真実と本当の姿
前を向いて、この世界と向き合おう。
そう決意したけど、チェシャ猫から教えられた真実は最初からかなり衝撃的だった。
「アリス、まず最初に一番重要なことを言うけど、絶対に『帰りたくない』って思っちゃだめだよ。そう思ったら最後、ホントに帰れなくなって、この国に利用されることになるから。」
「利用されるって、どういうこと?」
「ズバリ、『赤の国』の住民を宥めるために、アリスの存在がさんざんに利用されるってこと。
それで、その間に次のアリスが来たら問答無用で殺されるんだよ。前々回来た『アリス』なんか、住民宥めるためのみせしめに鞭打ち百回受けたのに、その次の『アリス』が来たってわかった瞬間に女王に首狩られて死んだし。」
なにそれ、ひどすぎ。
ていうか、そんな話をなんでこの男は笑顔で言ってんだ。
聞いたこっちが、頭の中に状況が浮かび上がるほど、リアルにグロい話をしているのに、話した本人は至って飄々としているのだから、そっちの方が気持ち悪い。
ホントに、さっきの優しさはなんだったのかしら?
頭ではそんなことを考えるけど、口には出さずに別のことを言ってみる。
「でも、それって、にげれば良くない?なんで黙ってそんな扱いうけてるの?」
そうすると、チェシャ猫は、腕を組みながら指を左右に振ってこたえた。
「チッチッチ、それがそうでもないんだなぁ。一応この世界は広いけど、『赤の国』と俺たちの今いるこの森とでしか成り立っていないから、森に入っても迷って死ぬし、国の中で隠れてもすぐ城の奴に見つかるし、そうしたら、なにされるかわからない。つまり逃げ込めるところがないってわけだよ。だから、ぶっちゃけおとなしく城に捕まっといた方がまだ安全ってこと。」
じゃぁ、私は・・・どうすればいいの?
逃げ場はない、しかも、もし一回でも帰りたくなくなったら、さんざん利用された揚句に殺される!?勝手極まりないこの世界の姿に改めてなんて目茶苦茶なところに来てしまったんだと頭を抱える。
思わず、泣きそうな目でチェシャ猫を見ると、ハッとしたようにこっちに寄ってきて、そっと後ろから肩を抱かれて、頭をポンポンとされる。
「ごめんごめん、ちょっと怖がらせた。大丈夫だから、アリスが帰りたくないと思ってればさ。それに帰る方法がないわけじゃないからね?」
「でも、・・・ずっと帰りたいって思ってる自信ないし。それに具体的な方法も分かんないんだから。」
自分でもびっくりするくらいに消え入りそうな声が出る。
私はこんなに弱かっただろうか。
最初来た時の後先考えずに城を飛び出してのけた自分はどこに行ったんだろう。
再び自分の情けなさに弱音が出る。
「もう、ほんとに嫌・・・・消えちゃいたい。」
「アリス、お願いだからそんなこと言わないで・・・僕までかなしくなるよ。」
頭をひねって、後ろから抱きついているチェシャ猫の顔を見ると、笑っているけどいつもの笑顔とは違うホントに苦しそうな傷ついたような表情をしていた。
「・・・ごめん。」
「いいよ、別に。実際、一番辛いのはアリスなんだから。」
そういうと、またいつもの飄々とした顔に戻る。
「・・・それで、さっきの話だけど、どうやって戻るの?」
「あぁ、そうだった。アリス、具体的な方法は分からないと言ってたけど、一つだけ戻る方法がある。
・・・『失くし物』を見つけるんだよ。」
は?
