翌日
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今の私は、もう学校に行きたくてたまらない気持ちでいっぱいだった。何よりも、トモくんが他の男子と違って、私の事を守ってくれるような、そんな存在になったから。だから今日は、パパが起きる前に家を出て学校に向かった。
私が教室に入った時、既に16人ぐらいの子が教室の中にいた。トモくんは自分の席に着いて、F1(だったかな?)雑誌を見開いて、車の写真を模写しているところだった。口元で何か言ってるようにも見えた。きっとレースに関する専門用語を呟いてるのかな?私には分からないけど。
でも私待ってるんだ。いつかそのお口で「あきらちゃん愛してる」って言われる日を。もしそんな日が来たら、私はもう天にも昇る心地ですよぉ~。
それにしても、私とトモくんの席、遠いなぁ。教室の机は、横6列の縦6列、窓側の後方の席が2つ空いて34席あるんだけど、私は廊下側端っこの前から3列目。そこから後ろは下がれない。視力良くないから。眼鏡外すと、ほとんどのものがボヤけてるようにしか見えないの。トモくんはというと、窓側から2列目の1番後ろに座ってる。しかも眼鏡かけてない!!羨ましいなぁー、あんなに視力がイイなんて。
時刻は8時15分を過ぎようとしてた。ほとんどの子がもう教室に入り、さっきよりも騒がしくなった。その中でもトモくんは、まだ模写を続けてた。何か会話が聞こえた。かなちゃんと森嶋さんも一緒だった。
「何描いてるの?」
「フェンラーリの今年(1992年)のF1カー。フェンラーリなのに速くないんだよね。見た目良さそうなのに。」
「何で遅い車なのに描いてるの?」
「何となくだけど、僕ならこう改良するだろうな、とイメージを膨らませる為、かな。」
「なるほどー。」
「そのイメージが、実際その通りになったことないんだけどね。」
何か和やかだね。私もその輪に入りたいけど、他の子の目もあるし、入れないなぁ。はぁー。
かなちゃんと森嶋さんが去り、模写の続きに取り掛かろうとした、その時だった。私と目が合った。ビックリしたトモくん、何だか可愛いいなぁ。「ど、とうしよう。僕、あきらちゃんに気づかなかったなんて。」と言いたげな表情を少し浮かべた後、手を振りながら
「おはよう。気付かなくてごめん。」
と声を出さずに私に話しかけた。私も口元で
「おはよう。大丈夫よ」
と声を出さずに言いながら手を振った。優しいなぁ。そんなトモくんの優しいところが私好きなのよね~。
ところが、私達のやり取りに気付いた男子共が、急にトモくんを取り囲んだ。私のトモくんにナニするの!?早く去って!!しっしっ!
って、何でトモくん男子を引き連れて教室を出るの?あと5分で始業のチャイム鳴っちゃうよ!!
