

 もう、参ったわ。かなちゃんに何回も「もう、あきらちゃんを弄らないであげて。」と言うと「カレシさん、カッコいいね!やっぱりカノジョさん大事なんだー。」とか言って、僕をあきらちゃんの恋人扱いするし。

 かなちゃんをうまく弄り返して、尚且つあきらちゃんもあまり怖がらない方法はあるかなぁ?まだ僕以外の男は怖いんだよね、あきらちゃん。剛史の名前挙げただけでもちょっとびびっちゃうし。


「トモくん、あきらちゃんいい匂いだったでしょ?」

ナナちゃんが聞いてきた。

「よく分からなかった。てか、助けるの必死になってて、そこまで気が回らなかった。」

「あっちゃー!もったいないー!」

 冷静に答えたつもりだが、内心ドキッした。確か、何となくいい匂いはしたが、あきらちゃんからくるのかは特定できなかった。

「本当、いい匂いするんだよ、あきらちゃんは。今度嗅いでみてよ。」

「ナナちゃん!そんなの教えなくていいよ!」

 こんな感じだ。あきらちゃん一人で帰るの心細いものだから、僕ら保体委員も一緒に帰ってるのだが、大体の会話は僕かあきらちゃん、あるいは両者を弄る事に終始してしまう。

 今の返しも「じゃあ今度嗅いでみようかな?」と言うのもおかしいし、あきらちゃんが喜ぶはずがない。



 もぉー!かなちゃんもナナちゃんも、私を弄りすぎなのよ!

 そんなに私からいい匂いするかなぁ?私には分からないわ。としたら、今度トモくんに聞いてみようかな?「私、いい匂いする?」って。わぁー、自分で呟いて恥ずかしくなったわ!そんな事、聞かなくったいていいわよね。多分、トモくんも返答に困るんじゃないかな?


 そう、一人混乱してる時だった。クラスの中でも会いたくない男子2人が、目の前に現れた。田山と井藤の2人。この2人に何度もいじめられてる。悪い言い方をすると、怨敵よ。

「あれっ?智彦じゃん。何してるの?女の子らと一緒に。」

「あぁ、あの…」

「しゃべらなくていいわ、トモくん。いい、彼らの相手をしてたら、あきらちゃんを無事に家に送れないわ。私は剛史をやっつけるから、ナナちゃんと森嶋さんは瑛太を攻撃して。その間にトモくんはあきらちゃんを連れて逃げて。」

「うん、分かった。」

「作戦が丸聞こえだぜ!阪本と智彦を捕まえるぞ!」

 やっ!やめて!こんな時に、あの2人に捕まりたくない!


「たーけしー、私よー!」

「だ、抱きつくなって!」

 わぁ、スゴイ!かなちゃん、井藤をうまく操ってるわ。こんな井藤、見た事ない!

「どけよ!お前ら!俺の折角のスクープが…やめろ!服の中にいれるな!」

「こうすりゃ前見えないもーん!」

 田山の顔がナナちゃんの服の中に入っちゃって、前塞がれて何も見えない。その間に…

「カメラ取った…」

「取るな!親父からこっそりパクった物だぞ!」

 予想外の出来事に唖然となった。うちの女子達は、男子よりも強かったんだ。男2人、女3人じゃ力技で男が勝つと思った。だけど、心理戦を上手く駆使して、男共を妨害してみせた。かなちゃん達、さすが…


ギュッ


 えっ?トモくんが私の手を握ってる!?

「あきらちゃん、今がチャンスだよ。僕が手を握るから、しっかり離さないように走ってね。」

「う、うん!」

 トモくん、私の手を握ってくれた。嬉しかったのもつかの間、井藤と田山をすり抜けて、全速力で私の手を引っ張りながら走った



 やや敵に見えかけたかなちゃん達だったが、いざという時、あきらちゃんを守ってくれるんだな。見直したぞ!


 あきらちゃんの手を思い切り握ってる。痛くないかな?脚が速いと言われてる僕についてこれるかな?走りながらそのことばかり心配になった。

「トモくん!私の家じゃなくて、友達の家に向かってくれる?」

「分かった!どう行くの?」

「私が案内する!次の十字路、右よ!」

 あきらちゃん、とにかく必死になって行き先を案内してた。目的地までの400m、ちょっと長く感じた。後ろから、巨漢の剛史はさておいて、田山が来るんじゃないかと心配になった。

 来たら来たで大変だし、あいつはカメラ持ってたな。それで終業式にあたる明日に、クラス中に僕とあきらちゃんが手をつないでる写真をばらまくつもりなのかな?そうだとしても、とにかく今は逃げ切るしかない!あいつにスクープ撮らせてたまるもんか!

