第8話 本城の意見
健介は車に乗り込んだ。
昨日と同じく、本城のところでの研修がある。
今、健介の心の中は乱れていた。
警察の悪事に、自分は悪事を働いた団体の中にいることに、
権力による圧制に。
健介は例の紙を見る。
上から順に自らの筆跡を見直していく。
ふと、健介は目をとめた。
A4サイズのレポート用紙の下のほうに見慣れない文字があった。
「本城刑事にも聞いてみたらどうだ?」
ミミズがのたくったような字だったが何とか読めた。
先輩だ。書いたのは先輩だ。
いつの間に。
先輩の字ははじめてみる。
走り書きでなくともお世辞にも美しいとはいえない筆跡だと健介は思った。
健介の顔に笑みがこぼれた。
それとともに、先の心の乱れも飛んだ。
そうだ、警察の悪事は昔のことじゃないか。
今は、本城刑事をはじめ優秀な刑事がそろっているじゃないか。
今の長官は除くが、
心配することなんかないんだ。
そして、僕もいつか本城さんみたいな優秀な刑事になるんだ。
そう意気込んで健介は車を発進させた。
本城は昨日と同じく、あの豪華な部屋にいた。
少し顔色が悪いように見えたが、寝不足か何かだろう。
なんせ、今の長官が主犯格だという線がでたからだ。
僕は資料室の疲れで深い眠りについたけど。
本城は気さくに挨拶し、席を勧めた。
礼を言って健介は来客用の椅子に座った。
早速、例の紙を取り出し、軽く説明を添えて本城に見せた。
本城の顔が曇った。
でも、次の瞬間にはいつもの顔だった。
「なるほどな、新人レポね。俺は特別任務やらでやらなかったけど、
同期のやつが面倒だとぼやいてたな」
気のせいかもしれないがいつもと声の調子が違うような気がした。
「僕は賞金狙ってがんばってるんですよ。
本城刑事はどう思いますか?」
「氷室家の事故死は実は元長官の郷原武志の仕業っていうのは本当なのか?」
「そうらしいです。支部の先輩刑事から聞いたんです」
「あのストリートチルドレン抹殺は
氷室竜一を始末するためのイベントだった、というわけか」
「あの、って本城刑事もストリートチルドレン抹殺令をご存知なんですか?」
「ああ、興味があって昔調べたことがあるんだ。
だが、そんなところまで行き着かなかった。
もちろん、俺も先輩刑事に聞いたりしたんだがな。
君はいい先輩を持っているようだな」
やはり、本城刑事はいつもと声の調子が違うようだ。
なにか焦っているような気がする。
本城刑事が取り乱すとは何事だろうか。
「はは、ありがとうございます」
健介の礼を最後にこの会話は終わった。
結局、僕はいい先輩を持っている、という意見しか得られなかった。
しばらくの間の後、
今日の研修の内容を聞いてみた。
本城は少し迷った末、笑いながら、
今日は休みにしようか。
と言った。
「わかりました。また、明日も来ます」
そう言って、健介は部屋を出た。