○
「阪本さんとは、どういう関係なんですか?」
「答えてください!松本さん!!」
こっそりとあきらちゃんに挨拶してるつもりだったんだけどなぁ、やっぱりこういう色恋沙汰と思しき事態には敏感なんだよな~、うちの男子って。
「なぁ、今ここで話したらまずいだろ?男子だけ場所を変えよう。」と言って、僕たちは教室を出た。移動中、とにかく男子達の視線が痛かった。「付き合ってるの?」「まさかあの阪本と…」みたいに有らぬ噂が乱立していた。
僕達男子は最上階、屋上に通ずる戸口前に集まった。あと4分したらチャイムが鳴るので、着いたら早速、さっきのような質問攻めが始まった。それにしても、僕を壁際に追い込み、皆で僕を囲い込むなんて、小学生らしからぬ事をするの好きだなぁ、皆。
「阪本さんとはどういう関係なんですか?」
「男子の間で阪本と交際を始めたと噂ですが本当ですか?」
皆、芸能のリポーターみたいに鋭い質問を投げかける。皆の顔がいつにもまして怖ぇ。
「皆も知っての通り、阪本は男子が苦手だし、僕に話しかけてくるのもなかなかナイ事ダ。あと、交際はしてない。どこでそんな噂が立ったの?」 やばい、一瞬動揺しちゃった。
「噂も何も、昨日保体委員3人と阪本が帰ったの俺見たんだよ。」
そう言ったのは、クラス屈指の噂好き、田山栄太だった。
「阪本が女子だけでかたまって帰ってたら、こんな噂は流さなかったよ。でもな、そこにお前もいたんだ。男嫌いな阪本がお前と一緒に帰るなんてどう考えてもおかしい。何があったんだ?正直に話してみろ。」
つまり、昨日の事を話せって事か。これは長くなるぞ。
「なぁ。どうしても話さなきゃならないのか?田山。」
「あぁ。でなきゃ俺たちが納得できねぇ。」
「話せば長くなるぞ。いいところでチャイムが鳴ったり…」
「じゃあ早く話せ。」
もう、どうしても言わなきゃならないみたいだな。
「話すぞ。昨日の昼休み、阪本が頭痛がひどいので休ませてと言って保健室に来たんだ。ベッドの用意や薬の服用を手伝うのも保体委員の仕事だけど、彼女は全部自分でやったんだ。僕の助けも借りずに。その時も僕を怖がってる様子だったよ。」
「まだその時も智彦に敵意があったと見てもいいんだな。」
「うん。ひとまずベッドに寝静まったあと、僕は次の授業に出るために、保健室の赤崎(峰子)先生にメッセージを残して出たんだ。「5-2 #12 阪本あきらさん 頭痛により①のベッドで寝てます。起こさないようお願いします」と書いたんだ。その後の5、6時間目は皆僕の姿見たよな?」
皆うなずく。
「それで放課後、僕は机を下げてから教室を出たあと、かなちゃんと森嶋さんと僕の3人で保健室に向かったんだ。そしたらもう阪本は元気になってて、僕らが来るのを待ってたようだったんだ。それで…」
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
「ちょっとしゃべるの遅いんじゃない?」田山の問いに
「いや、とても4分弱で収まるような話じゃないんだ。」
としか返せなかった。てか、この話はもう男子にはしたくない。絶対僕に敵対意識が出るんだろうな。
急いで、我先にと教室に向かった。あとちょっとしたら担任が来るからね。
ところで、僕ら男子が教室を去った頃、女子達は何してたんだろう?
♡
男子皆教室から出ちゃった。トモくんは残ってても良かったけど、あとは皆去ってくれた方が、私としては、たとえトモくんが私のカレシだと弄られても、心置きなくありのままに話せるんだけどなぁ。
「ねぇねぇ、「トモくん」とはどんな関係なの?」
「いやー…んっ!?」
今、絵美裡ちゃん(小野絵美裡)、松本くんを「トモくん」って呼んだ?誰かが昨日私と保体委員3人で帰ったところ、言いふらしたのかな?
「えっ?松本くんが何だって?」
「田山くんが言ってたんだけど、阪本さん、トモくんと保体委員の女子2人で帰宅したって?確か阪本さんって男子苦手じゃなかったっけ?」
田山のやつー!!何て噂吹っかけてるのよ!!思えば田山って、私に関するあらぬ噂を皆に吹っかけてきたのよね。
私が男子苦手で、あまり顔を合わせたくないと知ると「阪本は同性愛者だ!」とホラを吹くし、2年生の時に視力が落ちてメガネをかけなきゃならなくなった時「あのメガネには人を殺す力がある!みんなにげろ!」と言われたり、とにかくあいつには散々いじめられてきたのよね!!あー最悪!!