意外過ぎて思わず首をかしげて口を開いてしまった。
はたから見たらきっととんでもなく阿呆な顔をしていると思う。
その証拠に、後ろから誰かさんの噛み殺したような笑い声が聞こえる。
「・・・笑いすぎ、それより『失くし物』ってなに?」
「そのまんま、アリスの失くしたもの。
前の世界ではあったのにこの世界に来てからなくなったものだよ。」
・・・・あの~、チェシャ猫さん。
意味わからないんですけどぉ~。
大体頭の中にクエスチョンマークが100個くらいぐるぐるとまわっている気がする。
つーか、説明になってない。全く分からない。こいつ絶対先生とかなれないタイプだと思う。
そんなあたしの考えを読み取ったのか、チェシャ猫が苦笑して言葉を続ける。
「アリス、そんな、何言ってんのこいつ?、みたいな顔しないでよ。
えーっとね、要は、自分にとって大切なはずなのになんでか思い出せない事のことだよ。
『失くし物』の記憶は一般的に来た時にはなくなっていることが多いからね。」
「え?それって・・・記憶なくなってたら見つけられないんじゃない?『失くし物』。」
果てしない矛盾だと思う。
この世界は、来た時さえ意味がわからなかったのに、帰る時もむちゃくちゃだ。
『アリス』の人達をいじめているとしか思えない。
「うん、だからちゃんとそれを見つけるためのヒントがあるんだよ。」
「ヒント?どんなヒント?絵とか文字とか?」
私がそういうと、チェシャ猫は、うぅん、と言って言葉を続けた。
「それは、僕たちの名前。僕たちの名前を一つ知るたびに、
アリスの『失くし物』の記憶が戻っていく仕組みになってるんだ。」
「・・・はぁ、それは・・・・また面倒くさいわね。
でも、あなたたちの名前ってチェシャ猫とかじゃないの?」
「うぅん、それは役名。僕たちは自分の役目にあった役柄の名前を持っているんだ。ほら、アリスを惑わせる『白兎』、首を狩るのが大好きな『女王』とかがいるだろう?それが役名だよ。本当の名前はそれとは別にある。アリスはその役目持ちの名前、それもアリスの『失くし物』に関して情報を持っている人の名前を知らなきゃいけない。」
「どうやって知るのよ。ホントに参ったもんだわ、こんな無理難題を出すなんて。
第一その私の『失くし物』のことを知っている人が誰かもわからないのに。」
ホントに、冗談じゃなくて嫌気がさす。
これじゃぁ、その名前をすべて知るまでに私のほうが寿命が尽きて死んでしまいそうだ。
ハァー、っとため息をついて途方に暮れていると
チェシャ猫にいきなり息ができないほど強く抱きしめられた。
「ちょ・・・くるし、何すんのあんた。」
ホントにしぬ。
そう言葉の後ろに小さく呟くと
ふっと少し体を拘束していた力が緩む。
それと同時に聞こえてきたか細い声に思わず自分の耳を疑った。
「・・・アリス、僕が守るから。命にかけても。
だからお願い笑って?アリスのそんな顔見てるの辛い。」
・・・・こいつは、なんでそんなことを心配してくれるのだろう?
なんでそんなに泣きそうな声で私に、笑え、と頼むのだろう。
――――――なんで、命をかける、なんていうのだろう。
そう思った瞬間、私はチェシャ猫の手を振りほどいて
いつの間にか、彼に向って叫んでいた。
「・・・っ、私だってあんたのそんな声聞きたくないのよ。第一命かけるとか何?私はあんたにそんなこと頼んでないわ!私に笑ってほしいなら、あんたも本気で笑うくらいしなさいよ!いっつも泣きそうな顔したかと思えば、へらへら笑って、そんなんで私のこと騙せるとでも思ってんの!?冗談じゃないわ、作り笑いなんかすんじゃないわよ!!簡単に命かけるとか言うな!!ルキはどうすんの?あんた仮にもあの子の兄貴でしょうが!!あんたが死んだら私もう一生笑ってやらないから!!一生泣いて泣いて泣きまくってやるんだから!!・・・・分かったらいい加減その気持ちの悪い笑顔やめなさい、私の前ではそんな顔しないで、本当のあんたでいなさい、じゃないともう口聞いてやんないから!!」
叫び過ぎて、最後は声がかすれた。
我ながら笑える。
ホント支離滅裂だ、多分こいつはこんなことじゃ変らないと思う。
だけど、無性に悔しくなったんだ。
本当の自分を見せてくれない目の前のこの人に。
だけど、チェシャ猫は、数秒ポカーンとした後、
それはもう見惚れるほど鮮やかに微笑んで
「ありがとう。」
と言って
私をまた抱きしめて
「・・・ずっと、ずっと、誰かにそう言ってほしかった。」
肩を震わせて声もなく泣いた。
そうして、暫く私の肩に顔をうずめた後、小さな声で
「アリス、僕の本当の名前は『ルカ』って言うんだ。」
名前を教えてくれた。
ねぇ、やっと本当のあなたに出会えたね。
久しぶりです、相変わらずな作者です。
最近もう更新スピードがカタツムリより遅くなっているので読者の皆様には誠に恐れ入ります。あ、でも書きたくなかったわけではありませんよ?書く暇がなかったんです(泣)
勉強も勉強、テストもテストで予習復習大変なの何のって!!
受験生の皆さん、高校生にあこがれてはいけません。一番楽なのは中学ですよ。
残り少ない日々を楽しんでくださいね♪
では、無駄話もここらへんで、読んでくれてありがとうございます。
ではまた次回(^.^)/~~~