「もうすぐ着くわ!あの赤い屋根がそうよ!」

 赤い屋根の家、赤い屋根、赤い屋根、あっ見えた!デカっ!あんな家にうちの学校の子がいるの?豪邸じゃんか!

「江藤さん宅よ!麻耶ちゃんからお誘いがあって、そこで一緒にお茶飲んだりするの。」

 やっとのこと、江藤麻耶の家に着いた。門の前で息切らしてて気がつかなかったが…

「門でけぇ!超お金持ちの家だなぁ!」

 ちょっと興奮してしまった。早速門の向こうから誰かが現れた。


「あきらちゃん、ごきげんよう。」

「こんにちは…麻耶ちゃん。」

 あきらちゃんも息切らしながら江藤さんに挨拶した。と言うか、僕「ごきげんよう。」と挨拶する人初めて見たわ。

「あら、どうかされましたか?あきらちゃん?」

「今ね、井藤と田山が私を捕まえようとしてたんだけど、かなちゃんとナナちゃんと森嶋さんか阻止してくれたの。それで、その隙に私の横にいるトモくんが、手を繋いでここまで送ってくれたのよ。」

「あらあら、心優しい殿方なのですね。トモくん?」

「いやー、無我夢中だったから、もしかすると強引に手を引っ張っちゃったかも。あきらちゃん、手痛くない?」

「うん、大丈夫よ。あっ、そうだ。麻耶ちゃん、トモくんというのはね、私も麻耶ちゃんも同じクラスにいる松本智彦くんよ。」

「あっ、どうも。松本です。」

「江藤麻耶です。皆様から社長令嬢と呼ばれてますが、お気になさらずお声かけください。」

ずいぶんと謙虚な人だなぁ。何と言うか、飾らない性格だし、どこか人懐っこい。

「トモくん、折角ですから、御一緒にお茶を飲みませんか?」

「あ、いや、ご好意はありがたいんですが、僕はこれからスイミングスクールに行かなければならなくて…」

「今度の全国大会に向けた練習ですね?頑張ってくださいね。応援してます。」

「あ、ありがとう…ございます。」

 慣れない相手に戸惑いはしたが、それなりに会話はできた。けれども、スイミングスクールがある時に誘われるなんて…

「正直、私も残念ですわ。殿方が中々お茶会に参加されないので、女子だけで集まるのも、何と言いましょうか、物足りないのです。」

ちっきしょー!何か悪い事したような気になっちまったぞ!

「わ、わかりました。今度お誘いがありましたら、来ます。」

「わかりました。ありがとうございます。お越しいただける日を楽しみにしてます。」

丁寧ね!

「それにしてもあきらちゃん、トモくんはいい殿方ですわね。もしかして、あきらちゃんの…恋人…」

「ちがっ、違うわよ!それにまだ、友達になってからまだ日が浅いから、そういう関係なんかじゃないのよ!」

 はははっ。自分の事なのに、一瞬だけ他人事に見えたわ。まさかの江藤さんからのちょっかいに、恥じらいながら否定するあきらちゃん、可愛いね。


 僕はそろそろスイミングスクールの時間が差し迫ってきたので「また誘ってね!江藤さん!」と言い残して、江藤さん宅を後にした。スイミングスクールに向かう途中「今頃、オリンピック見ながらお茶飲んでるとこかな?あきらちゃん達は。」と呟き、想像したら、そこにもしも僕がいたらなぁ、とどこか残念な気持ちに駆られた。まぁ、水泳大会が終わってからのお楽しみという事で、練習頑張りますか!


 翌日、無事に終業式が終わり、僕達待望の夏休みに入った。僕は、終業式の終わりに、夏休み中に活躍する児童の一人として朝礼台に立った。代表して挨拶まで任された。

「我々は、横八小に関わる皆さんの期待を背負い、正々堂々と戦い、9月の始業式に、いい結果を報告できますよう、全身全霊を込めて挑んでいきます!」

 いたって短く、僕らの決意を表明して、終業式は終了した。

 ところで、昨日僕とあきらちゃんを捕まえようとした剛史と田山はというと、どこからかその行為がばれたか、罰として皆が帰った後、滅多にカミナリが落ちない小山先生に大目玉を食らわされ、その後2人仲良く、小山先生監視のもと、教室掃除をする羽目になったと聞いた。てか剛史から直接聞いたんだがな。それ以降、この2人はあきらちゃんをいじめる事はなかった。もう、懲りたんだろうね。

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