「う、うん。松本くんのおかげで、頭痛も治ったし、あまりこういう事は苦手なんだけど、一緒に帰りたかったのよ。感謝の気持ちを込めてね。」
「それで、家に着く前、みんなと別れる時に、松本くんを「トモくん」って呼んだそうね。」
「それ、私が付けたの。松本くん、あだ名がなくて、あk…阪本さんから付けてもらったら嬉しいな、って言ってたから、いろいろ考えてそれにしたのよ。」
「なるほどー。いいあだ名つけるじゃない。さぞかし「カレシさん」は大喜びでしょうね。」
「だっ、誰が「カレシさん」よ!!」
「カレシさん」と言われた瞬間、頭の中でトモくんが浮かんだ。恥ずかしいなぁ。こんなに男の人を意識してる事が、他の人にバレるなんて。
それにしてもさっき、トモくんの言葉を引用する時に「あきらちゃん」って言いそうになっちゃったわ。男子にはまだ言われた事ないあだ名で通ってるから、その時にもしそのまま言っちゃったら、私のせいでまた大騒ぎになる所だったわ。
チャイムが鳴ったと同時に、男子達も帰ってきた。席に着いたトモくんの表情が暗かった。トモくんも、噂を追求されたのかな?顔を上げると、やけに顔が赤かった。そして溜息を一つ吐いた。トモくんもトモくんで辛かったんだろうなぁ。
○
チャイムが鳴ってからだいたい1分ぐらいすると、僕らの担任、小山亮太先生が来る。厳つい先生に見えるがかなり温厚で、宿題忘れた時は説教の代わりに、問題を皆の前で5問解いたり、先生の横でアシスタント的な仕事をするなどしたら、ペナルティが消化される事になってる。
竹刀持ってたら、それこそ風格のある先生なのだが、小山先生は自分が小学生の頃の怖い先生がいつも竹刀片手に暴れてたトラウマがあって竹刀を握るどころか、触るのもダメだという。だから、剣道の試合を観ると変な冷や汗をかくと話していた。
「はい、出席取ります。まだ相坂風邪治ってないんだな。相坂の席だけ空いてるぞ。皆、体調管理は怠るなよ。はい、号令。」
出席確認してから号令掛けるのが小山先生のスタイル。他の先生と違うので最初は戸惑った。
「それじゃ、朝の連絡も済んだところで、各自1時間目の準備を…っと、どうした?森嶋さん」
森嶋さんが手を上げてる。
「国語の教科書と間違えて、書道の教科書を持って来てしまいました…」
教科書忘れの時は、授業の冒頭かその前に告げるのがうちのクラスのルールだ。
「そっか。他忘れたの居るか?」
僕は持ってきた。しかし、森嶋さん以外に3人が教科書を忘れていた。あきらちゃんは、大丈夫だ、机の上にある。
「まぁ、仕方ねぇよな。書道の教科書と国語の教科書、表紙が似てるしな。忘れた者、どちらか隣の子に見せて下さい。では国語の授業始めます。」
こんな感じで授業が始まる。いたって普通の先生で、見た目とのギャップにはもう慣れてる。
3、4時間目は水泳。保体委員は2時間目が終わるとすぐにプールまで駆けつけて、シャワーを放水したりなどの用意をする。
今日は夏休み前最後のタイム計測に備えて、様々な調整をするのがメインになる。
3時間目始業のチャイムが鳴ると、皆一斉に準備体操に取り掛かった。バディを組みながらの準備体操。僕ら保体委員が前に出るのだが、僕は、まぁ、訳あって先生と組む事になった。
あきらちゃんの水着姿、期待してないけど、やっぱり意識して見ちゃうよなぁ、昨日のことがあって。確かに、体つきが良い。他の女子と(失礼ながら)比べると、本当に大人びた、年齢偽ってクラビアに出ててもおかしくないプロポーションだった。
因みに、授業の最後には僕と小山先生で25m自由形対決をした。かなり余裕を見せてた小山先生だったが、結果は僕の圧勝だった。しかも、25m泳ぎ切ったところでターンもして、気が付いたら35m以上泳いでいた。先生にとってとても悔しかったのか
「松本だけ記録会の時50m泳げ!」
と言われた。普段から泳ぎ慣れてるから、苦にはならないけどね。
今日は5時間目までの授業だ。
これが終わるとスイミングスクールに直行する、筈だった。ところが、帰りの連絡事項を伝えた後、小山先生から
「松本と阪本さん、後で職員室に来てください。」と言われた。保体委員の用事かな?けども今日はもう、僕がやるべき仕事などない筈。だとするとこの呼び出しは…。
号令がかかったあと、僕とあきらちゃんは職員室に向かった。しかしあきらちゃん、僕に話しかけてこない。この雰囲気、気まず過ぎる。やっぱり、今朝あったことがまだ尾を引いてるような、そんな感じがする。
「な、なんだろね?小山先生はなんで僕らを呼び出したんだろう? 」
「うん…」
明らかに顔をうつむかせていた。今にも泣き出しそうな、そんな表情だ。僕とあきらちゃん、一体何をしたというんだ!?
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私とトモくん、何をしたというのだろう?どうして呼び出されたんだろう?でも、私達は何も悪いことしてないよ。何で?
今でも覚えてる。5年生になって最初に出た宿題をやるの忘れちゃって、今までの先生と同様に怒られると思うと、大号泣しながら「ごめんなさい~!!」と叫んでたのを。でも小山先生は、これはあとでかなちゃんから聞いたんだけど
「小山先生、あきらちゃんの事考えてくれたんだよ。「阪本さんが男性苦手なのを考慮して、俺は阪本さんを責めたりしない。何、忘れることは誰にだってある。俺だって例外じゃねぇ。」って言ってたんだ。優しい先生だよね~。」
うん、確かに。小山先生は、優しいというより、器が大きい人だね。
でも、もう私は知ってるんた。小山先生より優しい人。その人は今、私の前を歩いて、一緒に職員室に行くところ。2人っきりなら私はもう、トモくんに身を委ねてもいい。それくらい、私にとってトモくんが愛おしい人になってるの。
そんなこんなで、私達は職員室に着いた。入るなり小山先生は、私達を職員室内の奥の部屋に案内した。そこは、普段お客さんが来た時に使われる「応接間」という部屋だった。私とトモくんは隣り合い、小山先生は私達の真向かいの席に座った。
「こういうところで話をした方がいろいろ都合がいいと思って応接間にしたんだ。大丈夫、君達は何も悪いことしてない。別に説教をしにここに呼んだわけじゃないから、安心してくれ。」
「それで、僕達に何の話があってここに呼んだのですか?それをまず教えてください。」
「あぁ、そうだな。それでは話を始めよう。俺、妙な噂を聞いたんだが、君達付き合ってるって本当か?」
「「えっ!?」」
先生までそういう風に見てたの!?もぉー、だから違うって!!
「ち、違います!先生!私は昨日保健室で、とm…松本くんに頭痛を治してもらったんです!それで私が、感謝の気持ちを表す為に、松本くんと一緒に帰った、それだけです!」
ここでも私は動揺してた。一瞬「トモくん」と言いかけるところだった。
「僕と阪本さんは確かに昨日一緒に帰りました。それに原さんと森嶋さんも一緒でした。仮にその噂が本当だとしても、僕らの間柄を証明してくれる人もいます。」
トモくんも必死に噂を否定した。そうよ、私たちは友達であって、まだ付き合ってすらいないんだから!
○
何を言い出すのかと思ったら、やっぱり今朝から出回ってる噂の事か。今朝、散々クラスの男子から追求され、あれこれ言ってもうくたびれてるのに、また言わなきゃならないのか。そう思っていると、小山先生が急に誰かに呼び出された。
「すまん。客人か誰かが俺を呼んでる。すぐ戻る。」
と言って応接間を出た。その間、僕達は
「あきらちゃん、昨日あった事、正直に話した方がいいかな?」
「それはちょっと…」
やっぱり恥ずかしいよな。
「でもどうしても噂の追求がきつくなったら、言うしかないわね。私もできる限りサポートするわ。」おっ、今日のあきらちゃんは、頼もしいなぁ。いつの間にしっかりした女の子になっちゃったんだろう。そう相談し終わったあと、小山先生が戻ってきて、話を続けた。
「さっき俺が言った噂だが、実は今日の昼休みに、俺のクラスの女子がそういう噂話をしてたのを偶然聞いたんだ。この学校は、恋愛についての校則は特に無いから、そのあたり俺たち先生は寛容に見てる。」
大人な意見だ。僕達学童には経験が少ないので、恋愛一つ取っても大騒ぎしてしまう。
「俺は今日君達と話してみて分かったのが、松本と阪本さんは恋人同士ではない。しかし、仲の良い友達だと分かったのだが、そういう事だよな?」
「そうですね。僕達の周りが騒ついてるだけで、僕と阪本さんはいたって冷静な、そんな状態です。」
「はい。それに、まだ私たちが恋を…するなんて早いと思いますから、お互い大人になってからお付き合いしてからでもまだ時間はあると思います。」
一瞬、あきらちゃんは間を置いて喋っていた。その時に僕をチラッと見ていた。何だが、僕を意識していたような、そんな感じだった。
「と言うわけで、話は以上です。君達の大事な時間、それに変な噂を追求してしまった事…本当に済まなく思ってる」
アメリカの刑事ドラマに出るセリフみたいだなぁ。
「いや、いいんですよ。やっぱり噂をうやむやなままにしてたら、また変な噂が広まっちゃいますから。そうだよね「あきらちゃん」」
「えっ…」
あっ!やべぇ!!つい気が緩んじゃって、「阪本さん」と呼ぶべき時にあだ名で言っちゃったよ!!思わず口元を手で覆った。きっとあきらちゃんは心の中で
「あだ名で呼ばないでよ!余計に恋人同士と怪しまれるじゃない!」
とでも言ってるのだろうなぁ。
「何であだ名言った後、気恥ずかしくなるか分からないが、別にいいだろ?お互いあだ名で呼びあっても。それがまた、友達の証でもあるからな。」
余計に恥ずかしい思いをするだろうと思ったが、意外と冷静に聞き入れていた。あきらちゃんも冷静さを取り戻し、先生と僕にこう返した。
「そうですね。私と「トモくん」は友達ですから、あだ名で呼びあってもおかしくないですね。」そう言って満面の笑みを僕に向けた。僕も
「そうだな。」
と言って笑顔で返した。
職員室を出たあと、僕らは時間をずらして帰った。帰ったと言っても、僕は真っ直ぐスイミングスクールに向かったのだが。
しかし、今日はどうも練習に集中できないなぁ。思わずあきらちゃんの顔がチラついて離れなかった。
「松本!泳ぎに集中しろ!」
と1度はそう注意された。しかし、あきらちゃんがどうも気になって仕方がなかった。
たまらず水野コーチ(水野宗治郎)の元に歩み寄り、学校であったことを話した。すると
「きっと違うと思うが、お前はもしかすると恋煩いに似た、そんな悩みを持ってるのかもな。俺も経験あるが、レースと関係ないことで悩みを持ってると、泳ぎに集中できないくて、結果もよくなかったし、いまいち練習に打ち込めなかったよ。」
こ、恋煩い!?一瞬だが僕は照れた。
「そう言うことだ。今日は君のペースで自由に泳いでもいいぞ。第10レーン、特別に開けてもらって、そこで気の済むまで泳げ。
「はい。」
「それにしても、俺初めて松本が照れるところ見たぞ。お前もいろいろ大変だろうけど、とにかく頑張れよ。俺はそれしか言えないけどな。」
さすがは元アスリート。人の一瞬の表情の違いが見分けられるんだなぁ。この後も僕は泳ぎ続けた。やっぱりあきらちゃんの顔がまた目に浮かんでいた。やっぱり泳ぎに集中できず、練習に打ち込めなかったけど、まぁいいか。今度の県大会、いい結果を報告してあきらちゃんを喜ばせてみよう。